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読んでくださっている方に感謝申し上げます。
【試験の結果】
たったあれだけの実技試験で疲労困憊の私は数分休む羽目になった。初めて使った魔法に、体力をごっそりと持っていかれたらしい。魔法って思っていた以上に恐ろしい代物のようだ。
「少しは回復したか、ユリア」
ほんの少し体力が回復したところで、ベッドに寝転ぶ私をドラゴン姿で覗き込みながらオルレントが聞いてきた。私は「動くことはできそうです」と上半身を起こした。
「それでは、運命を左右する結果はいつ聞きたい?今がいいか、夕食後がいいか」
“運命を左右する結果”とは大層な言い方だ。少し考えて私は先に聞くことにした。なぜならば、結果を聞くまでドキドキが収まらなさそうだから。嫌なことは先に聞くに限る。そしてその嫌なことは食事をすれば大概回復する。食事のパワー恐るべし。
そんなことを考えてからオルレントから結果を聞くのにベッドの上はまずいだろうと思い、立ち上がってオルレントへ視線を向ける。オルレントはベッドに座ったまま私を見上げる。
緊張が辺りを包む。
「結果は合格だ」
「やっぱり不合格で…んん?え!?今合格って言いました??はぁぁ!?まさかの結果!?そんなバカな!!」
筆記試験の手応えから絶対不合格だと思っていただけに、オルレントの言葉が信じられなかった。まさか、筆記試験の予想が当たっていたのか!?私って凄いじゃん!と思っていたら、オルレントは「ただ」と言葉を続けた。
「筆記試験は全滅だ。実技試験が合格だから朝食は許可してやるが、地獄の書き取りはやってもらうぞ」
残念だったな、と笑うオルレント。しかし朝食があるならなんだって受け入れる自信があったので「朝食あるだけましです!」と言うと「お前ってやつは」と呆れた声が返ってきた。
「食い意地張りすぎだろう。普通は“筆記が全滅”と言われれば落ち込むものだぞ」
「まあ普通だったらそうかもしれなんですけどね。文字が読めないと分かった時点で筆記は全部勘でしたので」
私がそう言うとオルレントは私の言葉に驚いたらしく「全部勘で答えたのか?」と聞いてきた。
「はい。でも、ちゃんと回答しましたよ。勘ですけど」
そう白状するとドラゴン師匠は「俺の話を聞いていなかったな」と声を低くした。どうやら怒りの琴線に触れたらしい。部屋が再び緊張状態になる。自然と私は背筋をピーンッと伸ばした。
「出会って割りと早期に言ったのだが…“黒は取得困難な解析が可能だ”と」
「うーん…そんなこと言っていましたっけ?」
全くもって記憶がない。オルレントが言うように聞いていなかったようだ。それにしてもそんな重要な話いつされたのだろうか。早期っていうくらいだから出会ってすぐかもしれない。
「まあよい。試験が終了したあとに色々言っても仕方あるまい。では、お待ちかねの食事にするか」
「っ食事!!やっとだ!!」
色々言うのを諦めたらしいオルレントは怒りを収め、その口からついに「食事」の言葉が紡がれた。オルレントの思いはいざ知らず、テンションが一気に上がって思わずその場でガッツポーズをする私。ちょっと古いけれど、気にすることなかれ。きっとこの世界でガッツポーズを知っているのは私だけだ。
「今夜の食事だが、宿では今宵の準備は無理とのことで外で摂る。屋台で食べることになるが…、その表情では屋台は初めてか?」
「屋台!はい!!この世界では初めてです!うっわー楽しみだな!!」
“食事”というワードにテンションが上がっている中での更なる魅力的な言葉。“屋台”って何それ!アジア諸国のようなスタンドか何かがあるのだろうか。それだったらとても美味しそうなイメージでありテンションを上げずにはいられない。
私の表情が明るくなったことがわかったのか、ベッドから舞い上がったオルレントは私の目の前で停滞し、頷きながら「素直な反応でよろしい」と言う。わざわざ目の前に来て言ってくれるあたり、このドラゴンは意外と丁寧なんだなと思う。なかなかこんな風に言ってくれる人は少ないと知っているから。
「ここは屋台が多く出ていることで有名だ。食物もだが、装飾品や家具等も売っている店がある。屋台でしか売っていない食物もあるが、お前の好きなものを食すといい」
「うわーい!いっぱい食べるぞ!!!…っあ!えっと、ありがたいんですけれど…その」
喜んでいる最中に突如思い出した “ワタシ、オカネナイ” 問題。お金がないのにたくさん食べるなんて気が引ける。しかもそれが師匠の奢りなんて、これは大腕振って喜べない。オルレントは私のテンションの下がり具合を見て「なんだ、遠慮しているのか?」と首を傾げて聞いてきた。
「そりゃー遠慮もしますよ。一銭も持ってないんですし。…といってもお金を稼ぐ方法を知らないから仕方がないのですが」
言っていて、あ、と思う。そうだ、お金を稼げばこのように遠慮することもないじゃん、と思っていたらオルレントが「今回は」と口を開いた。
「ここまで修行に耐えてきた褒美だ。気にせず存分に食べるといい。」
「そういうことならご馳走になります!ありがとうございます」
森での日々を思い出した。旅、講義、実技の三つが合わさって結構大変な修行だったなと思い返す。奢られることはあまり好きではないが、頑張ったことは事実だしここは素直に奢られておこう。お金を稼ぐことについてはあとでオルレントに相談してみようか。
こうして念願の食事をするために私は再び少年姿となったオルレントと夜の町に繰り出すのだった。