13
【同じ色の魔力】
サクサクサクサク
お菓子を食べる音だけが部屋に響く。そんな重苦しい沈黙を破ったのは町長だった。
「ごめんなさい。」
オルレントの視線も、お菓子に釘付けだった私の視線も町長へ向かう。町長の顔は先程の恐怖が少し取り払われているように見えた。
「なぜ謝る必要がある?謝るようなことをおまえはしていないだろう」
沈黙の中でも平然としていたオルレントはそう言いながら、町長が話し出す前に出てきた私の食事を横取りしている。睨んでもオルレントが横取りをするのを止めないので早々に諦めた私の視線は町長へと戻した。
「いいえ、貴方様と同色のユリアさんの存在を怖いと思ってしまいましたので」
「こんな私が怖いのですか?」
突如怖いと言われ私は町長をじっと見てしまった。それに対してオルレントが反応し、「サキトを見すぎだ」と言われた。
「凝視は失礼でしたね、ごめんなさい。怖いって言われることがないもので。でも同色だとなんで怖いんですか?」
怖いという町長に聞くのは躊躇われたので、オルレントへ顔を向けて聞いてみる。オルレントは食事のメインである肉を食べてから「そういう言い伝えが人間の世界にはあるそうだ」と言った。
「“同色魔力を持つ者が二人揃う時、世界には不吉な事が起こるだろう”、これが言い伝えだが、人間達の多くはこれを信じているのだ」
「不吉なこと?」
首を傾げる。具体的にはどんなことだろうか。
「例えば、世界を崩壊させる規模の戦争、魔王の復活、などだな。人間の歴史書には、“同色魔力を持つ者が現れた場合は不吉がもたらされるため、発見次第処刑または投獄せよ”との戒めが残っているくらいだ。」
“処刑”という言葉に、私は食事をしていた手を止めた。
「ああ、でも。誰と同色であるかも肝心で」
私のことなど全く気にしないオルレントは話を続ける。
「魔力が少ない人間と同色だと問題はないそうだ。故人が特に問題視していたのは魔法使い以上の魔力を持った者と色が同じだった場合だ」
「…オルレントはそれに当てはまりますよね?」
オルレントは今の話を「歴史書によると」と言った。だから今現在はきっと殺されることはないだろうが、それでも怖い。だが、ここはきちんと聞いておかねばならない。オルレントは私が怖がっているのが分かるのか、真剣な表情でこちらを見据えている。
「ああ、当てはまる」
「では、もし人間に見つかった場合…今の時代だとどうなるのですか?」
肩が震えてきた。たとえ今の話が昔の話でも、町長が怖いと言うくらいだ。他の人間にとっても自分の存在は恐ろしいものなのだろう。ぐるぐると考えていたらポンと肩を叩かれた。いつのまにか下に向いていた視線を上げて叩かれた方を見ると、そこにはオルレントがいた。席を立って隣に歩いてきたのか。
「今は投獄されることも処刑されることもないから安心しろ」
「そ、そうですか…」
それでもなんとなく安心できない。強張った顔をしていたのか、私の顔を覗き込んだオルレントは「酷く恐れている表情をしているな」とニヤッと笑った。
「だって過去とはいえそんなことがあれば普通怖いですよ。しかも人間は今でも怖がっているというし、なのに私は人間だし…」
「おまえは俺がリューニアだと忘れているな?」
オルレントが目の前でドラゴン姿に変化した。そしてそのまま目の前で停滞し、言葉を紡ぐ。
「その話を信じているのは人間のみだ。リューニアである俺は信じていない。それに俺は人間より魔力も力も強いし、知恵もあるから何も恐れることはない!」
最後の言葉はやけに力が入っていた。その言葉で不安が吹き飛び、変わりに笑みが込み上げる。本当になんなのだ、その自信は。本当に羨ましい!
「ははは…!オルレントらしいですね、その自信!」
「当然だろう、実力も伴っているのだから自信にもなる。」
ということで食事は全部いただく!とオルレントは少年姿に戻って残っていた私のための食事を全部奪っていった。「ああー!!私のご飯!」と叫んだが、すでに食事はオルレントの腹の中だ。オルレントは悪かったと思うこともないようで「旨かった」と感想を述べている。
「感想なんていらないんですけど!!返せ!私のご飯!!」
「まあまあ落ち着け、ユリア。俺の分の夕飯を分けてやるよ」
「譲る気なんてさらさらないくせにっ!!」
これ以上やると本当に言い合いになりそうだ。そう思っても止められないと考えていたら「じゃあサキト、俺たちはそろそろ失礼するぞ」と立ち上がった。
「え、この微妙な感じで帰るのですか?」
突然の帰る宣言にきょとんとしてしまう。オルレントは「夕飯の時間が決められているからな」と言って扉へ向かって歩き出し、扉の前で止まってこちらを見ている。どうやら私を急かしているようなのだが、ご馳走になったのでしっかりとお礼は言わなければ。
「町長さん、ご飯とお菓子を御馳走様でした」
立ち上がってオルレントの横まで歩いて扉の前で立ち止まる。しっかりと腰を折ってお礼を述べてから顔を上げると、町長は「いえ」といまだ気まずそうな表情のまま軽く頭を下げた。そういう態度はあまりされたくないが、今回の場合ではまあしょうがないと思うしかない。
「もうしばらくこの町にいる予定だから、会う機会はある。自身の行為を卑下せず次回へ活かせ」
オルレントは自身の近くに歩いてきたサキトの手を取って握手をした。サキトは若干泣きそうな表情で「ありがとうございます」と両手でオルレントの手をぎゅっと握って答えた。この二人の関係も謎だなと思いつつ、私たちは屋敷を後にした。