第1楽章 第10話~衝撃の事実~
『今から他校とCCB戦だって!?』
『そんないきなりですか!?』
『っていうか今廃校って言わなかった!?』
『一体なにが起きているの!?』
「落ち着けみんな」
虎獣先生の発言はやはりみんなには衝撃的だったらしくクラス中は混乱していた。勿論僕もだ。今日すぐにCCB戦を行うって言うだけでも衝撃だったけど、そのあとの廃校宣言。一体何が起きているんだ!?
「説明を求む虎獣先生」
「勿論だ棒導」
一回咳ばらいをして喉の準備を済ませた後、虎獣先生は僕らに話し始めてくれる。
「まずは廃校の話からだ。実はこの学園はここ10年近く大した成果を出せていなかったんだ。まぁそもそも学園が始まって以来大した成果がなかったんだがな。日本初の音楽専門学校という名や、講師陣の豊富さで何とかやってきたみたいなもんだったんだ」
成果を出していないか。確かに言われてみればこんだけ講師陣も設備も充実しているのに、どこの学科も大会で優秀な結果を残したって聞いたこともなかったし、それどころかトロフィーも賞状も見たことないかも……
「そして去年度、お前たちが入学をしてきた」
弱優さんに僕。それに荒表に笑奏。歩那、顔性良、棒導君に黒兎さんに技工君を見る。
「去年度は各学科長達が有望な人材が入学してきたと大喜び。今年度こそは良い成績を残せる! と確信していたのだが、どいつもこいつも様々な理由で学科長達の期待を裏切った。火鳥はまぁ健闘してくれたが、なぁ……? 元クラシック学科よ……?」
「「「………………」」」
名指しされたメンバーに加えて、笛木先輩と黒木先輩が一斉に下を向く。それに額に青筋を浮かべながら睨めつけられた元クラシック学科のメンバーはさらにバツが悪い。
「そしてとうとう廃校の話が本格化してきてしまった。だが各学科長の先生方はそれでも今年こそは! とお前たちの事を信用していた。だが、学園長だけはそうは思わなかった。また同じ事態が発生するのではないかと危惧していたんだ。そこで学園長の提案でCCB学科を設立しようという話になったんだ。今更どの学科が功績を上げたところで焼け石に水。ならば全学科総出で立ち上げたCCB学科が全国大会で優勝となればどの学科も優れている上、学校としても優れているという証明になるということだ」
と、ここまで話したところで一つの疑問が生じる。
「虎獣先生! 今全学科総出と言いましたけど、確かCCB学科への編入は自主制だったはずです!」
「ああ。その通りだ。だが世間には『各学科のえりすぐりを集めて創設させた』と言ってある」
「……もしも今回このメンバーが揃ってなかった場合って……」
「うむ。廃校決定だったかもな」
結構危ない綱渡りをしていたんだなこの学園は!?
「だがお前達は揃った。これは運命だ。そしてこの学園の運命も諸君にかかっている」
『おいおい! なんだか話がでかくなってきたぞ!』
『この学園の存続は私達にかかっているのね!』
『おいおい! なんだか燃えてきたぜ!』
教室のいたるところから声が上がる。それに僕も闘志が燃えてきた! 学園の運命は僕らの手にゆだねられているということか!
「学園の存続という重荷を背負わせて申し訳ないと思うがよろしく頼むぞ! 勿論俺も全力でサポートする!」
「わ、わたしも頑張ります!」
『「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」』
クラス全員で拳を上に突き上げる。僕は人生の中でこれ以上にない高ぶりを感じている。これはクラシック学科では到底味わえない気持ち。この学科に来てよかった!
「それで虎獣先生? 本日のCCB戦の件はどうなんです?」
「おお! 真面目な話はここまでだ諸君! ここからが本日のメインイベントCCB戦の話だ!」
虎獣先生は教卓を勢いよく叩きその高ぶりを抑えることなく表に出している。虎獣先生……この場にいる誰よりも楽しんでいないか?
「兎にも角にも戦力が足りん。そこで学園長はCCBを行っている且つ、今年度で廃校又はCCBを廃止する学校から有望な人材を得るべく様々な知人を当たってみたそうだ。そして見つけたのが一人いるそうなのだが、少々問題があるんだ。その生徒はなんの成果もなく実績もないCCB初心者集団のこの学園よりも、歴史も長く経験豊富な別のCCB強豪校への転入を考えているそうだ。だが何としてもその生徒が欲しい学園長は話し合いの末にこういった条件を出したそうだ」
「どういった条件ですか?」
「その強豪校に入った状態でこの学園とCCBで勝負し、こちらが勝ったらその生徒はこちらに転入してくるというものだ」
『おお! だったら話は簡単だ! そいつらに勝てばいいんだな!』
『けちょんけちょんにしてやるんだから!』
「いいかお前ら! ここでCCB戦に勝てば『強豪校に勝ったという実績』と『新戦力獲得』そしてわざわざ入学式に行う目的は『新入生へのアピール&ゲット』というのが理由だ! だが勿論勝てばの話だ。負けた時は……」
「その全てを失う……」
「良いやないか! オール・オア・ナッシング!」
「その通りだ! いくぞお前ら! CCB学科最初の戦いだ! 締まっていけ!!」
「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」
「勝つぞお前ら!」
「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」
『さてみんな。これからこの奏楽学園とCCB戦をするわけだが気は引き締まっているか?』
『「「はい!」」』
『今回一軍のメンバーは練習があるため一人も来ていないが問題ないだろう。みんなには数少ない実践としてしっかりと勉強してもらいたい』
『「「はい!」」』
『あの……質問いいですか?』
『まだこちらの話が済んでいない。君はそんな気も配れないのか?』
『……すみません』
『ん? ああ、君か。今年度からこの学校に転入する子……だったよな?』
『はい。この戦いでこちらが勝ったらですけど』
『っ! こっちが負けるとでもいうのかお前は!?』
『い、いえ……そういうつもりは……!』
『…………まぁいい。質問だね? 言ってみろ』
『あの……こっちは全員二軍だそうですが、なんで一軍の人達が来ないんですか?』
『あいつらは練習だ。さっきも言っただろう?』
『いえ。全力で行かなくてもいいのかな、と思っただけです』
『こんなド素人学校、手を抜いていても勝てる。それとも何か? お前負けるとでも思っているのか?』
『いえ……そういうわけでは……。でもどんな相手でも全力で行くべきなのでは?』
『ええい! いちいち口答えするな! もういい! 今回のフラッグルールではお前がフラッグだ! 絶対に負けるんじゃないぞ!? 負けたらただじゃ置かないからな!!』
『……はい』
『ふん!』
『バカだなあいつ。先生に逆らったりするから……』
『大人しく言うことを聞いていればいいのに……』
『まぁいいや。何でも彼女、凄く強いらしいから楽させてもらおうぜ』
『……ふん! そんなんだからあんたらは二軍で、あの豚先生は二軍の先生なのよ。……こっちの学園の人達はどんな人達なんだろう? 面白い人達かな? それとも変な人達かな? ……あの昇降口であった人達を見るに多分変な人達でしょうね。それにCCB初心者って言っていたしあんまり期待できないわね。はぁ……他に楽しくCCBできる学校ないかしら……?』
『「「ぶえッくしょん!!」」』
『「「へっくしょん!!」」』
「大丈夫ですか無技君?」
「うん。大丈夫。ありがとう弱優さん」
僕を含め教室のいたるところでクシャミが多発する。誰か僕らの事を噂している人がいるのだろうか? 10分間ほどの休憩の後、作戦会議が始まる。そして席は自由なので移動し、今は僕・弱優さん・笛木先輩・黒木先輩・荒表に顔性良に歩那、そして笑奏とチーム「ワラワラ」で一塊となって席に着く。
「さて諸君! クシャミも出たところで改めて作戦会議を始めるぞ!」
黒板には『打倒! 私立柏習高校! 作戦会議!』と荒々しい字で書かれ、その前の教卓では虎獣先生が仁王立ちをしてこちらに立つ。
「さて、今回の作戦だが……」
「ちょっと待ってくれ虎獣先生」
とここで棒導君が虎獣先生の発言をかき消すかのように割って入る。
「なんだ棒導?」
「いやね? 今回のCCB戦では俺が作戦と指揮を任せてほしいんですが」
「「「え!?」」」
その発言に教室中の空気が一転する。正確には熱気が一気に冷めたような……いや凍りついたという方が正解か。だってあの見た目とオーラを放っている虎獣先生にそんな発言をするなんて想像もしていなかったから余計に困惑が激しい。
「どういうつもりだ棒導」
「どうもこうも言葉の意味のままです。今回のCCB戦……いや今後も出来るだけ俺に任せて欲しいんです」
「理由はあるのか?」
「今回CCB学科を立ち上げたのは廃校させないため。そしてそのために優勝して生徒達がいかに優れているかを世間に見せつけるんですよね?」
「ああ。その通りだ」
「そして世間のこの学校に対するイメージは『講師陣が優秀』という事みたいですし、ここで虎獣先生が指揮を執り、勝利に導いても結局『講師の指示が的確だったから』とかいう意見が出てきてしまうはずですよ?」
「ふむ……確かに一理あるな」
「だったら指揮も作戦も生徒が取って優勝なんかした日には……正真正銘生徒達の力が優れているという証明になりますよ」
「ふん……確かに面白そうだ。良かろう。お前が……いや、皆で作戦を立てて勝利していけ。だが、多少の意見はさせてもらうからな?」
「ええ。問題ないです」
虎獣先生は口角を上げて笑いながら一歩横に移動し、教卓の場所を棒導君にあけわたす。凄い……あの虎獣先生を口で納得させるなんて……顔性良達の言っていた通り凄まじい能力だ。虎獣先生は大坪先生の近くに座り、その場を任された棒導君は静かにゆっくりと僕らの前に立つ。
「さてみんな。今回はもうすでに策は決まっている」
「「「?」」」
棒導君の言葉にクラス全員が首をかしげる。もう決まっている? どういうことだ?
「技工。悪いが音を出せるか?」
「勿論良いよ~あとオイラの事は理修で良いから~」
技工君はそういいながら何か作業を開始する。手元から何かスピーカーのようなものを取り出し音量を上げる。そのスピーカーから流れてきたのは男女の声が入り混じったもので何か話しているようだ。
『良いか!? 作戦はいたって単純だ! 全軍で突撃する!』
『「「はい!」」』
ノイズ交じりに聞こえてきたこれは……? 作戦? 一体なんの会話だ?
「おい棒導!? まさかこれは……!」
「ええ。柏習高校の盗聴会話です」
「「「!?」」」
盗聴会話!? 柏習高校の作戦会議を僕らが盗み聞ぎ!?
「長門さんに頼んで盗聴してもらっているんだが面白いぞ?」
肩を小刻みに揺らし笑いをこらえる棒導君。おいおい!? 笑い事じゃないんじゃないの!?
「おい棒導! こんなのが許されると思っているのか!?」
「いやいや虎獣先生。俺もこんな事はしたくなかったんですが理修想いの長門さんからの情報でね? ……お。今からですね」
『事前にCCB本部から入手したこの学校の点数一覧表によるとこの学園で要注意なのはこの「笛木美完」「黒木刹那」「角貝弱優」の3名だけだ』
「お分かりいただけましたか虎獣先生? こっちの情報は相手にダダ漏れなんですよ?」
「強豪校がゆえに裏とつながっているのか……」
「その通りだ薬座」
強豪校はCCB本部とつながりがあるのか? それにしたって僕らの個人情報を漏らすなんていくらなんでも酷すぎない!?
「むう……柏習高校の主顧問とは交流があるのだが、あの人はこんな姑息な手を使うとは到底思えない。ということは二軍の顧問か」
顎に手を当てながらボソッと虎獣先生が呟く。そしてその言葉を聞いた何人かが目を見開いた。
「なんやて!? 二軍!? 一軍ですらないんか!?」
「わたし達……舐められてる……?」
荒表と歩那が呟く。確かに一軍が来ないで二軍で戦うって……相当舐められてるよね。でもまぁそれもそうか。今年度から始めたばっかりだし、点数を見るにバランスもない生徒で構成されたチームなんて舐められて当然だよね。
『ザザザッ!』
とここで再びスピーカーにノイズが入り、会話が始まる。
『それでは質問があれば受け付ける。何かあるか?』
『はい』
『なんだ言ってみろ』
『他にはどんな戦力がいるんですか?』
とある生徒からの質問のようだ。二軍とはいえ強豪校のようで、いかなる敵でも情報を得たいということだろうか。
『ああ。どいつもこいつも一芸ぞろいの大したことない奴らだ』
「「「…………ほほう?」」」
スピーカーから流れ出るそのセリフを聞いた教室は一気に殺気立つ。
『例えばこの黒兎色奇と棒導我行。音楽知識が250点を超えているが技術力はともに50点ちょっとしかない。硬めのサンドバックってぐらいだな』
「いい度胸をしている……この私をサンドバック扱いとは……」
「事実だが……まぁイラッと来るな」
名指しされた黒兎さんと棒導君は静かに怒っている。この2人の自己紹介を聞くにこの2人の強みは戦闘にはない。けど数字しか情報がないとこんな見かたをされるのか。
『次にこの技工理修だ。音楽知識とんでもない点数で300点台らしいがはっきり言ってそれだけだ。先程の2人同様に技術力もない。さっきよりも酷いな。その上リペアもこいつ一人しかいない』
「あははー! 正論だから何も言い返せないね~! あ、もしもし長門? え? 消して良いかだって? ダメだよ~消しちゃ~」
技工君は大物でこれだけ言われても笑って流せている。けど側近である長門さんは許せないらしく消していいか電話で聞いてきたようだ。
『ん……まだいたな。黒木歩那に薬座顔性良。この2人は万能型で薬座の方は……大したもんだな。この点数なら一軍に行けそうだ』
「凄いね顔性良は……」
「ありがとよ」
ということは、顔性良の点数はまだ見たことがないけど、この先の事を考えると顔性良が全国出場レベルの平均になるということか……
『この黒木歩那は黒木刹那の妹か何かか? 点数は二軍同様ほぼオール100点か。姉が優秀だが妹はイマイチだな』
「刹那と比較した上にイマイチ発言……? 許せない……!」
「よくも歩那をバカにしたわね……! 許さないわ……!」
歩那と黒木先輩は自分をバカにされた事と妹をバカにされた事で士気が上がる。
『極めつけはこいつらだ。パンフレットにも書いてあるが「三学科を代表する技術力の持ち主、火鳥無技・中策荒表・豊音笑奏」。技術力は日本トップレベルだがおつむの方は日本ワーストトップレベルの持ち主だ』
「言われてるよ2人とも?」
「ワイやない。男共2人の事やで」
「何言ってんだよ? おれなわけないだろ?」
「あの……お三方の事だと思います……」
「「「ぶっ殺す……!」」」
そんな様子に見かねたクラスメイトが僕らをなだめる。
『おいおい落ち着けよお前ら』
『そうよ、バカにされたくらいでみっともない』
『言わせとけばいいんだよ』
『(ザザッ)あとの残りは何のとりえもない雑魚共だ』
「「「ぶっ殺す!!」」」
今度は逆に激昂したクラスメイトをなだめるべく虎獣先生が立ち上がる。
「落ち着けお前ら! 冷静に行かねばCCB戦は……」
『そしてこいつらをまとめ上げるのは主顧問の知り合いの虎獣……なんだこいつ。顔写真見る限りアウストラロピテクスみたいな顔だな』
「「「…………っ!」」」
「殺せ。許可する」
「虎獣先生!? 落ち着いてください!?」
クラスメイトはどうやって怒りをぶつけようか考える作業から、笑いをこらえる作業に変えた。駄目だ。今笑ったら巻き添えでこっちも殺される……! だけど虎獣先生の言った通りCCBは冷静に行かなければ勝てない。前に荒表と戦った時もノープランで突っ込んで痛い目をみたからなぁ……。
「それで棒導よ。作戦はどうなんだ?」
「おう薬座。今回の作戦は短期決戦だ。速攻で終わらせるぞ」
『速攻作戦?』
『じっくり攻めないのかしら?』
『棒導! 理由を聞かせてもらっていいか?』
クラスメイトからの質問を受けて、棒導君は黒板に文字を書きながら説明を始めた。
「うむ。相手はこっちが格下と舐めきって大した作戦も立てずに突っ込んでくるはずだから、それを逆手に取る。まずは笛木先輩、黒木先輩、角貝はここの本部で待機前線がヤバくなったら援軍に行ってもらう。黒兎も残ってもらって色々してもらうぞ」
「了解……」
「前線に行けないのは不満だけど作戦ならしょうがないわね」
「わ、私、待機で良いんですか?」
「色々……成程。私がやるって言ったらあれしかないわね」
「それから他のメンバーには自由に戦ってもらう。ここの能力を最大限に生かして見返してやれ」
『いよっしゃ! 単純明快でいいぜ!』
『ぎゃふんと言わせてやるんだから!』
「そして敵が錯乱しているところに待機していた3人がいき、フラッグ役の敵もろとも皆殺し……という作戦だ。わかりやすい作戦だろう?」
「フラッグ……そういえばこっちのフラッグ役は誰がするの~?」
「お前だ技工。お得意のゾンビ戦法を最大限に生かさせてもらう。最前線でも負傷した楽器修理を頼んだぞ」
「うん! 任せてよ~!」
作戦ではあるが内容はゲリラ戦のような感じかな? でも単純明快でわかりやすいし、何より何も考えずに自分の自由な戦法で戦っていいなんて、なんて楽しそうなんだ!
「よし! 策は決まった! 下手な小細工はいらん! 全力でいけ! 俺らを見下し、舐めきっている向こうの天狗鼻をへし折ってやれ!」
「「「おう!!」」」
「俺達の初CCB戦! 勝って向こうから全てを奪い取ってやれ!」
「「「おう!!」」」
「いくぞ! 開戦だ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
こうして僕ら奏楽学園VS私立柏習高校のCCB戦が幕を開けた。