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CCB~11人の異端児が奏でる協奏曲~  作者: ニコニコ大元帥
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プロローグ~各学科にいる異端児達~

「ふーむ……」


 会議室で書類に目を通しながら学園長が呟く。その様子を俺を含めた7学科の学科長達が無言で見つめていた。年に1度だけ、年度末にこうして全学科が集まる機会があり、今年1年どんな活動を行ったかをまとめた『年内成果』の報告書を提出し会議を開くのだ。


「なるほどなるほど」


 学園長は各学科から提出された『年内成果』の報告書に目を通し終えると、書類を机の上に置き、椅子に深く座り直しながら背もたれに寄りかかる。そして目の前に置かれていた飲み物で喉を潤すと話し始めた。


「どこの学科の報告も大変面白かったです」


 学園長は各学科長に笑顔を向け感想を述べた。直後、ニコニコと笑う薄目が少し開き、笑顔のまま言葉を続ける。


「ですが、どこの学科も去年とほぼ同じ……いえ数年前から殆ど変わっていませんね。一度成功した企画にすがっていませんか? このままだと音楽的に進展しませんし、来年には……お分かりですね? 何かいいアイデアや作戦は考えていらっしゃいますか? 何かある学科の先生は遠慮せず仰ってください~」


 会議室の中央に置かれた円卓。それを囲うように座る7人の学科長達にゆっくりと反時計回りに目線を流す。

 学園長はふくよかな体つきに、少し白みがかった髪の毛。そして笑顔と発せられる声がとても優しい方で、あの姿や笑顔、声を前にすると、なんでもさらけ出して話してしまいたくなる。いや、それは学園長の人間性というか、人柄も関係しているな。膨大な経験を積んだ果てに纏える……そう、真の一流のマスタークラスが纏えるオーラだ。


 …………俺に足りないものの1つだな。


 ま、そうでなくてもここにいる学科長達は皆その道を極めたマスタークラス達だ。日本やアメリカ、イギリスやフランスのコンクールや舞台などで、とてつもない圧力を味わった者もいる。仮に学園長が圧力を掛けようが臆せずに話すだろうし、話しやすさは大して関係ないか。そんな中、最初に発言すべく手を上げたのは作・編曲学科だった


「学科長。実は私の作・編曲学科には期待の1年生がいます」

「ほほう……それは一体どんな子ですか?」

「今年度の作曲部門と編曲部門の両方で全国大会1位を受賞した生徒でして、すでにいくつかの出版社や世界的な奏者たちから依頼が来ているほどです」

「ほう! そんな天才が作編曲学科にいたとは! なぜ先程の報告でいわなかったのですか?」


 学園長からの疑問に、作・編曲学科長は渋い苦笑いを浮かべながら話し始めた。


「天才……確かにそういう風に言われても差し支えないのですが、本人はその……色々抜けているところや常人では理解できない思想などを持ち合わせていまして。さらに作曲する曲も編曲した曲も当然のように奏者の限界に迫るものや、委託されたのは良いのですが、委託者以外にはあまり理解されないものだったり、あまりにも難解過ぎた為に契約を断られたりと、天才というよりは奇才と言った方が的確です……。なので報告書には控えさせてもらいました」


 ああ、例の女生徒か。そう言えば以前火鳥(ひどり)の奴も彼女に編曲してもらったことがあったっけな。俺もレッスンでその楽譜を見せてもらったが、あれを完全に理解して吹ききる生徒がこの学園に何人いるのやら……。そういう俺ですら演奏するなら理解に苦しむ編曲だった。


「学園長。実は私も報告書に書かなかったのですが、私の学科にも有望な子がいます。今年の指揮学科の中では断トツの知識に指揮力、そして楽曲分析力も優れている子です」

「指揮学科の有望な子……と言いますと彼の事ですか?」

「はい。その彼です虎獣(とらしし)先生」


 俺の発言に対して軽く頭を下げる指揮学科長。そんなやり取りに疑問を持った吹奏楽学科長が質問してくる。


「一体何があったんですか?」

「今話題に上がった生徒が、授業で我がクラシック学科に授指揮に来てくれたのですよ。その時の指揮は凄く的確で的を得ていましたし、個人的には良かったのですが……」

「よかったのですが?」

「虎獣先生。僕が説明しますよ。彼は指揮力もあって知識も申し分ないのですが、いかんせん人付き合いがあまり得意ではなくて、自分の音楽理論や思想を貫き通そうとするが為によく衝突するんです。それでその……授業中にケンカが発生してしまって交流授業が中止になるということになってしまいました」

「そんなことが……」

「クラシック学科の生徒さん達にはご迷惑をおかけしました」

「いえいえ。お気になさらず」


 とは口で言ったものの、あの後は大変だった。次の授業からうちのクラシック学科の連中は、来てくれる指揮学科生全員に敵対的な接し方をするようになったり、欠課する者が増えたり、随分苦労した。


 そして、これを機に各学科長達が口を開き始めた。


「実はうちの学科に今年転校してきた子なんですが、去年関西で行われたジャズコンテストで1位を取った子で、アドリブに関してはすでに学科1の実力を持った女の子がいるんです。転校してきたばかりなので今は目立った成績を上げていなかったので報告書には書かなかったんです」

「ジャズ学科にはそのような子がいらっしゃったのですか! それなら早く言ってくださればよかったのに!」


 ジャズにそんな生徒がいると知り、身を少し前に出しながら目を輝かせて話を聞き始める。学科長の専門としているジャンルはジャズだから、気持ちが盛り上がってきたのだろう。


「ですが彼女はとても優秀なのですが、その性格からかあまり周りとなじめずに衝突します。口悪く言えば喧嘩っ早いということです。そして彼女は自分の道を貫き通す信念で、周りとのセッションをあまり好まないんです。それもあってか前にいた学校で問題が起きて、こちらに転校してきたというわけです」

「成程……」


 ジャズ学科が言い終わったところで、次に手を上げて話し始めたのはポップス学科だった。


「学園長! 僕らポップス学科にも有望な子がいますよ! 今年度はコンクールで全国一位になる! と確信していたのですが……」

「していたのですが?」

「友人とアンサンブルコンクールに出場して予選落ち。クラシックがメインのコンクールにアニソンで出場したのが理由ですね」

「なぜわざわざクラシックメインのアンサンブルに?」

「なんでも『クラシック業界に新たな歴史と革命を起こすんだ!』と意気込んていたので」

「はははっ! 噂のアニソンユーフォ奏者の彼ですね! その友人達と共に組んだチーム名は確か『チーム・ワラワラ』と言っていましたね!」


 学園長は満面の笑みで話す。学園長はこういう破天荒な行動を起こす生徒が大好きだからな……。まぁ本人も大分破天荒な事をするから当然か。



「リペア学科はどうですか?」

「はい。リペア学科には既にプロレベルの子がいまして、大会にも出場する予定だったのですが、どうやら彼の道具や技術は彼の祖父と父から授かったものらしく、誰にも公表してほしくないと半ば強制的に出場辞退を申し出されまして……」

「それは大変でしたね……それでは吹奏楽学科はどうですか? 有望は生徒はいらっしゃらないのですか?」

「はい! 私達吹奏楽学科の生徒はみんな真面目でとてもいい子達です!」


 俺の横に座っていた吹奏楽学科長が勢いよく立ち上がり、元気よく話し始める。ショートカットのヘアスタイルに細身な体系。スレンダーと言った方が良いか。背は160㎝くらいで童顔。大学生と言われても違和感ない容姿をしている先生だ。そんな彼女は今年で勤務歴が2年目になる新人で歳も若いが、それでも学科長に推薦されるほど優秀な先生だ。


「個性的な生徒はたくさんいますが、それが決して欠点だとは思っていません!」


 胸を張り、ムフーっと鼻から息を吐きだしながら力説する学科長に、他の学科長達は感心や初々しいと微笑みながら聞いていたが、学園長はそっと口を開き語り始めた。


「先生。あなたのそういった生徒の優れているとこを見つける能力や個性を認めてあげる点はとても素晴らしい事です。ですが、問題から目を背けているとも取れます。もう一度聞きますが、本当に何の問題もなかったのですか?」


「あうぅ……」


 学園長の言葉にどもってしまった学科長。そして観念した様子で語り始める。


「吹奏楽学科には2人ほどその……個性的な生徒がいます。1人は技術力と統率力に優れており1年生ながらすでに合奏中に指揮を取りまとめる程です。もう1人はマーチ曲の歴史や奏法を知り尽くした子でして、今年度の吹奏楽コンクールのマーチ曲や演奏会では随分助けられました。が、」

「が? 何があったんですか?」

「ええ。1人がヤクザの息子でして、コンサートやコンクールがあるたびにホールの半数がヤクザで埋まり本部から彼の出場自粛がありまして出場しなかったのですが、それにキレたもう1人の彼女も出場しなかったうえに非協力的になってしまいまして……」


 可哀そうに。実力を兼ね備えながらコンクールに参加できないなんてひどい仕打ちだ。だがヤクザとなれば話は別だ。コンクールのイメージも落ちかねないし、そればっかりは何とも言えないな。

 そしてもう1人の生徒は少し知っている。俺の学科にいる黒木(くろき)の妹だったか。


「そういえばクラシック学科はどうなんですか?」

「何もおっしゃりませんがどんな生徒がいるんです?」

「唯一活動成果が優れていたらしいですが」


 そら来た。この流れで俺のところにも来るとタカをくくっていたが案の定来たな。少し渋って沈黙していると他の学科長達が興味津々にこちらを見てくる。やれやれ……話さなければならない雰囲気になってしまったな。仕方ない……


「ええ。4人ほどいます。1人目はトランペットで去年度のソロコンクールでは全国3位、2人目はコンクール4位。3人目は全国大会出場し、最後の1人はコンクールこそ出てはいませんが、先ほど挙げた3人にも劣らない技術力を持っています」


「4人もいらっしゃるのですか! それは凄い!」


「しかし全国3位の生徒は何度言っても機械的で無機質な演奏が治らず、音楽知識も殆ど身につけようとしない困ったやつでしてね。そのせいで全国3位になってしまいました。全国4位の生徒は音楽知識も技術も申し分ないのですが、プライドが高い上に完璧主義者でして、演奏にミスがあったので気に入らないという理由で大会の表彰を辞退しました。3人目の生徒は、本番当日にアンサンブルコンクールを聴きに行くとぬかして大会を辞退。最後の生徒は音楽知識も技術もあるし、謙虚でとても良い生徒なのですが、本番に弱い性格でして、予選大会当日に緊張からか体調を崩してしまい欠場……という生徒達です」

「虎獣先生……お疲れさまです」

「ありがとうございます。今年度は胃に穴が開くかと思いました……」


 隣に座っている吹奏楽学科長が激励してくれる。今年は特に疲れた。火鳥は俺の門下生だからとにかく疲れたし、笛木(ふえぎ)に至っては俺の言うことを聞かない。黒木(くろき)の奴は実力は申し分ないのに急に大会をバックレるし、角貝(つのがい)は良い奴だが結果が残せないからよく落ち込むのでメンタル回復に力を注いだ……。更に先ほど言った指揮の件や何やらで、体力に自信がある俺ですら胃に穴が開くかと思ったほど大変で疲れる一年だった……


 そんな俺の報告を聞き終え、会議室のいたるところでため息をつく音が聴こえる。そして各自目の前に置かれた飲み物を口に含み、再び会話が始まる。


「問題はあれど、全ての学科に有望な子達がいるようですね」

「ええ。来年度は彼らを中心に新たな事を行っていくのが良さそうですね」

「そのようです。しかし問題なのは彼ら自身と彼らをよく思っていない生徒がいるということ」

「そこを解決しないと逆に問題が大きくなり学科内部で混乱が起こりそうですね」


 各学科長達は再び深くため息をつきながら思案し始める。俺も他人事ではない。どうやったら火鳥達をまとめられるか……。そんな中今まで聞きに徹していた学園長がゆっくりと言葉を発した。


「先生方の苦労や期待、そして問題はわかりました。来年度は彼らに期待する方向で良いでしょう。ですがこのままでいくと彼らが自分の能力を生かせず、更には周りのせいでつぶれてしまう可能性がある」

「ええ。ですから我々教師が一丸となって彼らを……」

「う~ん。それは無理でしょう。ここまで彼らの事を知り、問題もわかっていたのにも関わらず、今年度一年で全く解決できなかったんですから」

「「「う……」」」


 そんな学園長の直球に全学科長達の顔が引きつる。学園長はそれを予測していたかのように微笑むと話を続ける。


「彼らには彼らに相応しい仲間達と共に、思う存分自分の音楽してもらいたいですし、新たな音楽、自分と違う音楽理論など、お互いがお互いを刺激し合って更なる高見を目指してほしい。なので……」


 学園長はそこで言葉を区切ると少し間を置き、満面の笑みで切り出した。


「来年度からCCBやりましょう」

「「「!!??」」」


 笑顔で告げたそのセリフに体を乗り出す学科長や、飲みかけの飲み物を吹き出す学科長など会議室が一気に騒がしくなる。


「学園長! 今CCBと仰いましたか!?」

「はい。言いましたよ~」


 ニコニコと満面の笑みで返す学園長だが、それとは対照的に学科長達はあたふたと慌てた様子で互いに顔を見合わせ合う。


「あのう……すみません。私あまりCCBについて詳しくないのですが……」


 と、吹奏楽学科長が恐る恐る手を上げる。


「ああ、若い方や興味の無い人には殆ど無縁のものですからね。日本ではかなりマイナーな方ですが、一部の音楽関係者や一般者には根強い人気を誇っている、海外ではメジャーな音楽大会なんですよ」

「CCB……イタリア発祥の音楽大会。音楽知識と技術力を用いてチームごとで戦う音楽競技でしたっけ?」

「ええ。一般的なコンクールとは違い、審査員もおらず、そのため好みや流行などに左右されない、完全実力制で勝敗が決まる最も公平な音楽大会ですね」

「へぇ! 面白そうですね!」


 作・編曲学科にリペア学科、それに指揮学科の学科長達は淡々と知識で吹奏楽学科長に語り、それを聞いていた吹奏楽学科長は興味を示す。だがそれを聞いたポップス学科にジャズ学科の学科長が口をはさみ始めた。


「そう聞く分にはよく聞こえるでしょう。私は学生の頃一年間だけやりましたが、実際はもっと危険なものです。音楽知識や技術力がなければ酷い結果が待っていますし、強豪校と戦おうものなら心身ともに傷を負うことになります」

「そう……あれは音楽大会とは言っても本質は暴力的な戦いです。ここの生徒をあんな危険なものをさせたくない」


 2人の言葉に思わず言葉を息をのむ学科長達。


「経験者の口からそう言われると……うちの生徒に進めるのは気が引けてきましたね……」

「そうですね。何かと問題になりかねませんね。危険な目に合わせて保護者の方が黙ていないでしょうし」

「危険とわかっていて無理にさせるのは得策ではないでしょう」


 そして反対意見を口々にしだす。まぁ気持ちはわからんでもないんだがな……。そんな中学園長が意見を出し始める。


「そうですか……皆さんはやめろとおっしゃりますか。ですがCCBは危険だという意見ばかりで良いところを何も上げてませんね? 虎獣先生。何かご意見はありますか?」


 学園長が俺に視線を向けて意見を求める。俺の意見は……


「CCBは確かに危険で大変なものです。ですがそれ以上に音楽知識を身につけようというやる気、相手を圧倒すべく高めていく技術力。さらに臨機応変な対応力や本番度胸、戦略を考え、チームを指揮する能力、チームメイトに迷惑をかけられないという責任感、さらにチームワークなども養える音楽の完成形でもあると自分は思っております」


 押し黙る学科長達にわき目も触れずに俺は話を続ける。


「今聞いたメンバーは優秀だが問題あり。今後学科に居続けても状況が変わらず、最悪自分の音楽を失い、音楽家と死ぬ可能性がある。ならばCCBで自分の個性・音楽スタイルを磨き、色んな音楽理論などに触れるのがいいと私は思います。なので自分はCCBを賛成します」

「ふふふ! 流石かつてCCBでMVPに選ばれただけありますね!」

「え!? CCBでMVP!?」

「音楽家としての最高峰とまで言われるMVPの称号! それを虎獣先生が!?」

「昔のことですよ」

「いや、なら納得です。虎獣先生がなぜこれほど優れた音楽家なのかを……」

「自分はまだまだ未熟者ですよ。自分の担当している生徒1人導けていないのですから」


 そんなやり取りをしている中、学園長は吹奏楽学科長に視線を向ける。


「大坪先生はどうお考えですか?」

「わ、私ですか!? ええっと……あまり知識もない私が言うのもなんですが……やらせてみたいです! 窮屈な思いをしている彼らが解放され、自分の音楽を思う存分できるのですし、そんな彼らがどんな音楽家になるのか見てみたいです!」


 その答えを聞き、学園長は満足げな表情を浮かべ、両膝を軽くたたきながら立ち上がる。


「よし! CCBやりましょう! 不満がある先生がいたら仰ってください。」


 口ではそう言っているが、あの言い方をした時の学園長は絶対に引かない。それは事実上の決定を意味している。そして他の学科長達もそれがわかっているので、何も言わずにただ頷いた。


「さて! 肯定的な意見を述べたのは2人だけですね。それでは経験者である虎獣先生がCCB学科の新学科長で、未経験で経験の浅い大坪先生が副学科長ということで良いですか?」

「自分が……学科長ですか」

「へぇ!? 私が副学科長ですか!?」


 俺はともかく大坪先生は戸惑っている。本人はまさかこんなことになるとは思ってもみなかったのだろう。


「学園長! あの……!」

「なんですか? あ、お給料の事でしたらご心配なく。いきなり新学科の任命をしたのですから、いままでのお給料は保証して、少し色を付けて……」

「そ、そういう問題ではありません学園長! 私初心者でCCBの事を何もわかっていません! そんな私に務まるでしょうか……」


 不安げな表情を浮かべる大坪先生に学園長は優しく微笑みかけながら話しかける。


「大丈夫ですよ大坪先生。初めから出来る人なんてこの世にはほとんどいません。虎獣先生だって学生の頃CCBで色々失敗しましたし」

「え? 完璧超人のような虎獣先生が?」

「そうですよ~。何回も懲りずに私に挑んできましたし」

「! が、学園長! 余計な事は言わないでください!」


 慌てて学園長のかき消す。だが学園長はお構いなしに言葉を続けた。


「でもね大坪先生? そんな失敗をした虎獣先生は高校の時に全国大会でCCBのMVPに選ばれたんですから、大坪先生も大いに失敗して、その分大きく成長してください」

「は、はい!」

「失敗しても虎獣先生がフォローしてくれるはずですので。ははははは!」

「虎獣先生! よ、よろしくお願いします!」


 深々と頭を下げられてしまい断るタイミングを失ってしまった。はぁ……しょうがない。


「わかりました。お引き受けしましょう」

「それでは会議は終了とします。虎獣先生。大坪先生。後ほど学科長変更の件でお話がありますので私の部屋に来てくださいね」

「はい! わかりました!」

「承知いたしました。しかし……」

「ん? どうかしましたか虎獣先生?」

「CCB学科設立は良いのですが、都合よくその生徒達が移ってくると思いますか?」

「ふふふ……来ますよ。彼らは必ず移ってきます」

「その根拠は?」

「勘です~はっはっは!」


 やれやれ。学園長は何かを決めるときはいつも勘だ。根拠のない事を自信満々に断言する。だがその勘はいつも当たる。


 ということは、来年俺が相手にする各学科問題児は―――――


「理解不能で無茶苦茶な作曲、編曲をする奇才な作・編曲家」

「演奏者の事を考えない、我が道を貫き通す敵だらけの指揮者」

「謎の超技術でどんな傷も治すリペアマン」

「行く先々でヤクザが出没するヤクザの息子」

「マーチを知り尽くしたマーチ奏者」

「喧嘩っ早く、周りと合わせようとしないジャズ奏者」

「アニソンを愛し、アニソンを貫くアニソン奏者」

「どんな些細なミスすら許さない完璧主義すぎるフルート奏者」

「ミスも少なく、なんでもそつなくこなすが病弱で豆腐メンタルなホルン奏者」

「自分の道を貫き、そのためなら大会ですらすっぽかすクラリネット奏者」

 そして「ミスの全くない、精密機械のような演奏をするが表情や表現力がない無機質トランぺッター」


 それにまだこいつら以外にも濃い奴らが集まるのだろうな。やれやれ……これは今年度以上に大変な一年になりそうだな……


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