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CCB~11人の異端児が奏でる協奏曲~  作者: ニコニコ大元帥
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第1楽章 第12話~秘密兵器 電盤響~

 僕ら4人は全力疾走で体育館へと向かい、入り口に到着した。重い入口の戸を開けてまず最初に飛び込んできた光景は……



黒木刹那     &  角貝弱優     &   笛木美完        

音   243点    音   264点    音    307点   

技   430点    技   400点    技    490点  

状    38%    状    21%    状     44%  

楽 クラリネット    楽    ホルン    楽    フルート  

曲         曲           曲  



「まじか!? この3人がここまでやられとんのか!?」

「おいおい……CCB学科のBIG3が……」


 正直目を疑った。このCCB学科が誇るエース3人がここまで削られているなんて思いもよらなかったからだ。


「来たかお前達!」

「豊音君!? 助けに来てくれたの!? ありがとう!!」

「危なかった……もう少しでやられるところだった……」

「すみません……! お手数おかけします……!」

「相手はどんな人!?」

「あいつだ。あのエレクトーンピアノを持っている奴だ」


 棒導君が指さす先にいたのは持ち運びが可能な二段式エレクトーンを持った女子生徒がいた。制服が違う……ということは彼女が虎獣先生が言っていた例の子なのか? カールしたショートヘアにスレンダーな体系で女性にしては背が高く僕より大きい。170はあるか? モデルさんみたいに可愛い。けどそれ以上に感じた第一印象が一つ。


「ただもんやないな……たたずまいが違う」

「こいつは……強そうなオーラだ」


 2人も気づいたようだ。そう。たたずまいが他の生徒と違う。僕が荒表や笑奏、笛木先輩とかに抱いたそれと同じだ。顔つき、姿勢、目力と様々な要素があるがこの人は相当できそうだ。


「3人とも! 時間を稼いで! その間に4人をリペアするから!」

「「「了解!」」」


 了解とは言ったものの相手はあの3人が苦戦したほどの人物。正直どんな戦い方をするかわからない。けどあの腕に巻かれた布はフラッグの証。ここは攻めた方がいいか。


「荒表! 笑奏! まずは僕が行く!」

「了解! サポートしたる!」

「気をつけろよ無技!」


「無技、荒表、笑奏……あなた達パンフレットに書いてあった元クラシック学科の火鳥無技君、元ジャズ学科の中策荒表さん、元ポップス学科の豊音笑奏君ね。OK。把握したわ」


 不敵な笑みを浮かべながらエレクトーンの電源をONにする女の子。把握した? 一体何を把握したんだ? 2人の点数が表示される。



火鳥無技      VS  電盤響(てんばひびき)  

音   43点       音    149点

技  580点       技     62点

状  100%       状    100%

楽  トランペット     楽   E・ピアノ

曲 チャルダッシュ     曲 チャルダッシュ



 僕より音楽知識高いけど技術は僕の方が完全に上だ。それどころか弱優さんが苦戦する要素がないんだけど?


「これはどういうことだ?」

「なんや? なんでこんなんに先輩方苦戦してたんや?」

「彼女の技術点はまるっきり嘘よ。実力的には……そうね技術点は400点は下らないわ」

「は? じゃあなんで表示されてる技術点があんなに低いんですか?」

「それはね……」


 と笛木先輩が話しかけたところで無線から顔性良の声がする。


『すまねぇ! もう抑えきれなくなってきちまって何人かそっちに向かっちまった!』

『ごめんねみんな!』

「了解! だったら敵がここに到着する前に終わらせる! 行くよ電盤さん!」

「あ! 待ってください無技君!」


 僕は演奏を開始。元が400点と言っても表示されている点数分のスピードしか出せないはず! 最高速でフェイントを織り交ぜながら電盤さんのブラティーノに素早く接近。一気に終わらせる!


「――――――――♪」

「っ……!?」


 しかし途中でブラティーノの足がもつれて壁に激突してしまう。なんだ!? どうして足がもつれた!? 今までこんな事一回もなかったのに! それに……


「……なんだ……! この気持ち悪さ……!」


 自分の演奏に全然集中できない。毎日欠かさず吹いている得意な曲なのになぜかいつも通りの演奏と違って違和感がある。相手が電子音で同じ曲を演奏しているから? 僕は電盤さんの演奏を耳を凝らしてよく聴いてみる。


「っ!? これってまさか!?」

「ええ。彼女は……」


 笛木先輩の言葉は僕が思っていた事と同じことだった。吹きなれている曲なのにこちらの操作が崩される理由は……



「彼女は不協和音で演奏しているのよ」



 そう不協和音だ。しかもご丁寧に音色をトランペットにしているし、左右両手の主旋、伴奏、ハーモニーに至るまで全部不協和音演奏かよ……!


「わかった火鳥君? だからこの子は手に負えなかったのよ!」


 黒木先輩の言う通りこれはちょっと手に負えない。見た瞬間からこの子は出来ると思ったけどまさかこんな形でできる子だったとは……!


「しかも無技君は普通の人より楽器との仲が良いですから操作の影響力が凄いはずです!」


 弱優さんの言うとおりかもしれない。シンクロ率が高ければ高いほど、吹き主がずれれば楽器との影響が大きい。


「へっへっへっ! 面白い相手やな! 次はワイが行くで!」

「おもしろい? 私の演奏が面白い? そんなこと初めて言われたわ……」

「あんたはクラシック専門とみた! ワイのジャズアドリブにはどう立ち向かうかな!?」


 続いて荒表が電盤さんと戦う。



中策荒表       VS  電盤響      

音     58点      音   149点

技    540点      技    62点

状    100%      状   100%

楽  A・サックス      楽  E・ピアノ   

曲  バードランド      曲 バードランド



「ぐ……! 操作が……!」


 おいおい! 荒表もやられてしまうのか!? コードを全部不協和音で演奏している上にアドリブまで不協和音で弾きこなしている。電盤さんはジャズにも精通しているのか……随分多彩な方だ。


『到着したぞ!』

『無事か電盤さん!』


 とここで運悪く何人かの増援が来てしまいフラッグである電盤さんを取り囲んでしまう。


「ちっ! 変われ荒表! 今度はおれがやってやる! 2人は周りの相手を頼むぞ!」

「あら……豊音君、あなたの相手はご免被るわ。誰か変わって」


 電盤さんは笑奏との戦いを拒み一旦後ろに下がる。あれ? どうしたんだ?


「あなたみたいに技術力が高いのに周りの音を聴かないで演奏しそうな人は私の天敵だからパスよ」

「褒めても何も出ないぜ!」

「むしろ馬鹿にされてるんじゃない豊音君!?」


 ここで再び無線が入る。


『すまねぇ! こっちは限界だ! 全員撤退させる!』

「ああ。こっちもダメそうだ。一旦教室まで引くぞ! 午前のCCBは12時まででそこから昼休憩に入る! それまで籠城して時間を潰すぞ!」

「「「了解!」」」


 笛木先輩達のリペアも大体済んだしここは棒導君の指示通り引いて午前中は時間いっぱいまで引いた方がよさそうだ!


「ほら2人とも! 引くよ!」

「きいいいい!! このままじゃ終わらんでぇ! 午後には汚名挽回させてもらう!」

「手を洗って待ってろよ電盤! 名誉返上してやるからな!」

「名誉挽回、首を荒って待っていろ、汚名返上じゃ……?」

「弱優さん……あの2人に真剣に突っ込んじゃダメだ」


 向こうは向こうでこの少人数でほぼ完治した笛木先輩達と戦うのは避けたいし、こっちはこっちでまた電盤さんの餌食には何たくなかったので、お互いに睨みあった状態のまま何とか僕らは体育館を脱出することができた。


「無技君……すみませんでした……」

「へ?」

「私、何も活躍できませんでした……」

「そんなに自分を責めないでよ。僕も電盤さんの前じゃ何もできなかったしどうしようもないよ。……でも」

「でも……なんですか?」

「少し燃えてきたよ……」






『ただいまより一時間の休憩となります。互いの学校は待機場所に戻ってください』


 その後僕らが取った作戦は教室の入り口には笛木先輩に黒木先輩、弱優さんにチーム「ワラワラ」を配備して、教室には一切侵入させないようにするというものだった。向こうは向こうで電盤さんがいない状態で挑んでも甚大な被害が出ることがわかっていたし、特に攻め込んでくることもなく時間いっぱいまで時間を稼ぐことができた。


「そういうわけです虎獣先生」

「なるほど……わかった。俺もさっき電盤について学園長から色々聞いたんだ」

「本当ですか? どんな人物なんですか?」

「名前は電盤響(てんばひびき)。今年度から2年生に上がったが母校が廃校となったため編入先を探している状態。CCBの平均成績は音楽知識150点・技術力60点。楽器はE・ピアノ」

「それなんですけど……技術力が60点ってのは変です……。私が聴いた感じ、タッチやなめらかさや表現力、不協和音だったにも関わらず凄く上手かったです……。感覚で言えば400点台……」

「私もそう思いました。ということは何かわけがあるんですか虎獣学科長先生?」

「その通りだ笛木、黒木。奴の祖父母に両親は電車の警告音や動物の嫌がる不協和音を研究、作成している人らしくてな。生まれてからずっと不協和音の中で生きてきたらしい」

「なんか壮絶な生き方をしてるのね……」

「あはは……」

「だからやつは不協和音をこよなく愛しているようで、CCBの実技試験で終始不協和音の幻想即興曲を演奏してしまって点数が低くなってしまったんだ」

「なんだそりゃ!? エガちゃんのテューバソロ並みに酷いな!」

「キエエエエ!? なんかひどくないか笑ちゃん!?」

「本人曰く『不協和音は人の意識を一気に引き寄せる力があるし、印象にも残る素晴らしい響きなんです!』と試験官に抗議を言ってきたらしい」


 電盤さんの主張は面白いな。不協和音をそんな風に捉えたことなかった。確かに不協和音は綺麗な音とは言えないかもしれないけど、人の意識を引き付けるにはもってこいの音だもんなぁ……


「だから学園長は電盤さんが欲しいんですね」

「でしょうな大坪先生。あの人はそういう個性的な生徒が大好きですからね。それにほっとけないんでしょう。ま、何より彼女は強い」


 虎獣先生の言う通りでこの身をもって味わったが彼女は異色の戦闘スタイルだ。

 弱優さん達をはじめクラシックを専門にしている人やジャズの荒表、楽器とのシンクロ率が高い僕も電盤さんの不協和音演奏の餌食になった。彼女に対抗できるのは笑奏のように周りの音を聴かずに音楽に没頭できる人だけど、全国クラスの学校の人達はきっと周りの音をしっかりと聴いて演奏するように練習しているだろうから電盤さんを攻略できる人はそういないだろう。


「おい棒導。一つ良いか?」

「なんだ薬座」


 そんな中、顔性良が棒導君に声をかけるながら歩み寄ってきた。


「そこにいる笛木さんや角貝はオメェと本部に待機だったはずだ。なんで体育館にいたんだ?」

「あ、それは思った。作戦だと本部待機で前線の僕らが危なくなったら援軍を……みたいなはずだったのに」


 実際には彼らは相手の本部にいて電盤さんと戦闘をしていた。


「オメェ……オレらを騙したのか? まるで扱いが捨て駒だな?」


 しばし沈黙のあと棒導君が口を開く。


「…………俺の作戦ではお前達が前線で大人数を相手して本部が手薄になった頃に角貝達の3エースでフラッグの電盤を叩いて決着がつくというものだった」

「なんやて!? んなこと言ったら顔性良の言う通りワイらただの捨て駒やんけ!?」

「ああ、そういっても刺し違えない」

「ああ!?」


 棒導君は何の躊躇もなく言い切った。こ、こいつ……!


「何も知らされてない俺らは前線で戦って時間稼ぎをさせられてたってことか」

「んでここまでやったのに作戦は失敗したってわけかいな棒導?」

「………………」

「「この野郎……!」」


 笑奏と荒表は拳をプルプルと握りしめて今にも棒導君に殴りかかりそうな勢いだ。そこへ弱優さんと笛木先輩、黒木先輩が立ちはだかる。


「棒導を責めるのは良くない……この作戦は私達が承諾したこと……敵を騙すにはまず味方から……」

「そうよ! 私達は作戦に乗るか乗らないかを聞かれて乗っただけだから棒導君は悪くないわ!」

「作戦自体は良かったんです! 私が電盤さんを撃破できなかったのがいけないんです!」

「「「ぐっ!」」」


 言われるとそうかもしれない。相手が電盤さんでなければ撃破してこちらの勝利で終わっていた。そう、作戦自体は良かったのだ。しかも弱優さん達の言い分だとこの作戦を黙っていたのは弱優さん達からの提案でしかも従うか従わないかも自分達で選んだことらしい。


「いいんだお三方。作戦を立てたのは俺だし、結果として味方の信頼を損ね、作戦失敗も俺のせいだ」


 そういうと棒導君は地面に膝をつき両手も床につけ頭を深々と下げる。


「すまなかった!」

「「「!!」」」


 土下座。深い謝罪の意を表す場合に行われるものだが、棒導君……そこまで思っていたのか。


「…………んで? 午後からの作戦は?」

「え? 顔性良君? 今なんて言った?」

「だから、午後からの作戦だよ。このまま無策に行っても負けるだろ? なんか策はないのか?」


 顔性良の口から出た言葉に戸惑う僕ら。今の今まで僕らを捨て駒使いした棒導君に再び指揮をとらせようというのか?


「ま、人使いはともかく作戦は良かった。ここは事実だ。去年度も色々あったがそこは認めてるよ。だからこの状況で勝てる作戦でも作ってくれや」

「薬座……俺を許してくれるのか?」

「そうだな……まだ許さねぇな」

「は?」

「このCCB戦に勝ったら去年度の事も許してやるよ」

「……へっ! わかったよ」


 そう言い互いに握手を交わす棒導君と顔性良。カッコいい絵面だ……。男の友情って感じだ。


「薄い本があつくなる展開ね。誰か2人のカップリング本描いてくれない?」

「「「お前のせいで台無しだよ!」」」


 黒兎さんの発言でギスギスした教室の空気が一気に緩んでいく。はぁ……なんだか怒鳴ったらイライラがどこかに吹っ飛んでいったよ。


「さてそれじゃ! 作戦頼むよ棒導君!」

「狩られる豚扱いは勘弁やで!」

「従うぜ棒導!」

「ああ! よろしく頼むぜ!」


 こうして再び作戦が開かれる。





「やれやれ……一時はどうなるかと思ったが……」

「そうですね虎獣先生。上手く回り始めましたね」

「棒導はあの通り成功するためならどんな手段にでも走るところがあり、少々危険だと思いましたが今回のCCB戦で少し変わってくれそうです」

「ふふふっ! 学園長もお喜びになりますね!」

「はははっ! というより学園長はこうなることを見越していたかもしれません。他のメンバーもCCBを経てそれぞれの問題を解決し、更なる高みを目指してほしいものです」

「そのためにも私達教師がサポートしなくてはなりませんね! あ、早速呼ばれてますよ虎獣先生!」

『おーい! レスラー! こっちに来て作戦を立てましょうぜ!』

『いちゃついてないで来てくださいよ!』

「馬鹿者! いちゃついてなどおらんわ! あとレスラーと言ったのは誰だ!?」

「ふふふっ! 楽しくなってきました!」





「さてと、どういった作戦で行こうか?」


 教卓の前で黒板を背にして生き残ったメンバーと作戦会議が開かれた。先程とは違い棒導君が僕らに呼び掛ける。今度はみんなの意見をしっかりと取り入れるもののようだ。


「エガちゃんなんてどうだ? 周りの音を聴かない上に攻撃力が高いから電盤にはいいんじゃないか?」

「いや、それも考えたんだが一騎打ちになった時に技術力の差でやられてしまうだろう」

「なんだ。駄目だなエガちゃん」

「キエエエエ!?」

「と、なると笑奏しかおらんやんけ」

「そうだな。何とかして一騎打ちに持ち込めば行けるかもしれないな」


 この中で電盤さんの不協和音の影響を受けない且つ、純粋な技術力で圧倒できる笑奏が作戦の要になるだろう。


「となればわたし達の仕事は何が何でも一騎打ちの状況にさせるって事ね!」

「そうなるね」


 さあ次からが問題だ。どうやって相手を誘い出し、一騎打ちにするかの作戦を……



 ピンポンパンポン!



 と不意に学園のスピーカーからアナウンスが流れる。なんだろうか?


『午後の入学式で演奏予定の火鳥無技君、中策荒表さん、豊音笑奏君の3名は第一ホールにに集合してください。繰り返します。今呼ばれた3名は至急第一ホールに集合してください』

「「「あっ!!」」」


 すっかり忘れてたぁ! そういえば僕ら3人は午後に開かれる入学式で演奏するこになっていたじゃないか!


「どうすんのよ!? 豊音君がいなかったら作戦が成り立たないわよ!?」

「いや、それどころじゃねぇ。その3人がいなくなったらこっちの戦力が大幅ダウンだ。違う作戦をとろうとしてもきつくなるぜ」


 僕と荒表がいなくなるのもそうだけど、たった今話しに上がった笑奏がいないのはかなり痛い。……こうなったら……


「バックレる?」


 入学式の演奏会をバックレてCCBに出る。というのはどうだろうか? たった今だけの入学式か今後の事にCCBかと聞かれたら僕はCCBをとる!


「よしバックレよう!」

「せやな!」

「おう!」

「いいわけないだろう……」


 そんな僕達の発言をあきれた様子で聞いていた虎獣先生が呟く。


「一応言っておくがこっちの方が先に入っていた予定だからCCB戦だろうが入学式演奏会には出てもらうからな」

「そんな!? 今の僕らには入学式演奏よりもCCB戦の方が重要ですよね!?」

「気持ちはわかるが学園長にも言われているしな……。それにこの学園のスポンサーやお偉い人もお前たちの演奏を楽しみにして来ているからここで演奏をしないとそれはそれで学園が存続できないんだ」


 本当にこの学園は綱渡りみたいなギリギリの経営だな! もうちょっとゆとりがあってもいいんじゃないの!?


「ちっ! まずいな……3人が抜けちまったらこのCCB戦負けるぞ」


 棒導君が歯軋りをする。棒導君の気持ちはよくわかるがこればっかりはどうしようもない。けど何か手を考えなければ……!


「3人はいつ解放されるんですか先生?」

「えーっと……式が終わるまで居続けなきゃいけないから開放されるのは戦が終了する頃になりますね」


 式が終わるのはパンフレットによると16時だから午後の戦闘開始から3時間近く拘束されるということか……


「午前中同様この教室で籠るのはどうかしら……」

「楽器の状態が100%に治されているだろうから、今度は電盤も参戦して力押しで来るだろう」

「ならいっそのことこっちも玉砕覚悟で当たる?」

「そこの3人の戦力ダウン差が大きすぎるな。電盤にやられて操作が聴かない状態でみんなボコられて終わりだろうな」

「学校を逃げ回りながらちょっとずつ敵を減らしていくのは?」

「相手の方が人数多いから回り込まれて終わりじゃないか?」

「一体どうしたら……?」


 何をどうしても成功率は低い。何かいいい手はないだろうか?


「…………あ。思いついた!」

「? 無技? 何か思いついたのか?」

「うん! 思いついたよ!」

「どんなの……」

「簡単なことだったよ。…………で…………で…………すればいいじゃん!」

「「「………………」」」


 僕の作戦を聞いたクラスメイトはみんなは凄く驚いた顔をして僕の顔を凝視していた。


「なるほど……まったくオメェはスゲェよ無技」

「だってルール違反じゃないでしょ?」

「ちょっとまて無技。どうやって戦線をそこまで持っていって電盤を孤立させればいいんだ?」

「そこはほら……棒導君がどうにかしてくれる作戦を考えてくれるでしょ?」

「……おもしろい。やってやろうじゃないか」

「なら決定だね! ほかのみんなは?」

「おもしれぇ……乗った!」

「私が反対する理由はないわ」

「オイラも大賛成! どんな作戦でも協力するよ!」

「わたしもがんばるわ!」

「電盤のやつめ! ワイの、ワイらの力見せてやるわぁ!」

「野郎ブッ殺してやるぅあああああ!!」

「他のみんなは!?」

『良いぜ! こうなったらとことんやってやるぜ!』

『やられた人達のためにも頑張るんだから!』


 クラスメイトの同意は得た! さて問題は……


「「………………」」


 しかめ面で仁王立ちしている虎獣先生とオドオドしながら僕達と虎獣先生を交互に見ている大坪先生だ。ここで先生2人が学園長に言ってしまったり止められたら終了だ。


「虎獣先生……駄目でしょうか?」

「………………」


 虎獣先生は何も言わない。


「わ、私は……良いと思います! 責任は私が……!」

「大坪先生。少し黙ってください」

「はうう……」


 虎獣先生は腕組を解き、力強くゆっくりとこちらに歩いてくる。


「火鳥……お前はCCBをやり始めて変わったな」

「へっ?」


 唐突な言葉に間抜けな声が出る。


「去年度のお前はみんなと共に何かを大きな目標に向かって行動することもなければ、そんなにワクワクした様子で音楽をすることもなかったな」

「へ?」

「CCB学科に来てよかったか?」

「は、はい」

「これから先もCCBをやっていきたいか?」

「はい!」

「お前達もそうか?」

「「「はい!」」」

「CCB戦が終わった後にホール全体に謝罪の言葉と居残りで反省文作成と学園清掃をする覚悟はあるか!」

「「「はい! ってえええええ!?」」」

「よろしい!」


 はめられた! 流れではいはい言っていたらとんでもない事になってしまったぞ!?


「棒導! ホールに行くまでの作戦はお前に任せる! ホールからは俺に任せろ!」


 呆気に取られてポカーンとしている僕らに虎獣先生は親指を立てて笑う。ええい!


「やってやろう皆! 先生の許可も下りたんだ!」

「「「おう!」」」

「最後に僕ら流のCCB戦を見せてあげようじゃないか!」

「「「いよっしゃああああ!!!」」」


 相手の30名という戦力に対してこちらの残された生徒15名。

 この圧倒的戦力差を前に、前代未聞の大作戦が始まろうとしていた。





『おお電盤。いい活躍だったな! 正直予想以上だ!』

『ありがとうございます』

『これで俺の株は上がり、主顧問に褒められるぜ! がははははは!』

『………………』

『みて……電盤さんよ』

『不協和音を弾きこなすとは驚いた。正直引くが楽して勝てそうだ』

『ええ。不協和音だなんて一緒に練習したら耳がおかしくなりそうだからあれだけど、この際勝てればいいものね』

『ああ! ここで勝てれば一軍行きも夢じゃないかもな!』

『…………はぁ。この人達は自分の為や楽して勝つことしか考えてないようね……。それに引き換え向こうの人達は私の音楽を面白いと言ってくれた……。それじゃ……午後の戦いでどっちに編入するか見極めさせてもらうわよ!』



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