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第七話


 「よく考えると問題よね、男の子と女の子が同じ部屋で寝起きするなんて」


 ライムの着替えを一通り買い揃えた私は、今の部屋割りについてハタと考えたの。

「性別の異なるライムとタケル君が同じ部屋にいる」というのは年代的にもかなりまずいわよね?

かといってうちの寮にはもう空き部屋なんて一つもないし、私の部屋にライムを呼び込む余裕もあるわけでもないし・・・

となると、現状の部屋割りで何とか対策しないといけないわねぇ。


 「ライム、あなた女の子になっちゃった以上このままタケル君と同じ部屋にいるのは無理があるわよね? あなたはどうしたらいいと思う?」

 「うううっ、でもせっかく仲良くなれそうなのに、別れ別れなんてイヤだよぉ・・・」

 「じゃあ、これからもタケル君の目の前でお着換えするの?」

 「・・・それも・・・やだ・・・」


 とまぁライムに繰り返し聞いても全然要領を得ないし、タケル君も問題であることは理解していてもいい解決策は思いつかないみたいだしで、これは本当に困ったわ。

 後の部屋は全て一人用だから、同じ新入生の三人の女の子と相部屋というのも無理だしねぇ。


 「お着換えの時だけママの部屋を使う? それなら今の部屋割でも何とかなりそうだけど」

 「でもママの部屋って狭いし着替え持って行かなきゃでしょ? 面倒だよ!」


 やはり女手一つで育てたせいかしら? それとも今頃になって反抗期が出たのかしら?

強引に私の部屋で着替えさせるのも手段ではあるけど、それだと何のために個室を割り当てていたか分からなくなるのよね。

ライムには少しでも早く魔王としての自覚と自立心を持ってもらわないと、地下生活を送る大勢の魔族の未来はいつまでたっても暗いまま。

そのためには私が少しくらい鬼になることも必要だと思うの。


 「じゃあこうしましょう。あなたたちの部屋の中央をアコーディオンカーテンで仕切って、着替えなど別れる必要が出た時はそこで区切ることにする。

お勉強など一緒に行動したい時はカーテンを開けて一緒に過ごすということでどう?」

 「あ、それならいいかも!」

 「これはタケル君の意見も聞かなきゃだから、ライム、あなたが聞いてきなさい」

 「うん、ボク聞いてくる!」


 元気よく答えたライムは自室に戻るとタケル君としばし話し込んだのち、「タケル君もそれでいいって言ってた!」と満面の笑みで私の元に帰ってきたわ。

ではすぐに顔馴染みの内装屋さんに作業してもらいましょうか。


 「ちわっす!」


 早くてもカーテンの設置は明日以降になるでしょうねぇ、と思いながら遠慮がちに依頼の電話をかけたのに、顔馴染みの内装屋のベテラン職人さんは、まるで依頼が来るまでスタートダッシュの状態で待ち構えていたかのような素早さで私の寮にやって来たの。

「カーテンは出来るだけ安いもので」と頼んだのに、持ってきたのは金糸銀糸の手の込んだ刺繍が施されたびっくりするほど豪華なもの。

いくら何棟かアパート経営もしている私でも、そんな豪華な内装を依頼するような金銭的余裕はないわよ?

 寮生たちの晩ご飯の支度をしていた手を止め、職人さんをライムの部屋まで招き入れると、乱れた息を直す間もなくてきぱきとカーテンを設置していく姿はさすがプロね、と感心しては見たけど、時折私を見る目にどことなく怯えの表情が見て取れるのはなぜかしら? ちょっと気になるわね。

後の応対はライムに任せて私は寮生用の夕ご飯調理を手早く済ませ、作業状況を確認しようとライムたちの部屋に行ってみたのだけど・・・


 「さ、作業、完了しましたっ! お、お、お代は、けけ結構ですっ!」


 建付けはもちろん部材の質もなかなかの高級品なのは十分見て取れるのに、あれだけの時間で完成させた上に無料でというのはどういうことかしら?

見た様子もカーテンそのものの開け閉めもしっかりしているから、むしろこっちは相応の代金払いたいくらいなんですけど。


 「いえ、ここまでのお仕事してもらって『お代は結構』と言われると逆に困りますわ」

 「あ、あのそのっ、ホントにお代は結構ですから、どうか、どうか食べないでくださいぃっ!!!」


 私が少し問い詰めただけで顔を真っ青にして慌てて逃げ出す職人さん。私、何か職人さんを怯えさせるようなことでもしたの?


 「ライム、私のいない間、職人さんに何か吹き込んだりしなかった?」

 「何かって、・・・何を?」


 あら、ライムがここまで不思議そうな顔するってことは、少なくともこの子が何かしたってわけではないみたいねぇ。

だとすると職人さんは私の何かに怯えていたってことになりそうだけど、私にはそれも全く覚えがないの・・・

こういう対応をされるのって、別に今回が初めてじゃないのだけどね。

 ともかく、二人の生活空間に一応の区切りが出来たのはよかったと思うわ。



 「ライム、こっちにいらっしゃい」


 寮生全員の夕食に使った食器の片付けが済むと、私は区切られた新しいライムの部屋で女の子としての身嗜みのレクチャーに入ることに。

もちろん下着などの基礎的レクチャーは、ライムの着替えを買ったお店で一通り受けてはいるのだけど、あくまで女の子としては最低限の知識でしかないのよね。

 洋服の着こなしテクやセンス的なものは最終的には自分で見つけるしかないのだけど、それでも人生の先輩として、私からライムに教えることはいっぱいあると思うのよ。

 さすがに相部屋のタケル君にライムのはしたない姿を見せるわけにはいかないので、まずは仕切りカーテンがしっかり閉じられていることを確認して、と・・・


 「まずはこの服を着てみましょうか」


 女の子としてみんなにかわいいと言ってもらえること、これって女の子として本当に大切なことで、謂わばその評価こそが女子力、女性としての価値観を決める大きなバロメーターになるの。

服装選びはそのための大切なポイントで、どんなに素質がよくても見栄えのしない地味な服装ばかり着ていては誰からも評価されないし、逆にそこそこの素性の子でもファッションセンス次第で男性からより多くの「かわいい」を獲得することも出来るの。

ライムは元々スーパーロングの艶やかな緑色の髪が高い女子力を発揮しているし、私譲りの愛らしい顔立ちだから男の子だった時からすでに高い女子力があったわ。だから本当に女の子になった今は、なおさらそれを意識してより「かわいい女の子」になる努力をするべきなの。


 「え? これ・・・どうやってブラ付けるの? ブラはみ出しちゃわない?」

 「これはね、キャミソールといって、最初から下着無しで着れるように胸部分にパットがついてるのよ。だからブラを外してそのまま着ちゃうものなの」

 「・・・なんか横から見えちゃいそうで恥ずかしいよ・・・」

 「そこを見せないように立ち振る舞うのが、レディのたしなみと言うものよ!」

 「女の子って、大変だぁ・・・」


挿絵(By みてみん)


 そう、女の子の身嗜みって本当に大変なの。

だけどね、それを補って有り余るほどに「いいコーデが見つかった時」の喜びは本当に大きいのよ。

何を着てもかわいく映えるライムを見ていると、ママ、あなたのママで本当に幸せよ♪



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