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【魔法の使い方】


 宿を出て町の大通りを目指す。日はすっかり落ちているが、街の該当が明るいから周りがよく見えた。昼間は疲れていて周囲を見ている余裕はなかったが、昼と雰囲気が違うことは感じ取れた。何より目を引くのは通りの両脇に多くの屋台が出来ていて人通りが昼より断然多いこと。昼の人数でも迷子になりかけたのにこれではリアル迷子は時間の問題かもしれない。先程から見知らぬ人に何度もぶつかりその度に謝っては先へ進むため足を前に出すが、足を踏み出すのを躊躇うほどの混雑具合である。


「ユリア、こっちだ。ったく、人通りが多くて敵わないな」


少し前にいるお師匠様の姿がチラリと見える。少年姿で人混みに紛れたら絶対に見つけられない自信があったが、彼の姿を見失うことはないし彼の声だけはよく聞こえる。たしか昼も同じように見失うことはなかったなと思っていると「ぼやっとするな」と怒られた。


「お前に追尾魔法をかけているから俺を見失うことはないが、気を抜くと人波に飲まれるぞ」


「追尾ってまるでスト…いや、探偵みたいなことが出来るなんてすごいですね」


心の声が届いたのかオルレントが教えてくれる。自身にかけられた少々衝撃定的な魔法に思ったことをそのまま口にしようとしたが途中で言葉を変えた。それほど大きな声では言っていないが、こちらの声もオルレントによく届いているらしく「黒は万能だからな」と嬉しそうに返してきた。


「おっ、串焼きの店発見!ユリア急ぐぞ!!」


「えーっ!!オルレントちょっと待ってくださいよー!!」


オルレントが早速自身のお目当ての店を見つけたようだ。突如歩く速度を上げたようで一気に姿が見えなくなる。あれ、私の好きなものを食べろっていっていなかった!?言ってることとやっていることが違うぞ師匠よ!!それに追尾魔法は見失わないんじゃなかったの!?


「と、とりあえず…人混みから外れよう」


このままでは余計迷子になると思い人を避けて避けて大通りから外れた細い道へとなんとか入り込んだ。大通りからは少ししか離れていないのに途端に人が少なくなる。ここまで違うものなのかと不信に思っていたら、どこからか音楽が聞こえてきた。


「なんかこのリズム…聞いたことある気がするな…」


笛のような音、テンポのよいリズム。聞き覚えがある気がして音楽がどこから聞こえてきているのか耳を澄ます。


「…あっちから聞こえているみたいだけど」


あっち、というのは大通りからは逆方向。ここから見るとその先は灯り自体も少ないらしく薄暗い。このパターンはオタクでなくてもよく知っている。こういう道の先には何か問題が潜んでいるのだ。小説のパターンだと主人公たちはその先に進んでなにかしらトラブルにあってヒーローに助けられる。その類いの小説を読むたびに「危険と分かっていてなぜその先にいく?!」と小説の主人公に突っ込んでいたものだ。なので、私の行動はすでに決まっている。


「危険だとわかっていて進むようなことなんかしない。私は大通りに戻るぜ!」


誰にいうでもなく宣言し来た道を戻るため体の向きを変えた。が、その瞬間に前から何かが突っ込んできて勢いでその場に尻餅をついた。


「いってぇ…。一体何が突進してきて…」


「あわわ!!お姉ちゃーん大丈夫!?」


両手を後ろについて立ち上がろうとしたら目の前にドアップの顔が二つ並んでいた。突然のことに驚き動けないでいると二つの顔のうち一つがさらにこちらに顔を寄せてきた。


「ん~、顔色は大丈夫のようだけど…。ねえねえ、怪我してない??」


「あ、うん…。たぶん大丈夫だと思うんだけど…」


目の前にあるのは赤い瞳。その大きな目はどこか心配そうであったが、私の言葉を聞いてぱぁっと輝き出した。


「怪我してなくてよかったぁ!!立てる?」


赤目少女がこちらに手を差し出してきた。十代の少女のようだが、そんなか弱い子に手を差し出されるとはいかがなものだろうかと思っていたらその隣の、こちらは青目の少女が「立てる?」と同じように聞いてきて手を差し出している。子ども二人に手を差し出されている謎の状況、これいかに。


「気持ちだけ受け取ってお…くぅよぁ!?」


さすがに子どもの手で起こしてもらおうとは思わず自力で立ち上がろうとしたら、いきなり両手をそれぞれの少女に掴まれ引っ張られる。グイーッと強い力で引っ張られ、勢いよく立ち上がったため変な声が出た。少女たちは立ち上がった私の前で「やったね!」とお互いでハイタッチをしている。


「あ、と…二人ともありがとう」


二人のテンションについていけない。だが、お礼は言わなければと思って頭を下げると「どういたしまして!」と元気な声が返ってくる。ここでようやく二人を見る時間ができた。先ほど距離がものすごく近かった少女は肩より長いだろう金髪を両側で結っている。対して青目の少女は銀髪を後頭部の高い位置で一つにまとめている。髪の色も目も対照的な気がして思わず「双子?」と呟くと二人は「正解!!」と同時に飛び跳ねた。行動までそっくりだ。


「シルビア、オリビア!行きますよー!!」


子ども達と会話しようと思ったら大通りから反対方面から大声が聞こえた。彼らの保護者だろうか。それを聞いた瞬間双子は「いかないと!」と言って駆け出した。


「じゃーね!お姉ちゃん、また会う日までぇ!!」


「ばいば~い!」


走りながらこちらを振り返り器用に手を振る少女たち。ノリで思わず手を振り返すと二人は嬉しそうに笑いながら去っていった。あっという間に彼女達の姿は見えなくなった。


「元気いっぱいすぎてまるで嵐のような子ども達だな…」


二人が去ると辺りは一気に静かになった。二人が去っていった方に誰がいたのか知りたくてそちらをしばし見つめていたが、何も見えなかった。仕方なく向きを変えて大通りを目指そうと足を踏み出す。が、前に踏み出そうとした右足が突如私の意思に反して左横へ向きを変えた。


「うっわぁあー!」


バランスを崩しそうになったが、右に続いて左足も左へご勝手に足を踏み出した。お陰で倒れずに済んだけれど、足はその勢いのまま勝手に動き出す。


「なにこれ…?私動かしてないのに足が勝手に動いてる…気持ち悪…!!」


足を自身の意思で動かしていないからか足に感覚がない。それがとてつもなく気持ち悪くて「止まれ!!」と思わず叫んだが、足の動きは止まらない。


「オ、オルレントー!!どこですかぁぁ!!」


誰もいなくなった道で勝手に動く足。不安が一気に押し寄せ、どこにいるかわからない師匠の名前を呼んだ。自分では解決できそうにないと判断したからだ。その間も足は動き続け、細い細い路地へと進んでいく。


「このまま進むとマズイ気がする…!!こういうときって一体どうすればいいんだかわからないぞ…」


進んでいくと街灯も減り、辺りが暗くなっていく。このままでは本当にまずい。直感でそう思ったから勝手に動く足が細い角を曲がろうとしたところで、曲がり角を両手で掴んで無理やり足を止めようと試みる。


「うぅーー!!私の足の割りにはなんて力強いんだ…いい加減止まれぇえ!!」


しかしやはり足は止まらない。手で角を掴んで先へ行かせないようにしても足は無理矢理でも前へ進もうとじたばたと動いている。これでは手がもたない。握力が低いことをここで後悔しても遅い。


「あしぃ!!おまえの本体はこの私だぞ!!言うこと聞け!!」


「なに一人で遊んでんだよユリア」


「ぎゃぁぁ…あ。うっわあぁっ!!」


突如声をかけられて叫び、それと同時くらいに足が動きを停止させたため私は叫びと共に変な体勢で倒れた。下が石畳なのですっごく痛くて目から涙がちょっと流れた。


「大丈夫か?」


声をかけられて、痛さに耐えて思わず瞑っていた目を開けるとそこには黒い肌の青目少年・オルレントがニヤニヤした表情でこちらを見ていた。


「お…おるれんとー!!た、たすかったぁ~!!」


倒れた体を仰向けにして安堵の声をあげた。ようやく足が止まったこととオルレントが来てくれて安心したからこの際ニヤニヤ顔は気にしないことにしよう。オルレントが上から覗き込んで来て「なぜ倒れているんだよ」と手を差し伸べるから、私はその手を取った。少年姿だが腕力はあるらしく、なんなく私を引いて立ち上がらせるとはすさまじい力だ。


「いきなり足が勝手に動き出して止まらなくて…なのに突然足が止まったから反動で倒れたってわけです」


服についた汚れを手で払いオルレントに事情を説明する。よく見たらオルレントの左手には串焼きが沢山握られている。私と別れていたこの数分にしっかりとお目当てのものは買えたらしい。ちゃっかりしている。


「ああ、それは追尾魔法だな。串焼きを買った時点でユリアがいないことに気づいて強めに魔法を再発動させたんだ」


「あの不自然な足の動きが追尾魔法だったってわけですか。だからいくら叫んでも逆らえなかったのか」


オルレントは嘆く私に「まあ肉でも食べろ」と串を一本渡してくれた。礼を言って受けとると師匠は「簡単に逆らえたら追尾の意味がないだろう」と串を食べ始めた。


「通常見失わない程度の魔法で事足りるが、お前にはそれでも足りないのだと良く分かった。それで、この数分間で他にも何かあったようだが?」


瞬殺で串を食べきったオルレントが突如話題を振ってきた。その早さに唖然としてしまっていた私だったが、声をかけられたのでハッとし「なぜわかるんです?」と師匠を見た。


「俺の追尾魔法に異なる魔法が上乗せされているからだ」


もう一本の串焼きを一瞬で食べてからオルレントは私の足に手を翳した。そこは先ほど双子と衝突した部分だ。まさかあの双子がかけたのか?一見ただの子どものようだったけれど、まさか魔法使いだったのか。とか考えていたら下から光が射してきた。足に手をかざすオルレントの手から赤い光が溢れているようだ。


「それも魔法ですか?今度は何の魔法を足にかけたんですか?」


足が熱い。転んだ部分が炎症を起こしているようではなさそうだから残る選択肢は魔法だ。聞くとオルレントは「いずれわかる」と明言はしてくれなかった。


「さて、大通りに戻ろう。まだ串焼きしか買っていないんだ。ユリアもたくさん食え。俺もたくさん肉を食べるぞー」


残り二本の串焼きをペロリと平らげ歩き出すオルレント。串は炎の魔法で綺麗に塵にしてしまうあたりはさすが魔法上級者だ。足に施された魔法が気になったが、オルレントは話してくれる気はないらしい。なんとなく悔しかったので私はまだ手に持っている串焼きに一口かじりついた。


「ユリアー、また置いていくぞ。今度はぐれたら追尾魔法をさっきよりも強く発動させるからな」


足を止めて食べていたことがバレたらしく、前から非情な声がかけられる。急いで串焼きを食べて先へ進むオルレントに走って追い付くと、オルレントはニヤッと笑ってこちらを見上げた。


「俺としてはいつ追尾魔法を発動させてもいいんだぞ。さっきのお前はすっごく面白かったから」


「面白いって言い切ったよこの人!私はあれ苦手なんでなるべくなら丁重にお断りしたいですね」


あの時の誰かに操られているような奇妙な足の感覚を思い出す。うん、やっぱりお断りだ。それがわかっているのかいないのかオルレントは残念そうな表情で「残念だ」とここでも言い切った。歩き出したオルレントの背を見て、私はもう二度と迷子にはならないと心に決めた。


「…あ?なんか体があったかくなってきた気が…?」


歩き出してすぐ、突如私は体全体がなにか温かいものに包まれたような感覚になった。動いているのだから体が温まるのは当然だけれども、一気に温かくなったのでその温かさとはなにかが違う気がする。またなんかしでかしたのか、私?あ、もしかしてこれがオルレントが言っていた「いずれわかる」やつかな。


「魔法の効果じゃないのか?」


前を歩く師匠はこちらを見ずに言う。さっき魔法を私にかけたのはオルレントではないか!なのに疑問系ってことは、先程私の足にかけたものとは違う魔法なのか。


「それか肉を食べて体温が上昇したとか?」


「オルレント、その返答ちょっと雑すぎません?」


オルレントがなんかいっている。その返答の雑さを思ったことを指摘すると、オルレントは「あはは」と軽快に笑っていらっしゃる。雑な回答だと否定しないんだ。

結局なんの魔法なのかはわからず、そんなやりとりをしていたらいつのまにか大通りに戻ってきた。先程と変わらずの混雑でどうやってすり抜ければいいんだと呆然としてしまう私を、一旦立ち止まったオルレントは振り返って見上げてきた。


「ユリアは何が食べたい?俺がその場所まで連れていってやるよ」


「そうですねぇ…あ!果物とか!デザートが食べたいです!!」


「でざーと?」


何が食べたいか聞かれるとは思っていなかったので咄嗟に思い付いたものを言うとオルレントが首を傾げた。ああ、日本人が大好きなカタカナは通じないんだな。なので追加で説明をする。


「甘いものがいいです。果物がのったものとか!あとは果物が入った飲み物でもいいですね、喉乾きましたし」


「甘味と飲み物がいいのか?それって夕飯にはならないんじゃないのか?」


そう言われると確かにそうなのだが、食べたいものは今食べたいのだ。ご飯はあとでも問題ないと思っているのでそのことを伝えるとオルレントは「ユリアは自由人だな」と笑われた。


「まあいいだろう。好きなものを食べろと言ったのは俺だしな。では先に果物系統の店を探すけど、それでいいな?」


「はい!問題ありませぬ!!」


よし、これで好きなものにありつける!そう思ったら目の前の混雑も怖くはないはず。オルレントが再び歩き出したので、今度こそは離れないように細心の注意を払い後に続く。


「むか~しむかしあるところに、嫌われ者の青年がおりました」


その時だ。やけに耳に響く声が聞こえた。その不思議な語りだ出しに私は思わず足を止めた。声の出所を見回して探してみようとしたが、この人混みだ。どこから声が聞こえるかなんてわかるはずもない。


「おいユリア!!本当に置いていくぞ!!」


前からオルレントの声が聞こえる。声の主を探したかったが置いていかれるとあの魔法の餌食になるのでそれは避けたい。「いきます!」と大声で返事をして、私はオルレントの後に続いた。


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