4.来
15分ほど車に揺られ、着いたのは町はずれの小さな建物だった。探偵のアパートよりは大きいぐらいだが、それでも最近のマンションばかりを見るようになった目からすると小さくも感じてしまう。
「小野さんの部屋は?」
「二階の、一番左の端ですね。201号室です」
少し傾斜が急になっているアパートの階段を上る。コンクリート製の床にはところどころヒビが見られる。探偵のアパートを見た後だからあまり感じないが、今の時代には似つかないほど古い。
「外装に比べたら、内装は広く綺麗ですよ」
私の気持ちを察したのか、美喜さんは笑顔を見せながら喋る。
201号室の前に立つ。インターフォンを美喜さんが押すと、ピンポーンという音が中からかすかに聞こえる。
「やっぱりいない……のかな?」
「鍵は、かかったままですか?」
探偵の言葉を聞き、返答を行動に代え美喜さんはドアノブをゆっくり回す。
「あれ……? 開いた」
一番先に私が声を出していた。錆びついた音をだしながらドアは開き出した。
ゆっくりと開くドアと部屋。少し短い廊下の脇には多分トイレと風呂、そしてもう片側に小さなキッチン。私の想像する安いアパートの構造にそっくりではある。その先には多分リビング。下に目をやると、灰色のコンクリートに何個か靴が並んでいるのが見える。どれも綺麗に並んで、置いてある革靴一つとってもピカピカだ。スニーカーの結び目は絵にかいたようなリボンの結び目。
「美喜さんが行った時には鍵はかかってたんですよね?」
「はい。ドアノブを回しました」
ということは、美喜さんがここに来るまでの間に小野さん、または他の人が開けたということか。
「とりあえず、中に入りましょうか」
少し探偵は急かしている。事件の匂いを早くも嗅ぎ取っているのか。
私と美喜さんは探偵に続いて中へと入る。私も美喜さんもあまり横幅は無い方ではあるが、結構いっぱいいっぱいだ。かといって鍋の具材ほどぎっしり詰まるわけでもないので、まぁ一人ぐらいなら全然不自由のない生活はできるだろう。
「中は綺麗ですね」
玄関で靴を脱いで探偵は一言。確かに言うとおり中は綺麗だ。リビングはどうだか知らないけど、すごい広いわけではないかな。もしかしたら父親の影響で感覚が人よりずれてるのかもしれない。
「まぁ、かなり綺麗好きなので、小野君は」
確かに、玄関の靴だけ見てもその一面はすぐに察せる。
ゆっくりと探偵は廊下を渡る。少し恐怖が私の中に渦巻いている。もし小野さんがあらぬことをしていたら……。
余計なことを考えている間に、リビングの中がだんだんと視界に入ってきた。段々と見える世界に、段々と私の悪い予感も間違いでないこともわかった。
「ほぉら」
私の耳に入った探偵の呟きは、少し楽しそうにすら聞こえた。