お姉さま、もういらない。
前作『お姉さま、それちょうだい?』(https://ncode.syosetu.com/n6742fs/)の妹編。
三本お題『尊大』『シリアス』『泣き落とし』から、
『傲慢で強欲な妹が号泣した話。前作よりまとも?』に仕立てました。
まとまりは安定の微妙だし、後ろ指さされる覚悟はできてない。生温かく笑ってください。
私と姉の関係は「奪う者」と「奪われる者」である。
それは幼少期から変わらない。
「お姉様、もういらない。あげる。」
手の平には王太子の証・紋章印の指輪。
傲慢で我儘な第五王女は、今日もにんまりと哂う。
◇◇◇
大変失礼だとは重々承知しているが、私は幼き頃より優秀であった。自慢である。えっへん。
何故なら、本質を見極めるスキル『鑑定眼』の保有者で、気がついた時には使いこなしていたあたり、私は非凡と言えるだろう。
すると、どうなるか? 答えは簡単である。
妬まれ、疎まれ、気味悪がられ、排除されそうになる。継承権もあるから余計に。
まぁ、一流の王族なのだから僻み嫉みは仕方あるまい。持つ者は持たざる者から羨まれるのは世の常である。甘んじて打ち返そう。
リターンエースもドロップショットも得意である。
逆に二流の王族もいる。例えば八歳年上の同母腹の姉である。
王位継承権第一位とはいえ、いつもにこにこほわほわしてて、成長率も私に比べて遥かに劣る。
私のような一流王族の妹を持つのだ。姉には頑張って一流王族を目指してもらいたい。
そんな姉から好きなようにモノを奪い、飽きたら押し付けることは、私の趣味である。
『歳の離れた同母腹の妹』である特権を活かし、「おねーさま、ちょーだい」をするのだ。
◇◇◇
最初に奪ったのは、私が生まれて3カ月後であった。
王位継承者が増えたことが目障りなのか、度々刺客の訪れがあった。
もちろん一流王族の私は『鑑定眼』で御見通しである。部屋とその周辺を鑑定し、危険人物が近づこうものなら、反射的に大音量の警告音をかました。
スキル『カウンター』の開花である。
すぐさま護衛達によって刺客は拘束され、無事を確認する母を一人占めしてやろうかと思った…が。
「おかあさまぁ…赤ちゃんだいじょうぶ?けがしてない?」
「んあーぅー(これしきのことで怯えるでない、世話が焼ける)」
「えぇ、無事よ。ほら。だっこする?」
「うん。わたしのいもうと…ちっちゃい…かわいー」
泣きそうな姉に手を伸ばして催促すれば、危なっかしい手つきで私をだっこし、子守唄を歌いながらゆっくり揺らし…何故子守唄でコブシをきかせる?
フフ、まだ二流王族故、この程度のモノしか差し出せないのだろう。一流王族は心が広い。拍の取れないビブラートも聴いてあげるし、おでこコツンもぎゅーもさせてやるぞ。
愛情たっぷりのヘタクソなだっこはクセになり、乳母が交代しようともぐずって拒否。姉から体力と時間を奪い、満足した私がにぱっと笑えば、姉も嬉しそうに笑う。
うむ、苦しゅうない。存分にされよ。
姉の笑顔は私の御褒美である。
◇
そんな姉から笑顔が奪われることがあった。母が襲撃されたのである。
「だぁー!まんまんまー!(スキルを持ちながら救えぬとは、一流王族にあるまじき失態!)」
「ぱーぱーぱー!!(なんという屈辱!!許せん!許せんぞ!!)」
当時生後7カ月。喃語しか言えぬ舌が恨めしい。
悔しくて泣きやまぬ私を、母の代わりにだっこし、ぎゅーっと愛情を与えてくれたのは、二流王族の涙顔だった。
「おねーさまがついてるからね。あなたがさびしくないよう、がんばるからね。」
…二流の姉から奪っていいのは、一流の妹たる私だけの特権である!しかも姉から母を奪っておきながら、姉を笑顔にできないとは何事だ!
一流とは奪った上で、幸せをもたらす者。それができないのは三流以下!
お粗末極まりない横槍に我慢ならない。
『鑑定眼』で得た暗殺者と依頼主の情報を保存した赤ちゃんボディの私は、いつか必ず一撃を返すと紅葉サイズの拳を握った。
この怒りこそ、『鑑定眼』と『カウンター』の可動範囲を、城全体まで広げるエネルギーとなった。
スキル『魔改造』の開花である。
◇◇◇
成長するにつれ、気が付いたことがある。
王位継承権第一位である姉の方が、刺客や危険物の持ち込みが多いのだ!
当然と言えば当然であるが、一流王族を自負するのに二流王族よりも回数が少なく、やってくる刺客や危険物のレベルが並とは、私のプライドを傷つけた。
はっきり言って面白くない。暇である。
そこで考えた。物足りないなら、姉から奪えばいいのではないか!
スキル『鑑定眼』と『カウンター』の対象者を『私』から『私と姉』へ変更すれば、早速『有毒物』反応があったので、姉の所へ突撃する。
「おねーしゃま、しょのリボンしゅてきでしゅわね!ちょーだい?」
「よろしくてよ?あ、ちょっと待って、安全確認するから…」
「もらいまー!」
「ま、まってぇ~!」
リボンに仕込まれた針を即回収し、成分を整え、適切な場所にチクっとするよう持ち主に返してやる。
この頃には『鑑定眼』に『効果的な反撃一覧』や『斜め上位変換』等の魔改造が施され、カウンターで一発お見舞いするまで最適化した。
翌日異母兄がベッドから起き上がれないと騒ぎがあった。麻酔針ごときで五度寝常習犯になるとは、三流王族には「あと5分…」程度の幸せがお似合いである。
姉は気付薬を用意した。
またリボンは針を隠すためかゴテゴテしてて、はっきり言って趣味が悪い。
二流王族の姉といえど、こんなブサイクアイテムを視界に入れるなどありえない。
「はしゃみ!」
「はい。」
「いと!」
「はい。」
子守メイド達が見守る中、鮮やかな針仕事を見せつけ、精緻で立体的な花のヘッドドレスへ改良し、ついでに姉をイメージしたビーズワークもした。終わった頃には拍手喝采である。一流王族ならこのくらいできて当然。
「おねーしゃま。このリボン、もぉいらにゃーい。あげるー」
「あら?もしかして作ってくれたの?ありがとう。」
「ムフフ~」
ヘッドドレスを着けた姉は私の見立てとおり、一流王族に相応しい品のある装いになった。
私の手作りアクセに感動して喜び、ぎゅーっとハグする姉。母の分までたっぷりの愛情はクセになる。
姉から問題だらけの贈答品を奪い、姉に似合うモノへ改良し、満足した私がにぱっと笑えば、姉も嬉しそうに笑う。
うむ。苦しゅうない。存分にされよ。
姉の笑顔は私の御褒美である。
◇
姉の周辺には、表から来る不審者もいれば、裏から来る暗殺者もいる。
物品の返礼と改良が片手間で済み、早々に暇になった私は、姉の危険なお客様をもてなす権利も奪うことにした。
人の場合、物と違って動きがランダムであり、今夜も『暗殺者』反応があったので、姉の所へ突撃する。
「おねーさま、さみしぃでしょ!いっしょにねてあげるー」
「よろしくてよ?あ、ちょっと待って、安全確認するから…」
「おいでまー!」
「ま、まってぇ~!」
持ってきたカメのぬいぐるみを姉の背後に投げつけ、暗殺者が転げ出たところへ、鑑定眼で出てる印を隠し持った特製ステッキで突く。
この頃には『鑑定眼』に『予測行動とハメ技◎』や『生き恥悶絶ポイント☆』や『魅惑のツボ★』等の魔改造が施され、カウンターで一撃入れるまで最適化した。
「じんせいうらない!みわくのツボ★ とりゃ!」
「ヒアーーー!!」
「『半凶』 ざーんねーんでーしたー。あはははは!」
「まぁまぁ。レアキャラさんねぇ。」
騒動に気付いた護衛達に、はふんはふん悶える暗殺者を拘束させる。
二流王族の姉では情報を得るまで時間を要するだろうと、出自から依頼主と弱点と嬉し恥ずかし黒歴史にカワイイ性癖まで、懇切丁寧に教えてやる。
暗殺者は「くっころ…!」と別の意味で悶え、拘束作業中の護衛達は顔を青くして「公開処刑…」「おっかねぇ…」と呟いていた。
姉は調教方法をメモして軍部へ渡した。
このキーワード『人生占い』と『魅惑のツボ★』を突く動作をした時、魔改造スキルも連動し、結果が『凶』以下は素質に問題有で論外、『吉』以上はある種の有益な才能有で下僕になった。
以前も挙動不審な事務官に試したら『大大吉』が出て、従属契約と素質特化の英才教育を施し、数カ国語どころか、方言も暗号も隠語もシモ用語も古代語も動物の鳴き声もたまにオヤジギャグ(寒)もかますハイパー語学補佐官へ仕上げた。一流王族ならこのくらいできて当然。
「おねーさま。この事務官さん、もういらなーい。あげるー」
「あら?もしかして育ててくれたの?ありがとう。」
「ムフフ~」
言語マスター補佐官を得た姉は私の見立てとおり、一流王族に相応しい主人であった。
私のエリート人材育成に感動して喜び、ぎゅーっとハグする姉。母の分までたっぷりの愛情はクセになる。
姉から危険なお客様を奪い、姉に役立つ下僕へ魔改造し、満足した私がにぱっと笑えば、姉も嬉しそうに笑う。
うむ。苦しゅうない。存分にされよ。
姉の笑顔は私の御褒美である。
◇◇◇
さて、そんな姉も王太子になる前に未来の王配を選定した。
先に言おう。家柄自慢な三流貴族は不要。特技が半端な二流貴族も不要。
そのため、残念な子息は速やかにお帰りいただいた。往生際の悪い子息は「家に帰って乳母のおっぱいでも飲んでな!」と、オブラートに物理的に包んでお帰りいただいた。たまに魔改造もした。後で役立ってもらう。
残ったのは、姉の幼馴染である公爵家の次男。
「長い説明をどうもありがとう。良く理解できたよ。」
「うむ。お姉さまの笑顔がいかに素敵かわかってくれたか。」
「異議あり。彼女が素敵なのは全部だ!そして妹君の本音と表現の差が激しい!」
「あらあら。この独特のテイストがたまらないんですよ?」
「…なんという守備範囲の広さ…」
「うふふ~」
青空のお茶会にて、姉の婚約者殿が持参したお手製惣菜マフィン(チーズの塩味が絶妙)を、もぐもぐする姉を愛でる。
毒味不要の食事と安心感。嬉しそうな笑顔。幸せそうな笑顔。御褒美である。
楽しそうに眺めてる婚約者殿の鑑定結果は、『小さな口で一生懸命もぐもぐして、美味しそうに食べてくれる未来の妻(キャッ☆)の姿は、料理人にとって最高の誉です。すき。』という長文が出た。
「しかし、どうして僕が選ばれたのかがわからない。」
「三点。スキルに『料理男子』があったこと。王位ではなくお姉さまを大切にしてくれること。お姉さまと尊重しあえる人柄であること。以上。」
「…てっきり容姿か武術面かと思ってた…それくらいしかないのに…」
「ハリボテで一流王族が務まるか。人の上に立つ者は多方面で判断されるぞ。」
婚約者殿が整った容姿をしているのは事実である。騎士団で剣術・体術も判断力・頭脳戦も高く評価され、野宿でのアウトドア料理が好評なことも。
大事なことは、姉を笑顔にしてくれるかどうか。
「不安ならば『魔改造』してやろう。どんな変態がお好みか?晒すか?縛るか?被るか?」
「その謎の選択肢はやめてくれ!あと未成年の淑女がいやらしいこと言ってはいけません!」
「フフ…童貞少年はかわいいのぅ…」
「暴露ヤメテー!」
「あらあら。でも、あんまり高尚な趣味だと、私が期待に応えられるかしら…程々にしてあげて?」
「はぁーい」
「変態前提もヤメテー!」
◇
姉の笑顔は私のご褒美… の前に、はて?姉の鑑定に『注目!』のメッセージが出た。
出元は先日、王太子位授与時に父王から譲り受けた継承者を示す指輪。王家の紋章が施されたシグネットリングは、女性の華奢な手に対して大分ゴツイ。
「お姉さま。その指輪、気になりますわね!ちょうだい?」
「よろしくてよ?どうぞ。」
「本の貸し借りみたいに気軽でびっくりだな~国宝なんだけどな~」
姉はにっこり笑うとすんなり指輪を外し、私の掌にころんと載せる。指輪をくるくる回して、鑑定眼を発動させると、ははぁ…
「ハッピーチャンス!秘密のツボ★ えい!」
バキィ
「は?!」
「あら?」
側面の一点を突くと、紋章部分が蓋のようにぺこんと開いた。中に埋め込まれていたのは小さな石。
「ん?エメラルドとルビー?小ぶりだが高品質だな。」
「私達の誕生石ですね。お母様が用意して、お父様が入れたのでしょう。」
にこにこしていた姉が息を呑み、笑顔が消えた。
鑑定詳細を伝え、紋章部分を軽く閉じて指輪を返すと、姉と婚約者は城内へと戻って行く。
あの指輪は、城中の秘密部屋の鍵でもある。先程の鑑定結果から、王妃派に処分されぬよう父王が密かに隠した母の思い出を探し出すだろう。
その中には姉宛ての最後の手紙もあるようだ。
今夜は一晩中泣いて、婚約者殿に慰められて、甘やかされて、元気づけられるだろう。
メイドを呼び、婚約者殿の部屋を準備させる。空気の読める私は、ヒーローの舞台も演出してあげるのだ。一流王族ならこのくらいできて当然。
「…おねーさま、涙はもぅいらなー… あ。」
姉の泣き顔はいつぶりか?
最後に見たのは母を亡くした雨の日…そう、涙をためた姉の姿を思い出した。
「おねーさまはずっといっしょにいるよ?お母さまとやくそくしたの。
あなたが大きくなって、すてきなレディになって、たくさんたくさんしあわせになるまで、おねーさまがまもるよ。」
母の葬儀では王家を継ぐ者として一滴の涙も許されない立場。
私をだっこし、あやしている今は、姉妹ふたりきり。
「だから…今だけは泣いてもゆるして?
だめなおねーさまでもゆるして?
明日からはちゃんとするからぁ…!」
窓を打つ風は遠くの雷鳴を運ぶ。カーテンがひかれた薄暗い子供部屋で、ぎゅっと抱きしめられ、抑えきれない哀哭の声を聞き、果てることを知らない大粒の雫達を見た。
姉が泣き切るまで私も共に泣こう。大人達はぐずる私に姉が困ってると思うだろう。それでいい。
泣き終わったら、姉の笑顔の為に生きよう。そう決心した。
忘 れ て た !! ←ココ問題
「フフフ…お姉さま、まだ、返せませんわ!」
母の襲撃犯と依頼主御一行様に一撃をお見舞いすべく、仄暗い嗤いを浮かべながら、ゆらりと立ち上がった私の後を、ピンクな侍女とBLな護衛官が続き、ニュウドウカジカな隠密頭を呼ぶ。
多くの下僕達が動き出した。
姉の即位記念だ。まだちょっかいを出してくる五流王族も五流貴族もその手足も、まとめて派手に『極上返礼』して差し上げよう。
成長した一流王族の本気を見せてやろうではないか!
◇◇◇
「お姉さま。これ、もういらなーい。あげるー」
数年に渡り、最初の一撃返礼から芋づる式に捕縛した害虫と、大量の不正・犯罪・その他諸々の証拠類と、あはんうふんでえへんおほんな魔改造済み下僕リストとともに、改善案・人事案・本稼働までの中継ぎ案を、その都度姉に返した。
大貴族や有力者の失脚は国を揺るがす。不足を補い、民を守り、国を豊にできる者達は、教育済みでスタンバイOKの大サービス。一流王族ならこのくらいできて当然。
「あら?もしかしてまとめてくれたの?ありがとう。」
「ムフフ~」
「まぁまぁまぁ…!じゃぁ、ちょっとお片付けしてくるから、そしたらお茶にしましょう?」
「はぁーい」
鋭い指令を的確に出す姉は私の見立てとおり、一流王族に相応しい『指導者』になった。
私のちょっぴりお転婆なわがままを「すごいわぁ~でも無茶はだめよ?」と感動して喜び、ぎゅーっとハグする姉。母の分までたっぷりの愛情はクセになる。
姉から国の害虫を奪い、姉が好む国の糧に魔改造し、満足した私がにぱっと笑えば、姉も嬉しそうに笑う。
うむ。苦しゅうない。存分にされよ。
「お姉さま、その役人さん面白いですわね!ちょうだい?」
「よろしくてよ?どうぞ。」
姉の笑顔は私の御褒美である。
★お姉さまの『あらあら。ちゃんとクリアできたかしら?』チェック★
傲慢 →天高くそびえ立つ一流王族な物言い
強欲 →雑も暇も横槍も許せないし許さない
号泣 →ギャン泣き(警告音)とぐずり泣き(おねーさま付)
前作よりまとも? →当社比による…(効果には個人差があります!)
※小話…(・ω・)b え。