第一話
「ライム、今日からここに新しい子が入寮してくることになったわ。
名前はまだ聞いてないけど、どうもそれが男の子らしいの。
困ったわねぇ。」
「ママ、どうして新しい寮生が来ると困っちゃうの?
同じ学校に通うことになる新入生なんでしょ? ボクの部屋に入れて上げれば誰も困らないと思うよ?」
そう、ボクの住む霧音荘は以前から学生寮として使っているんだけど、二年生、三年生の先輩方に加えて、つい先日入ってきたばかりの三人の女の子で貸し出し用の部屋が全部埋まっちゃったんだ。
だからママが困るのも分からなくはないけど、ボク自身本来は貸し出し用だった二人用の部屋を一人で使わせてもらってるせいで、部屋の広さを持て余していたんだよね。
新しい子が入ってくれるならボクも心細くないし入ってくる新しい子も困らない、まさに一石二鳥の解決策だと思うんだ。
そりゃもちろん、仲良くできるっていう前提あっての話だけどさ。
「ライムがそう言ってくれるのはありがたいけど、あなたその身なりだからねぇ。
おいそれと他の男の子と相部屋にしちゃうのも気がひけるわぁ。」
「失礼だなぁ、ボク、れっきとした男の子だよ?
ツクシだってちゃんとついてるもん!」
「でも、顔立ちも髪の長さも、誰がどう見たって女の子なのは事実でしょ?」
「うっ、そ、それを言われると・・・うう・・・」
ママの言う通り、小柄なボクの見た目はまるで女の子。
背中が隠れてしまうほどに長い緑髪は深い事情があって短く切ることも出来ないし、顔つきも体格も華奢そのものだからいつも女の子と間違えられちゃう。
おまけに男の子からも女の子からも「どっちかわかんないから気持ち悪い! 近寄らないでっ!」なんてよく爪弾きにされちゃうし。
「でも、でも・・・ボクだって高校生になったらお友達の一人くらい欲しいもん!
ね? だからその子、ボクの部屋に入れてあげようよ!」
「ライムがそこまで言うなら仕方ないわねぇ。
学校側から『無理なお願いとは分かっているのですが』って頼み込まれて困っていたんだけど、ライムの部屋に入れるということで話を進めておくしかなさそうねぇ。」
「やたっ! お友達が出来るっ♪」
「その子とお友達になれるかどうかはあなた次第よ? そんなので本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫だもん・・・たぶん・・・」
一応強がってはいるけど、ママが釘をさすようにボクにはまだ、友達って言えるような子がいないんだ。
ホントになれるのかって聞かれるとどうしても自信なくなっちゃうよ。
「そうよねぇ、こればっかりはやってみなければわかんないもんねぇ。
運を魔神様に任せてみるのも一つの方法かもしれないわ。
仕方ない、ここはママも手助けしてあげないといけないみたいね!」
「ママありがとう! 大好き♪」
「そうと決まれば受け入れ準備ね! 早く自分の部屋を片付けちゃいなさい」
「うん、ボク頑張るっ!」
新しく入ってくる子、どんな子なんだろう?
ずっと仲良く出来るといいなぁ、なんていろいろ思いを巡らせつつ、ボクは新しい寮生を迎えるためにいそいそと自分の部屋を片付けていく。
最初の一声は何と言えばいいかなぁ、ボクの身なりを見て引いたりしないかなぁ?
心配はいろいろ尽きないけど、でも友達が出来るならやっぱりボクだって心強いもん。
明日は絶対頑張って仲良くなるもん! と。