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CASE.Ø サトリの子 (前編)

初めての自創作小説。

お手柔らかにお願いします…



『……とうさんッ!!』


ばん!と勢いよく玄関が開いて、1人の少年が飛び込んできた。その眼には涙が浮かんでおり、今にも零れ落ちてしまいそうだった。


"あぁ、この時が来たか。"


いつかこんな日が来ることは分かっていた、自分達〈月神(つきがみ)〉の血を引く子供には避けて通れない瞬間が来たのだ。


イクスは玄関に立ち尽くす小さな少年の元へと歩み寄ると「おかえり、シャード」と言って微笑む。


「今日はまた、随分と泥だらけだ」

『……ともだちと、サッカーしてたんだ』

「そうか。それで、そんなに慌ててどうしたんだい?」


未だ靴も脱がずにその場から動かない少年の、その小さな手がぎゅうっと強く握られた。俯き加減なその顔は隠れていて、よく見えない。


『……ヘンなものを、みたんだ。

……お、おれのめ、おかしくなっちゃったのかな』


彼はそう言うと、ひっくと嗚咽を零しながら顔を上げる。綺麗なモスグリーンの瞳からは、大粒の涙がぽろりと落ちた。


『お、おれがボールをとったんだ……いつもみたいにゴールもきめて、ハットトリックだったんだ。みんなのところにいこうとしたら……そ、そしたら、そしたら……



────みんなから"くろいモヤ"みたいなのが、たくさんでてきたのがみえたんだ……ッ!!


そのモヤがおれにむかってきて……おれ、こわくて、びっくりして……だから、だか、ら……!!』



その瞬間、少年はわぁっと声をあげて泣き出してしまった。イクスは息子の小さな身体を抱き締めながら、小さな声で言い聞かせるように言った。


「……それはね、シャード。おかしくなんかないんだ。

"他人には見えないものが、僕らには見えてしまう。"


……それだけのことだ。

たった、それだけのことなんだよ、シャード」


なおも泣き続ける息子の背を撫でながら、イクスはこの先、彼に待ち受けるであろう苦難や葛藤が少しでも軽くなるようにと。


……開かれた玄関から見える、2つの獣の像を見つめながら静かに祈っていた。






(さとり)


古来から日本に伝わる妖怪の一種。

人の心を見透かす妖怪として知られており、その民話は日本全国に伝えられている。





────男子高校生・"月神(つきがみ) シャード"はサトリの子だ。



そう言うと少し語弊があるかもしれない。

正しく言えば、《サトリ憑き》の家系なのだ。



彼の実家は古くからある神社である。

その名も"月神神社"。一族の名字もここから取られたらしい。名前が何故かカタカナ表記なのにも理由があるのだけれど、その話はこの際置いておこう。



とにかく、月神 シャードには〈人の感情が視える〉。



物心つく頃、ある日突然、人から黒いモヤが出てくるのを見てしまってから彼の日常は一変した。


"人の心を見透かす"……サトリの力と言っても、シャードの眼には何故か、今まで他人の〈負の感情〉以外が映ったことは無かった。


怒り、憎しみ、嫉妬、殺意……いつも目に飛び込んでくるのは、そんな悪意の塊ばかり。


彼の父であり、月神神社の現神主であるイクスは、

「この力はシャード自身の身を守るためものだ」と言った。自分に向けられる悪意をいち早く敏感に感じ取って、それらを回避するための。


それから「それら全て、見たくなければ見なくてもいいものなのだ」、とも。



……しかしながら、シャードは未だその方法を見つけることができないでいる。



この力は〈呪い〉だ。

裏切られたサトリが、自分たち人間に忘れられないようにするための呪縛でしかないのだ。




······そもそも、どうして彼の一族にそのような〈サトリ憑き〉が生まれるのか?


その理由は、神社に伝わる短い昔話の中にある。




────······その昔、一人のサトリがいた。


その姿は決して妖怪や怪異のものなどではなく、ただ一人の人間そのものであった。

サトリはその心優しい性格で、村人に頼まれては村に訪れるであろう飢饉や疫病、自然災害をお告げしてはそれらから彼らを守っていた。


皆から慕われ……それと同時に、恐れられていた。



────······ある日、そのサトリはある村人の謀略によって〈人に仇なす怪物〉として退治されてしまう。


信じていた村の人々に裏切られ、嘆き、悲しみ……それでも騙された村人達を憎みきれなかったそのサトリは、死に際にその〈魂〉を二つに分けた。


一つは、サトリの憎悪を司る黒き狼の姿に

一つは、サトリの慈悲を司る白き狼の姿に


黒き狼は謀略を企てた村人達の臓腑を食いちぎった。

また白き狼は、彼らを恐れ許しを乞う村人達に人の言葉を使ってこう言った。


『あなた方がこの過ちを、心から悔いるのであれば、

あなた方がこれから先、私たちを崇めるならば、


······私たちはあなた方を赦しましょう』



その日から、

サトリが住んでいたその場所に、二匹の狼を祀る社が建てられた。


その神社には代々子供が生まれると、親から子へと〈サトリの力〉が受け継がれる。親が力を失う代わりに、その子供がサトリの力を得る。


そうして……サトリを鎮めるための神社を代々守りながら、その身にサトリの力を宿す彼ら〈月神〉が生まれた。




────······この物語は、そんな特殊な家系に生まれた少年・月神 シャードが

さらなる奇々怪々な事件に巻き込まれながらも成長していく物語。

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