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CASE.1 こっくりさん (6)

短め。ホラー描写って難しすぎてこの先大丈夫だろうかみたいな気持ちです……


「……センパイ?」


こんな状況なのに、真白はただ呆然とシャードを見上げている。どうやら彼女にこの光景は見えていないらしい。

見上げるほどに大きな黒い化け物の後ろで、先程までは地面を明るく照していた月は黒い雲に覆われ、陰っていく。


シャードは目の前の化け物から目を離せずに、ただ沈黙するしかない。その間に、また生ぬるい風がどこからか吹き込んだ。



「…………あ、紙が!」

『え?』


真白の驚いた声につられて見ると、先程までこっくりさんに使っていた紙がふわりと風に乗って、黒い化け物の前……シャード達の方を見て、宙に留まった。


「な、何がどうなって……」


続いて、いつの間にか飛んで行っていたらしい10円玉が、どこからともなくコロコロと……まるでそれ自体が意志を持っているかのように転がってきて、紙の上でその動きを止める。


──────それは、鳥居の位置に置かれていた。


まるで、これからこっくりさんでも始めようとしているようだった。



《……コックリ、さン。コっクり、サん》


「ひっ……!?」


突然、周囲に響き渡ったその〈声〉に、真白は短い悲鳴を漏らして縮こまった。シャードも思わず肩を震わせる。


それが目の前の化け物から発せられたものだということに気がつくまで、そう時間は掛からなかった。

男性とも女性ともとれない、まるで何重にも重なった音で出来た音声のような無機質な声。



《……ドうシテ、タすけテ クレなイ ノ?》

《ワたし ハ わるクナイ、ワタし ハ なニも わるクナイ ノに》


「せ、センパイ……この声って、もしかして……」


背中から聞こえてくる真白の声が震えているのに気が付いたが、シャードは小さく頷き返すことしか出来ない。



……きっと、この声は浅野香織が言っていた〈自殺した女子生徒〉のものだ。もしかすると目の前にいる黒く醜い憎悪の化け物は、かつての苦しみに耐えきれず、自らの命を絶った女子生徒の成れの果てなのかもしれない。



《どうシて、ドうシて……ミんナ みてミヌふリを スルノ?》


その声に呼応するように、10円玉がカタカタと震え始めた。シャードと真白は通常ではありえない光景に思わず息を忘れて……そうしている間に、10円玉はゆっくりと紙に書かれたひらがなの上を滑り始めた。



──────そのメッセージは、とても簡潔なものだった。



し、ね



し、ね、し、ね、




しね、しね、しね、しね、しねしねしねしねしねしねしねしねしね




みんな しね



『──────ッ、くるぞッ!!』

「わぁッ!?」


シャードはそう声をあげるのと同時に、咄嗟に真白の腕を勢いよく掴んで横へと走り避けた。目の前で、黒い大きな物体(まるで、化け物の腕のようだ)が振り上げられ、今にもこちらを押しつぶそうとしていた。


それが地面に振り下ろされたのと同時に、ドォンッ……!と屋上の床が壊れてしまうのではないのかというくらいの衝撃が走る。

二人は、慌てて互いの身体を支えあって何とか転倒を免れた。


化け物の姿が見えていない真白は、シャードの隣でただただ狼狽える。


「せ、センパイ、なんですか今の揺れッ……なんでッ……


──────センパイには何が視えてるんですか!?」


怯える真白の表情に、きっとこの状況をきちんと説明してやるべきだ。しかしながら、この危機迫った現状では話したい事も話してやれない。


『……ッ、今説明するのは無理だ!

とにかくアレから離れて安全なところに逃げねぇと』

「あ、アレってなんですか!?」

『俺だってよくわかんねぇよッ!!』


余裕を無くしたシャードの大声に、真白の肩が怯えたように震える。そんな彼女に、シャードはハッと我に返って……真白の背後から溢れ出す〈恐怖〉の感情を見た。先程よりも量を増したその感情を見て、シャードは少しだけ冷静さを取り戻す。


『(……そうだ、俺がしっかりしないと。

何とかできるのは俺しかいないんだ、俺が……)』


尚も続く地響きに恐怖心を抱きながらも、シャードは覚悟を決めたように拳を握り締める。


『っ、とにかくここから出るぞ!!

学校の敷地内から出れば、もしかしたら……ッ!』


こっくりさんは恐らく、この学校でのみ囚われている地縛霊の一種だ。どうにかしてこの廃校舎から脱出できれば、恐らくは……。

こんなことになるなら、父さんや母さんからちゃんとこういう時の対処法を聞いておくんだったと後悔しながらも、シャードは小さく縮こまるしかできない真白の手を勢いよく掴む。


「せ、センパ……」

『いいから走れッ!!』


シャードは真白に向かってそう叫ぶと、掴んだその腕を引いて急いで屋上の扉を開いた。




夜の廃校舎の逃亡劇は、そう簡単に先に進ませてはくれなかった。


『────クソっ!邪魔だッ!!』


来る時にはあまり気にしていなかったが、廊下のあちこちに出されて置き去りにされた机やイスや教壇が、二人の行く道を阻んだのだ。

まるで小さなバリケードのように積まれたそれらをいちいち交わしながら、後ろから迫ってくる黒い巨体の化け物から逃げる。


屋上に居た時には、明らかにドアをくぐり抜けられそうもないほどに大きかった化け物の巨大な体躯は、何故か今もシャード達を追いかけ続けていた。


「なんでドアくぐり抜けられてるんですかぁ!?!?」

『知るか!!!!いいから黙って走れ追い付かれるだろ!!』


ドスン、ドスンと重たい身体が地面を鳴らす音が背後から聞こえることにゾッとしながらも、二人は何とか1階に辿り着いた。


「……ッ、私、玄関開けてきますッ!!」


彼女のその背中からは変わらず〈恐怖〉の感情が出ていたが、ここまで走り抜ける途中で覚悟を決めたのか、そう言うと一歩先を走っていたシャードの手を離してぐんっと前に走り出る。


『お前……ッ!?』

「足の速さだけには自信があるんです!!」


驚くシャードにそう言った真白は、言葉の通り彼よりも先に玄関に辿り着くとすぐさま玄関の引き戸に手を掛ける、が……


「!? な、なんでッ……」


ガタガタと音を立てる玄関は、しかし何故か開かない。

鍵が掛かっている訳でもないのに、何故かピッタリと張り付いて合わさったかのように開かないのだ。


「どうしようッ……どうしようッ……せ、センパイ……!!月神センパイッ!!」


尚もどこからか聞こえてくる、けれども着実にこちらに近づいてきている鈍く響く足音に怯えながら、真白は半泣きになりながらシャードの名前を呼ぶ。


『ッ、危ないからどけッ!』


真白の声を聞きつけたシャードはそう言うと、走りよる勢いそのままに玄関に体当たりをする。

ドスンっ!と古びた校舎の玄関に相応しくない固い音がしたが、引き戸は壊れるどころか戸が外れるような感触もない。


どうやらあの化け物らしき存在が、自分たちをこの建物に閉じ込めようとしているらしい。


『ゲームみたいなお約束だな、ちくしょう!』

「どうしましょうセンパイ、このままじゃっ……」

『どうするって言ったって、どっか別の場所から出られる場所を探すしかな────』


思わず真白の方を向いたシャードの動きが、はたと止まる。


「…………セン、パイ?」


突然黙り込んでしまったシャードの様子に、思わず真白の声が上擦った。玄関から差し込む月明かりが、真白を薄く照らしてその顔には影が掛かっている。



────······けれども彼女の背後からその肩を掴んでいる、"まるで人の手のような形をした悪意の影"がシャードの〈眼〉に映った瞬間、彼は考えるのを止めて彼女の腕を再び掴みその場から走り出した。



「痛ッ!……せ、センパイ!?どこに行くんですか!?」


驚いて声を上げる真白の言葉を無視し、シャードはとにかく化け物との距離を離そうと行き先も決めずに障害物の多い廊下を走る。


『(化け物の"悪意"が真白に取り憑こうとしてるッ……!!

こっくりさんを途中でやめたから呪いが降りかかった?……いや、だったら俺にも伸びてなきゃおかしい)』


チラリと己の肩や身体を視て確認するが、あの化け物からの悪意が自分に伸びている様子はない。バクバクとうるさい心臓の音を聞きながら、シャードは混乱する頭を必死に動かして考える。


『(玄関は開かない。


だったら窓から……いや、玄関が閉じてるんだ。窓から出してもらえそうにもない。誰かの助けを呼ぶか?父さんに電話できればどうにかッ……!)』

「……ンパイ……ッ!センパイッ!月神センパイッ!!」


真白が必死に自分を呼びかける声が聞こえて、その思考は無理やり現実へと引き戻される。


『ッ、ちょっと静かにしろ今必死に考えて』

「ま、前……前ッ!!」


何故か怯えきったようにそう叫んだ真白の言葉に、シャードは慌てて前方へと視線を戻す。



〈────あはっ!〉

『……!!』


ぞわり、と背中に悪寒が走った。

シャード達より少し前方……10m程のしか離れていない距離で、辛うじて人のような形を保った黒い影の塊が佇んでいる。


黒いインクで塗りつぶされたようなのっぺりとした顔の下半分に、三日月の形をした穴が裂けるように広がる。

それが、その黒い塊が浮かべた《笑顔》なのだと理解した瞬間、シャードの全身から一気に血の気が引いた。


〈アは!アハアはアハあハあハハはハははッッ!!!!


────······ねぇ、どコに行こウとシテるのォ?〉



まるで、シャード達がこちらに来るのを初めから分かっていたかのように……それは待ち構えていた。

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