第四話
新しくルームメイトになったタケル君、話し方はまるでお侍さんそのものだけど、とっても素直でいい子だなぁ。
話し方も折り目正しいし、ボクが女の子みたいな外見してても変な拒絶反応もしないし、とにかくかっこいいし!
これならボクだってきっと仲良くやっていけそう♪
けど・・・なんで大事なとこ押さえて真っ赤になってるんだろ? ボク暴力なんて振ってないよ?
もしかして、「大好き♪」って気持ちを伝えたくて思わずやっちゃったキスのこと、不快に思ってたりするのかな?
「タケル君、大事なとこの具合でも悪いの?」
「そ、そういうわけじゃ・・・ななないでござる!」
そういえばさっき不意に目を回した時も、ボクのことを「女の子」ってうわごとのように言ってたし、本心ではボクのこと、変な風に考えてたりするのかな?
まさか、そんなことは・・・ないよね? ね?
二人の間に微妙な気まずい空気が流れる。
二人とも、次に何と言えばいいか分からなくて、互いに相手の顔を見れないでいる。
うううっ、こんな調子じゃこれから仲良くできるか、ちょっと不安になってきちゃうよ・・・
「え、えと・・・タケル君?」
「ラ、ライム・・・殿?」
おずおずと語り始めた二人の声が重なる。
それだけで二人の距離が大きく離れていく、そんな不安がひしひしとボクの心を締め付ける。
「あ、あのさ・・・ボクのこと、好き?」
「き、き、嫌いじゃあ、ないで、ござるよ?」
うわぁ、タケル君、メチャクチャギクシャクしちゃってる! このパターンって、絶対仲がこじれちゃうパターンだよっ!
なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ・・・
そわそわしながらボクは新しい話題を探そうといろいろ思いを巡らせる。
やっぱこういう時は共通の趣味とか、そういうのがあると心強いよね。
けど・・・今までの話しぶりから見てもタケル君って今の遊びなんて何も知らなさそうだし、となると何を話せばいいんだろ?
落ち着かない気持ちを抑えつつも何とか話の糸口を見つけようとしていたボクの目に映ったモニター画面。
ボクの勉強机に据えられた高性能パソコンの画面を見せたら、何かいい話題作りにならないかな?
「ちょっと待ってね、今からパソコンの電源入れるから!」
「ぱここん、というのは何でござるか?」
きょとんとしているタケル君をしり目にボクはいそいそパソコンの電源を入れ、起動が安定するのを待つ。
当のタケル君は目まぐるしく表示の変わっていくモニター画面を不思議そうに見ながら、おっかなびっくりといった足取りでボクの傍までやってくる。
やがて、モニターに壁紙画像が映し出される。今遊んでいるアクションRPGの、徹底的にボクに似せてカスタマイズしたお気に入りキャラクター、俗にいう「アバター」が今のボクの壁紙画像なんだ。
困ったことに、ボクの見た目が余りにも女の子してるからキャラクターは女の子で作るしかなかったんだけど、逆にお気に入りのかわいいドレスを着せることが出来てボクはもう大満足♪
この画像見せたらタケル君の反応も変わるんじゃないかな?
「・・・これは・・・ライム殿? 女の子、でござるか?」
「見た目そっくりに作ろうとしたら女の子にするしかなかったんだ、最初はショックだったけど、かわいい服も着せられるからそれも悪くないかなって思ってるんだ」
「つまり、この子はライム殿が作ったでござるか?」
「キャラクリ機能を使って作ったから一からってわけじゃないけど、まぁ、そんなとこかも」
「からくりでござるか、この箱もからくり仕掛けなのでござるか?」
「う、ま、まぁ当たらずとも遠からず、だね」
「ほぉぉぉぉ、現代技術というものは素晴らしいでござるなぁ!」
なんかよくわかんないけど、タケル君がボクのアバターに興味持ってくれてるみたい。このゲームはグループ編成による協力プレイも出来る仕様だから、もしかしたら一緒に遊んでくれるかも♪
「これってゲームのアバターなんだけど、どんなゲームか見てみる?」
「げーむ、でござるか? 拙者、文明の利器はよく分からんでござるよ?」
「とりあえず見るだけなら難しくないはず、ちょっとゲームの起動するね!」
と言いつつゲームアイコンを選択し、起動を待ってログインする。画面の中心にはボクのアバターが少し小さめに描写され、「酒場」と呼ばれるエリアの中でボクの操作を待っているんだ。
「をををををっ! ライム殿が映っておるぞ!」
タケル君ったら、待機状態のアバターがボクそっくりなのに気付いて大興奮してる!
これは結構脈があるかもしんないね♪
「ひとまず椅子に座らせてみるね。そしたらズームでボクのアバターをよく見ることもできるから」
「このライム殿が動かせるでござるか!?」
信じられないといった面持ちでモニター画面を食い入るように見つめているタケル君の前でゲームコントローラーを操作する。
軽快な足取りでボクのアバターは酒場内を歩き、一つの席にちょこんと座る。
「で、こうやって・・・ほら!」
壁紙に設定しているポーズとアングルを再現して画面に映し出すと、それだけで「動いた!」とか「をををっ!」なんていちいち感動していたタケル君が
「うおおおおおおおおおおっっっ! めんこい! めんこいでござるっ! 拙者、この絵だけでもずっと見ていられるでござるっ!」
なんて、まるでよだれを垂らしそうな勢いで画面にへばりついちゃったりして!
「そんなにモニターにくっつかれるとボクがモニター見れないよぉ!」
「を、済まぬでござる。しからば・・・」
名残惜しそうに画面から少し遠ざかったタケル君だけど、目の前でボクがアバターに色々なアクションをさせるたびにまた「よかでござる!」「めんこいでござる!」なんてはしゃいじゃったりして、最後にはしゃがみ込んで必死に画面を下から見上げ始めたりして・・・
「・・・なに、してるの?」
「い、いや、下から覗き込んだらその、襦袢が見えるのではござらんかと・・・」
「モニター画面には奥行なんてないから、そんなことしても見えないよ? それにこの子、そんな大昔の下着なんてつけてないし」
「うう、無念でござる・・・」
なんかタケル君がものすごく気落ちした様子だったので、カメラアングルを調整してボクはちょっとだけアバターの下着を見せてあげる。
なんかヘンタイみたいで複雑な気分だけど、ボクのツクシを見せるよりはよっぽど気分は楽だしいいかなって。
「をををををっ! めんこか襦袢を着けているでござるっ!」
「襦袢じゃなくてパンツだよぉ・・・」
とボクが訂正すると、タケル君ったら「パンツ、パンツ!」って連呼始めちゃったりして。
やっぱタケル君も男の子なんだね。
「このゲーム、やってみたい?」
「やりたいでござる! 毎日パンツが見たいでござる!」
「そんなゲームじゃないってば・・・」
ちょっとだけ抗議はしてみたものの、タケル君がこのゲームに強い興味を持ってくれたのはすっごく嬉しいから、一緒にゲームが出来るようにとちょっと前まで使ってたボクのお下がりパソコンを使わせてあげることにしたんだ。
物置からごそごそと引っ張り出してタケル君の勉強机にセット、配線繋いで電源を入れて、と・・・
まっさらなOS画面だけのパソコンをあれこれと操作してゲームのインストールをしてあげる。
ボクが今使ってるパソコンほどは性能がいいわけじゃないけど、それでもこのゲームは問題なく遊べるはず。
「こ、これでライム殿が動かせるでござるか? パンツ覗き放題でござるか?」
「いや、先にキャラクタークリエイトしなきゃ無理だってば・・・」
すぐにでもボクのアバターを操作できると思われても困っちゃう。そもそもボクのアバターはボクが一からセットアップしたものだし、このゲーム自体その機能がすごく充実してる分、セットアップにはけっこう時間と根気がいるんだよね。
「ライム殿と同じ子が使いたいでござる! ライム殿のパンツが見たいでござるっ!」
「流石にそっくりのアバターはやめようよ、他の人が見ても見分けつかなくなっちゃうじゃん」
「そ、そう、でござるな・・・」
ボクと同じアバターが使えないと知ってものすごく気落ちしちゃったタケル君、仕方ないからボクのキャラクタークリエイトデータを出力して、タケル君のパソコンにインポートした上でヘアスタイルのアレンジをして使わせてあげることにしたんだ。
「髪の色は何色がいい?」
「拙者と同じ赤は出来るでござるか?」
「赤、うーん、これくらいの色でいいかな? 髪の長さは?」
「軽そうな短い髪もいいでござるな」
「じゃあこれでどう?」
「をををっ、これはこれでめんこいでござるよ!」
初期衣装ではあるけどボクのアバターをヘアアレンジした自分用アバターを手にしたタケル君はもう大はしゃぎ。さっそくカメラアングルを切り替えてひたすら・・・もういいよ、自分用アバターなんだから好きなだけ見てれば・・・