表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【短編】

神様気取りで夜の帳





真っ暗闇で私は一人。


静寂だけ。それだけが、そこにはあった



手を前に伸ばす。


掴める物は無く、空間だけが広がっている。




私はここをこの世の始まりと定義してみる


きっと神様も最初は今の私と同じで。


独りぼっちで真っ暗闇の静寂にいたのだろう。



そりゃあ生き物を作りたくなる気持ちも分かる。



私は目を閉じて、想像する。


目の前に広がるのは、、


そう街だ。


人が行き交う繁華街。


お酒を飲んでべろべろになった会社員が2人。肩を組みあってふらふらと私の横を通り過ぎる。


居酒屋の看板、店内から洩れる光、さまざまな喧噪。


いらっしゃいませと声を上げる店員、他愛のない話で笑いあう大学生のカップル、ソフトクリームを舐める子供とその両脇で笑いあう両親


私は想像する。


創造する。




目を開ける。


そこには相も変わらず静寂と暗闇。



私は少し哀しくなって、あとは安心。


結局私は神様では無かった。




私は目を閉じる。




そこは教室。


私は高校生だった。



懐かしい黒板や机。


深呼吸をすると、当時の匂いがそこにはあった。



「ねえ、***さん」



振り返ると、女の子がいた。


私はこの子を知っている。


白いカーディガンを着て、三つ編みのツインテール。


顔立ちは整っていて、誰からも愛される。愛くるしい笑顔を見せた。


いつもこの子の周りには沢山の友達が集まっていた。


私は一度しか話したことがないのだけれど、


「高橋さん、、、」



私は声を出した。声を出したのは数か月ぶりだった。



「ちょっとお話しない?」


高橋さんは、近くにあった机に腰かけた。


私はどうしていいか分からず立ち尽くした


高橋さんはにっこりと笑いかける


「そんなに固くならなくたっていいのに」


「そこ、座って」



高橋さんに言われた通り、私は高橋さんの隣の机に腰かけた。



「久しぶりだね。髪伸びたね」


「...あんまり髪切らないから。多分この前切ったのは...ずっと前...」


「だめだよ、ちゃんと切らないと。女の子なんだから、」


高橋さんが私の髪の毛に触った。


私は驚いて、身を縮こまらせた。


高橋さんが私の髪を梳くように手を滑らせる。


引っかかると両手を使って丁寧に、髪を梳かしていた。


「最近は何してるの?」


高橋さんが私の髪を梳きながら尋ねてくる


「...別に、何も...」


「えー、うふふ。何もってことはないでしょ。...教えてよ」


「...本当に...何も...」


私は実際、本当に何もしていなかった。


カーテンの閉め切った部屋で天井を眺めていることもあれば、ベッドの上に腰かけてただ暗がりを見つめていることもあった。


お腹が空いたら、部屋の前に置かれたご飯に手を付ける。


そして、朝なのか昼なのか夜なのか分からないまま、眠ったり起きたりを繰り返していた。


今が何年の何月の何日なのかも覚えていないし、


自分がいつからこうしているのかも分からない。



私が黙り込んでいると、高橋さんは私の頭を優しく撫でた。


そして、私の耳元に顔を近づけ、囁いた。



「もう、戻っておいでよ。寂しいんでしょ?」



私は首を横に振った。


寂しくなどない。


私は、寧ろ安心していた。




ここには、私を非難したり、否定したり、私に期待したりするものは何も無かった。


私はこの狭くて、静かで、暗闇だけの世界でも十分だ。



それに、こうして高橋さんとも会えるのだから。





高橋さんは寂しそうに俯いている。




さて、そろそろまた別の想像に行くとしよう。




私は高橋さんのことを名残惜しく思いながらも、目を開いた。








しかし、高橋さんはそこにいた。




私は困惑し、何度も瞬きを繰り返すが、静寂と暗闇で出来た世界には戻ることは無かった。








高橋さんは私に手を差し伸べる。




「行こう。***。私はあなたをここから出してあげる」



私は何故か涙を流す、理由はさっぱり分からない。



ただ私は、高橋さんの差し伸べる手を強く握った






神様気取りで夜の帳 -終-







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルの語呂が流暢に流れる感じでよかったと思います。話自体も、光景が流れてゆく感じですしそれとマッチしていたかと。 [気になる点] もうちょっと、主人公の視界に映る光景が浮かぶように、掛…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ