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疾走

作者: 天地 万世

 ストリーキング―――


 公共の場、衆目の中を全裸で走り抜ける行為。端的に言えば犯罪である

何故敢えてこんな物を書くのか、と問われれば、笑ってしまったからだ


 物書きとは狂気を御せる人間にとっての天職の一つである

私は駄文書きの一人に過ぎないが、そんな人間の作品が増えるよう願っている




「本当にやるのか?」


「ああ。約束を破らないことだけが、私にある只一つの美徳だ」


 話しながら、男は衣服を脱ぎ続ける

一つ脱ぐ度に、その鋼のように引き締まった肢体が露になっていく


 遂に、男は最後の一枚に手をかけた

まるで躊躇することなく、その一枚を膝の下まで一気に下ろす



 男の覚悟が、その姿を現した



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 男の脱いだ衣服を纏めつつ、その友が言う


「じゃあ、俺はここまでだ。捕まるなよ」


「ああ。力の限り私は走り続ける。どうか見ていてくれ」


 最後に友へと微笑むと、男は振り返る事無くビルの谷間から歩み出ていった



 最初の悲鳴が、響き渡った



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 男が最初に行ったのは、入念なストレッチであった


 ぶら下げたその姿のまま、アキレス腱を伸ばし、ハムストリングを伸ばす


 そうこうしているうちに、制服姿の警官達が物々しくも駆けつけてきた



 何と話しかければ良いものか


 怒鳴りつけて逃げ出されては面倒だ。被害も拡大する


 手にした毛布で覆わんと、じりじり距離を詰めながら言葉を発する


「何故、君はこんな真似をしたのかね?騒ぎになる前に大人しくしなさい」


 一瞬、男は沈痛な面持ちをして俯いた。そして顔を上げ、フッ、と笑った


「私は世界選手権二位の男だ。話を聞きたくば、まず捕まえるがいい」


 言うや否や、男は振り返って走り出した


 警官達は、追いかける

 男のスピードは、次元を超えて上がってゆく



 彼を止められる者は、いない



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 路上を、人の隙間を、駆け抜ける


 驚きのあまり尻餅をつく女性もいる。目を剥く、とはこの表情を指すのだろう


 どうか安心して頂きたい。私は人畜無害だ


 人の隙間を縫って走るうちに、制服達と車で作ったバリケードが目についた

どうやら何があっても通さない腹づもりらしい


 押し寄せる制服の人垣を、フェイントと手を駆使して掻い潜る

車の前でロンダートから踏み切り、車に手をついて高く跳ぶ



 前方伸身宙返り3/2ひねり―――



 身を擦る風に、息子がはためく



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「捕まらなかったのは流石だが、少々騒ぎになってしまったようだな」


「ああ。この後、自首しようと思っている」


 一枚ずつ、衣服をその身に纏いながら男が答える

全てを着終えた後、男は少し考えてチャックを開いた。これは今日の勲章だ



 七月の空はどこまでも澄み渡り、遠く飛行機が雲を曳いてゆく


 一つを成し遂げた男は、躊躇することなくビルの隙間から歩み出ていった




 飽くまで、架空の話である。どうか真似をしないで頂きたい


 くだらない怒りを忘れる為には、くだらない冗談が最も適している

この文章が友の役に立ったことを祈る

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハードボイルドヒーロー? 我慢できずに、何度噴き出したことか。 後から見たタグでまで笑わせられるとは。 素晴らしい逃げっぷりでした。おもしろいです。 最後に敢えて下ろしたチャックが話をぐっ…
[良い点] 裸になれる男性は多いでしょう。 ですが、何の羞恥心も感じさせず、むしろ矜持を持って一糸まとわぬ姿に、清々しいかっこよさを感じました。 [一言] 昔は社会の窓などと表現しましたが、言いたい事…
2018/07/08 23:54 退会済み
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