第1楽章 第2話~開戦! VSジャズ学科~
2日後の朝。
教室は模擬CCB戦を直前にしてあわただしくなっていた。皆前日に試験を受けて準備完了なので今は本番の演奏で良い動きを出来るように音出しをしている。
『テストどうだった?』
『あんまりよくなかった……お前は?』
『俺もだ。こうなったら演奏勝負だな』
『ああ。しっかり音出ししておこうぜ』
みんな試験の出来が悪かったみたいなので技術力をメインで戦うしかないようだ。うう……でも僕は特に出来が悪い。ただでさえ苦手な勉強なのにCCBの過去の試験問題がかなり難しかった。……悩んでいても仕方がないか……僕も音出しをしよう。
「火鳥……おはよう……」
「おはよう火鳥君」
「あ、黒木先輩と笛木先輩。おはようございます」
楽器を取り出して音出しをしようとした時、背後から声をかけられる。声の主はクラシック学科2年生で学科第2位笛木美完先輩と学科3位の黒木刹那先輩だ。
笛木先輩は切れ長の目にさらさらとした黒長髪。物静かな雰囲気を醸し出しており、黒縁の眼鏡を掛けている。どこかのお嬢様みたいな……というか実際お嬢様らしいんだけどね。
黒木先輩も笛木先輩同様にクール系な女性で見た目は笛木先輩に少し似ている。吹奏楽学科に一個したの妹さんがいるらしい。
ちなみここにいる笛木先輩と黒木先輩、そして角貝さんはクラシック学科三大美女と位置づけられており、今年度の告白回数は学科内外合わせて100を超えた。
「今回の模擬CCB戦……あなたの力に期待がかかっているわ……」
「ありがとうございます笛木先輩!」
低い声で声量の小さい笛木先輩だが、その激励を僕は聞き逃さなかった。クラシック学科の次期コンミス候補の、しかもクラシック学科三大美女笛木先輩にそんな事を言われてうれしくない男はいない。事実、周りの男たちの刺すような視線が痛い……
「ジャズ学科かぁ……私はポップス学科と戦いたかったんだけど……」
「え? 黒木先輩はポップス学科に知り合いがいるんですか?」
「ふぇ!? い、いや……! 別に……!」
「???」
急に顔を真っ赤にして焦る黒木先輩。一体何事だろうか?
「おはよう諸君!」
と、ここで勢いよく教室のドアが開き、虎獣先生が入ってくる。
「さて! 10分後に我がクラシック学科対ジャズ学科の模擬CCB戦が開戦する! 気を引き締めていけ!」
「「「おおおおお!!!」」」
虎獣先生がクラス全体……いや、外まで聞こえるんじゃないかと思えるほどの重低音の大声でみんなを鼓舞する。
「音楽知識の点数も技術力の点数も正直どっこいどっこいだ! 苦戦は免れないぞ! だが相手もこちらと同じくCCB戦には不慣れ! 結局のところ条件は同じだ! ならば勝負を決めるのはお前達自身だ! 演奏力だ! やる気だ! 根性だ! 絶対に勝つぞ!」
『おお! 俺に任せな!』
『ええ! 絶対に勝ってやるんだから!』
『どっちの学科が上か証明してやる!』
虎獣先生の演説にクラス中の志気が一気に上がる。凄い……こんなの演奏会前の雰囲気じゃない。本当に今から戦闘に行くみたいな感じだ。これはこれで新鮮で初めて味わう気持ちで中々楽しい!
「あー……火鳥、角貝、黒木、笛木はこっちにこい」
そんな中、虎獣先生は僕ら4人を名指しで教卓まで呼びつける。なんだ?
「お前ら4人は別行動してもらう」
「え? 私達4人だけ別行動なんですか?」
「その通りだ角貝」
「理由はなんですか?」
「先程CCBの試験で得た点数を見させてもらったのだがお前たち4人が出たらすぐに終わってしまう可能性がある」
「「「え?」」」
僕ら4人は疑問符を浮かべる。まじか……そんなに僕ら4人はずば抜けて優秀なのか……。これは凄くうれしい。でも考えてみるとここに居るのはクラシック学科の学年1位から4位の生徒達だし、それも当然の結果だね。
「あ、一つ訂正する。火鳥を除いて3人ではすぐに勝敗が付いてしまう」
「僕のうれしさを返してください!」
ただ嫌がらせをしたかっただけじゃないのかこの人は……?
「ま、お前の実力ではすぐでないにしても他の者が何もできないかもしれんな……よし。火鳥。お前はここで少し待機だ。戦いが始まってしばらくしてから出撃してもらう。角貝、黒木、笛木の3人は俺の指示があるまでここに待機してもらう」
「「「はい!」」」
「それでは検討を祈る!」
虎獣先生は僕の肩に軽く手を乗せて教室を出て行った。よし! やってやるぞ!!
『それではただいまよりクラシック学科対ジャズ学科の模擬CCB戦を開戦します』
「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」
午前9時。ついに開戦を告げるアナウンスが鳴り響いた。それと同時にクラスメイトが一斉に楽器とブラティーノをもって教室を出て行く。
この学園は全7学科に3階建ての校舎が1校舎ずつ振り分けられており、全部で7校舎存在して、七角形の図形の頂点に各校舎が建っている。そして一辺一辺にあたる場所に渡り廊下があり、隣接する学科にすぐに行けるようになっている。クラシック学科とジャズ学科は隣の校舎同士のためすぐに交戦状態になるだろう。ちなみにその七角形に連なる校舎を囲うように演奏ホールが4か所と個室練習部屋100部屋を有する建物。さらには吹奏楽学科のマーチング練習用の校庭と体育館がある。その面積東京ドーム4個分! とにかく広い。
そして軽くだけどCCB戦の解説をしよう。
1、CCB戦の勝敗は相手を全滅させる『殲滅戦』と相手大将を撃破する『フラッグ戦』の二種類が存在する
2、楽器「ブラティーノ」の状態が0%になった場合は戦闘不能扱いとなり決着がつくまで除外される。
3、ブラティーノを操る曲は各自自由である。
4、楽器及び曲は一度に何回変えても構わない。
5、不正・反則が行われた場合は状態が0%でなくても除外される。
と細かいルールはまだあるが最低限覚えておいた方がいいルールで、今回は殲滅戦となっている。
「さて……戦況はどうなっているんでしょうね?」
僕はトランペットにバルブオイルを指しながらみんなに話を振る。みんなと言っても先程残れと言われた僕、角貝さん、笛木先輩、黒木先輩以外は誰も教室にはいない。まぁとりあえず暇だし、ここは会話でもして間をもたせよう。
「わからない……でも虎獣学科長の説明だと接戦になっているはず……」
「同じ学園で同じように学んでいるのだから、どの学科とも音楽知識も技術力も演奏力も大して差がなさそうだし、戦いは長引きそうね。はあ……ずっと待機であんまり出番がないのならポップス学科VS吹奏楽学科の模擬CCB戦を観に行きたいわ」
笛木先輩は目を閉じ精神統一をしながら、黒木先輩はリードを選びながら答えてくる。
「そういえば今の時間は全学科が戦っているんですよね?」
その横では椅子に座り、緊張からか少し挙動不審の角貝さんが質問してくる。
「うん。確かポップス学科VS吹奏楽学科、指揮学科VS作・編曲学科。リペア学科は午後に指揮か作・編曲勝った方と戦うみたいだよ?」
「さすが火鳥君! 物知りですね!」
「あ、ありがとう角貝さん……」
角貝さんに褒められて照れてしまい、思わず視線を外してしまう。うう……凄く嬉しい……
「技術力主体で戦うポップス学科にオールマイティな吹奏楽学科……。音楽知識主体で戦う指揮学科と作・編曲学科の戦い……。そして勝った方と戦うのは、少しでも壊れた瞬間からその場で修復し始めて戦うリペア学科……。なかなか良い組み合わせ……」
笛木先輩に言われてよくよく考えてみると確かに面白い組み合わせだ。丁度接戦になりそうなように組み合っている。あ、そういえば……。
「皆さんは来年度今いる学科に残りますか? それともCCB学科に行きます?」
この模擬CCB戦は元々来年度に開設するCCB学科の……CCBとは何たるかを体験してもらって興味がある人に入ってもらおうとしていうものだ。中にはこの模擬CCB戦を通じて来年度CCB学科に行きたいと思う人が出てくるだろうけど、とりあえず目の前にいるクラシック学科のエース達の意見が聞いてみたい。
「私は……前向きに考えている……」
「そうなんですか?」
「うん……私なりに2日間色々調べてみたけど凄い興味を持った……」
確かに笛木先輩にはピッタリかもしれない。笛木先輩は演奏技術もさることながら、授業中で発揮するリーダーシップや音楽知識。後輩などの指導などどれをとってもピカ一で、技術力のみで学科順位が決まっているので笛木さんの順位は2位だが、全部の能力を見てみるとぶっちぎりの学科一位だ。
全ての能力が問われるといっているCCBにはこの上ない人材だし、笛木先輩にはお似合いだ。
「黒木先輩はどうですか?」
「う~ん……私は……まだわからないわ」
「わからない? それは戦ってみてから考えるという事ですか?」
「ううん。聞いてから考える」
「へ? 聞いてから? 何を誰にです?」
「ううん。こっちの話だから気にしないで」
「???」
真意がわからないが、多分妹さんか両親に聞くのかな? まぁ何にしても黒木先輩はまだ迷っているようだ。そして……
「つ、角貝さんは……?」
「へ!? わ、私ですか!?」
僕が一番気になっているのは角貝さんだ。ぶっちゃけ笛木先輩と黒木先輩は年上だしなんとなく他人事だけど、同年代でしかも好意を抱いている角貝さんとなれば気になるのは当然の事。来年度CCB学科に行くなら僕は角貝さんを追いかける! とまでは言わないけど、かなり考えものだ。さて……どうなんだろうか……?
「わ、私は今のところはクラシック学科に残る気でいますよ!」
「そ、そう」
とりあえずその答えにホッと胸を撫でおろす。来年度も同じ学科で過ごせそうだ。
「でも……少し迷っています」
「え? それって?」
「私が本番に弱いのは知っていますよね?」
「う、うん」
入学してから数々の本番があったが、角貝さんはそのほとんどで失敗や体調不良などで良い成績が残せていない。だけど、普段の成績や技術力を考慮して、虎獣先生が学科第4位にしてくれている。だが、それを良しとしていない人達がいるのも確かだ。体調が万全ならば学科3位~1位のどれかに余裕で、文句なく入っていただろう。
「本番に弱いのは前からなんですけど高校になったら治ると思っていました。けど実際には何も変わりませんでした。ですから一旦クラシック学科から離れて違うことにトライしてみようかとも思っているんです」
なるほど。確かにクラシックだけっていうのも角貝さんにはもったいないかもしれない。彼女はクラシックだけでなく、よく吹奏楽学科の助っ人に呼ばれるほど様々な曲に精通している上に指導も上手いし頭も良い。そう考えると笛木先輩同様にCCBが向いているかもしれない。
「火鳥君はどうですか……? クラシック学科にいるんですか?」
「え? 僕?」
そういえば人に聞いてばかりで自分の事は考えていなかった。う~ん……僕かぁ……
「僕もクラシック学科に残ろうかと思っているんだけど……」
「けど?」
「僕の機械的演奏が一年とはいえ全く改善される気配がなかったんだよね。だからCCB学科っていう選択肢もあるけど、戦いでそれが改善されるとも思えないから……」
「ひ、火鳥!」
と、僕が言いかけたところで教室のドアが勢いよく開き取り乱した生徒が駆け込んできた。
「どうしたの!?」
「強ぇやつがいるんだが誰も手に負えないんだ! 火鳥! 加勢に来てくれ!」
「強い人!? わ、分かった! 今行くよ!」
僕は戦線へと移動すべく慌てて楽器とブラティーノを持って準備を済ませる。
「それじゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい……」
「気を付けて行ってらっしゃいね」
「火鳥君! 健闘を祈っています!」
「ありがとうございます!」
僕は3人に見送られ教室を後にし、前線へと急いだ。
『お! 火鳥が来たぞ!』
『火鳥君! 待ってたわ!』
『助かった! もう駄目かと思った!』
『頼むぞ火鳥!』
渡り廊下を駆け抜けると、そこは戦場だった。様々な見た目のブラティーノが、様々な曲によって操作され、互いに戦っているのだ。こんな光景中々……いや、CCBじゃないとお目にかかれないな。
そして最前線のみんなに合流すると待ってましたと言わんばかりに声をかけられる。僕1人の援軍にこんなにも反応するとは……相当苦戦しているみたいだ。
「戦況はどんな感じですか?」
僕はとりあえず目の前にいる一個上の倉田先輩に聞いてみる。
「はっきり言ってキツイわ。私達の残りは残り27人、相手は38人ってとこね。相手学科もこっちと同じ考えみたいで全生徒で一斉に来たみたい。総当たりで最初は拮抗していたんだけど相手の秘密兵器に相当やられちゃって……」
「秘密兵器……ですか? それってどういったものですか?」
「なんでもつい最近転校してきた女の子みたいで一年生にしてジャズ学科のエースらしいわ」
「ジャズ学科のエース……」
一体どういった女の子なんだ……?
「っ! 来るわよ火鳥君! 援護よろしく!」
「了解です!!」
そういうと倉田先輩はブラティーノに霊を憑依させ戦闘を開始する。先輩のブラティーノの容姿は西洋の甲冑を来た騎士のような装備に武器は槍だ。そして2人の点数が表示される。
クラシック学科 倉田喪部 VS ジャズ学科 水野千華
音楽知識 127点 音楽知識 106点
技術力 123点 技術力 145点
状態 100% 状態 100%
楽器 クラリネット 楽器 T・サックス
曲 魔弾の射手 曲 A列車で行こう
先に動いたのは倉田先輩の方だった。ブラティーノを敵に突っ込ませるが、その行動はあまりにも直線過ぎるため、簡単に避けられてしまう。
「こ……の……!」
倉田先輩は素早く体勢を立て直し、相手の方に向きを変え、再び相手に攻撃を出すが……
「痛っ! ああっ! 楽器に擦り傷が!」
相手の攻撃の方が先に当たった。その理由はいたって簡単で、相手の方が技術力が高かったからだ。技術力は霊のスピードに割り振られており、相手の方が速いというのがわかる。
「この……やったわね……!」
「痛っ! ああ! 私のサックスにも切り傷が!」
直後、倉田先輩は半ばやけくそにナイフを振り回し攻撃を当てることに成功した。そして再び点数が表示される。
倉田喪部 VS 水野千華
音 127点 音 106点
技 123点 技 145点
状 92% 状 87%
楽 クラリネット 楽 T・サックス
曲 魔弾の射手 曲 A列車で行こう
両者がダメージを受けたため点数が減少している。
攻撃を当てる事に関しては技術力の高い水野さんが有利。だけど敵の攻撃を耐え、より大きなダメージを与えるという点では倉田先輩の方が有利。
そう考えると音楽知識が高くても技術力が無ければ怖くないし、ただ硬いだけのサンドバックになる。技術力が高くても音楽知識が無ければ有効なダメージを与えられないのであまり怖くない。
確かに虎獣先生の言っていた通り、これを全て高水準にした上に戦闘力や戦略を練れるほどの人間になれば音楽家として完成された状態になるのもうなずける。そして2人は一旦距離を置いて向き合う。
「よくも私の楽器を……!」
「そっちこそよくもやってくれたわね……!」
「「ぶっ倒す!」」
お互いが自分の楽器を損傷されたためにらみ合う。う~む。確かに自分の楽器の傷の原因が「自分」でなく「他人」がつけたモノだと相当イラッと来る。それに2人はもはや殺気をはらんで相手と対峙している。これ、一応音楽の延長線だよね? コンクールでもこんな殺気見ないよ? 2人は凄い形相をしながら戦いを開始した。その後倉田先輩が攻撃を出し、相手も攻撃を出しという攻防が続き……
倉田喪部 VS 水野千華
音 127点 音 106点
技 123点 技 145点
状 44% 状 40%
楽 クラリネット 楽 T・サックス
曲 魔弾の射手 曲 A列車で行こう
やはり元々点数が近いもの同士だったために接戦となっているし、楽器は大分凹みや傷が増えてきた。先程までお互いの楽器は新品同様の見た目だったが、今はまるで使用歴20年は経過した中古楽器のようになっている。
「はあ……! はあ……!」
「ぜえ……! ぜえ……!」
それに2人ともかなり疲弊している。演奏時間にして5分ちょいしか経っていないが、きっとこれがただの演奏ではないからだろう。『初めてのCCB戦』『戦いによる肉体・精神・楽器へのダメージ』『緊張状態の持続』などのストレスが体力を奪っている原因だ。
『水野! 加勢するぜ!』
倉田喪部 VS 水野千華 & 坂本浩二
音 127点 音 106点 音 152点
技 123点 技 145点 技 162点
状 44% 状 40% 状 100%
楽 クラリネット 楽 T・サックス 楽 トロンボーン
曲 魔弾の射手 曲 A列車で行こう 曲 シングシングシング
そこへ加勢の人が参戦してきた。この坂本という人は全国の音楽知識・技術力の平均点がそれぞれ100点の中、全ての点数が150点以上なので中々の猛者と見て取れる。ただでさえ倉田先輩は消耗しているのに、なかなかの強敵がいる上に2対1のこの状況。……僕の出番かな。
「倉田先輩! 加勢しますよ!」
僕はチューニングのB♭の音を出す。すると楽器から霊が飛び出しブラティーノに憑依し形状を変えはじめた。僕は前に見たことがあるからそんなに感動はなかったけど、前に見た時と見た目が少し変わっている。
前は上半身は黒のタンクトップのみだったが、その上に羽織るように赤く波打っているガウンを腕まくりをして着ていて、腰にはマチェットナイフという装備が追加されている。これは前と違って点数が入って攻撃力と防御力が上がったからだろうか?
「いくよファイヤーバード!」
《うん! ぼくの力を魅せてやる!》
僕は話せて魂まである自分の相棒に「楽器」と呼称するのはなんだか物扱いをしているみたいで嫌だから、安直かもしれないけどメイナード繋がりで、彼の発明したスライドの付いたトランペットで『ファイヤーバード』というカッコいい名前を貰い、ファイヤーバードと命名して呼ぶことにした。
「ありがとう火鳥君! 期待しているわ!」
「こう見えて学科一位の技術力ですので任せてください!」
「行くわよジャズ学科! クラシック学科のエースの力! とくと見よ!」
「「くっ……!」」
そして僕の点数が表示される。
倉田喪部 & 火鳥無技 VS 水野千華 & 坂本浩二
音 127点 音 42点 音 106点 音 152点
技 123点 技 ―――点 技 145点 技 162点
状 44% 状 100% 状 40% 状 100%
楽 クラリネット 楽 トランペット 楽 T・サックス 楽 トロンボーン
曲 魔弾の射手 曲 ―――― 曲 A列車で行こう 曲 シングシングシング
「「「………………………」」」
その場にいる全員が、クシャミが出そうで出ないような微妙な顔で僕を見る。
「火鳥君……その点数は……?」
「ち、違うんですよ! テスト内容は『この作曲家の名前を答えなさい』とか『この楽器の名前を答えなさい』とかそんなのだと思っていたらもっと難しいのが沢山出てきちゃって……!」
『これが吹奏楽学科のエースの力……www』
『これがクラシック学科のエースの力……www』
「やめてぇ! そんな目で僕を見ないでぇ!!」
僕は音楽知識が低い。理由は知識や歴史といった事を一切無視して技術力を叩きこまれたからだ。その結果、表現記号・演奏記号・音楽の歴史、楽典といったものの知識がほとんど入っていない。うう……試験の出来が悪いとは思ったけど、ここまで低いとは思わなかった……。だからファイヤーバードの武器と装備が少ししか向上していなかったのか……
「よし! 水野ちょっと待ってろ! この空気君を倒してすぐに加勢するから!」
空気君って! それはおれがいてもいなくても変わらない点数だからって意味か!?
「くらえ空気君!」
坂本という生徒は手にした剣を僕のブラティーノに振り下ろして攻撃を仕掛けて来た。
「うわっ! 危なっ!」
僕はその攻撃を横に避け、手にしたマチェットナイフを突き立て相手に一発攻撃を加える。
「痛っ……くないな」
う~ん。クリーンヒットしたはずなのに全然ダメージが入っていないみたいだ。ま、僕の攻撃力が低い上に、相手の防御力が高いんだから当たり前か。
「ふん! これでも食らえ!!」
坂本君は振り向きながら手に持っている剣で僕に薙ぎ払い攻撃を仕掛けてきた。が、これはしゃがみ込んだ僕のブラティーノの頭上を通り過ぎていく。
「くそぉ……!」
今度は上から垂直に剣が下ろされるが、これも僕には当たらない。
「ちょこまかと……いい加減やられろ……!」
そう言いながら今度は体当たりを仕掛けてくるが、その攻撃に対して僕は体をひねらせていなした。
「なんで……だ……! なんで当たらないんだ……!」
坂本君が恨めしそうに言っている中、やっと点数が全て表示される。
火鳥無技 VS 坂本浩二
音 42点 音 152点
技 510点 技 162点
状 100% 状 89%
楽 トランペット 楽 トロンボーン
曲 熊蜂の飛行 曲 シングシングシング
「んな!? なんだその技術の点数は!?」
坂本君は僕の点数を見てかなり驚いている。まぁこの点数だから無理ないだろう。ジャズ学科にもいないであろうこの点数。どんなもんだ!
「今度はこっちからいくぞ!」
「は、速ぇ!!」
僕はフェイントを入れながら高速で坂本君のブラティーノに肉薄。頭・首・胸にマチェットナイフを突き刺す。一撃の威力がないなら手数で勝負だ!
「くそ! こいつのブラティーノ……! 凄いカクカク動くな……!」
坂本君に言われて気が付いたが、確かに僕のブラティーノの動きは何か変だ。その動きはカクカクと直角的な動きをしており、滑らかな動きとは程遠いもので、右に曲がるにしても角度90度を作るようにいきなり曲がるもんだから反応し辛い。
「これがみんなの言っていた無機質演奏なのかな?」
動きが堅く、ぎこちない。表現の無い無機質な演奏だからこんな動きをしているのかな……。だとしたらみんなが言っていたことを今、すこし理解できた気がする。これに気が付けたのはCCBのおかげか……。感謝だね。
「さて! それではとどめ!」
「ぎゃあああああああああ!」
いくら僕の攻撃が弱いとはいえ数十発もの攻撃を受けた坂本君のブラティーノはもうボロボロ。僕は坂本君のブラティーノの胴にマチェットナイフを突き刺した。
火鳥無技 VS 坂本浩二
音 42点 音 152点
技 510点 技 162点
状 100% 状 0%
楽 トランペット 楽 トロンボーン
曲 熊蜂の飛行 曲 シングシングシング
状態の項目が0%になった為、坂本君のブラティーノが力なくその場にひざまずき、ブラティーノに宿っていた霊が飛び出して楽器へと戻っていく。おお。これが戦闘不能状態か。よし! こっちは片付いたし……
「倉田先輩! 加勢しますよ!」
「ええ! ありがとう!」
そして僕はすぐさま倉田先輩の方へ加勢に入る。相手は既に消耗していたため特に苦戦も無くあっさりと倒す事ができた。
「くそぉ!」
「悔しいぃ!」
戦いに敗れた水野さんと坂本君はブラティーノを抱えながらその場を去っていく。
「やった! 勝った!」
「やりましたね倉田先輩!」
撃破した勝利を祝し倉田先輩とハイタッチを交わす。よし! 流れはこっちに……
『「「ぎゃああああああ!!!」」』
「「!?」」
直後前方からクラシック学科の人達悲鳴が聞こえる。
「……っ! 行きましょう倉田先輩!」
そうだ。まだ戦闘中だった。悲鳴が上がったという事はおそらくこっちの人がやられてしまったという事。急いで加勢しよう! 僕と倉田先輩は走り出す。
「まさか……負けたっていうの……?」
そんな中、倉田先輩が絶望にも似た表情を浮かべている。
「倉田先輩!? 一体何が起こっているんですか!?」
「私達が劣勢になった理由が目の前にいる強い子なんだけど……」
「強い子……さっき言っていた人ですか……?」
「ええ。ジャズ学科のエースで去年の途中くらいに関西から転校してきた女の子であなたと同じ一年生よ」
「ジャズ学科のエース……どれくらい強いんですか?」
「あまりにも強いんで高得点者3人を一斉にその子にぶつけたんだけど……」
「……それがさっきの悲鳴だったんですか?」
「ええ……」
高得点の先輩方3人を一度に相手にして……それはそれは……
「ん? 火鳥君……笑ってる?」
「ええ……少しだけ……」
「少しだけ?」
「燃えてきましたよ……」