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推理少女  作者: 悠(はるか)
第一章「探偵の事務所は古アパート」
3/4

3.訪

 聖五(せいご) 美喜という名前を見て、とても徳の高そうな名前、というのが私の第一印象であった。名前に恥じないおおらかな見た目をしている。黒髪の長い女性で、少ししわがあり、目も細く、口角も上に上がっているため、ずっと笑っているように思える。探偵から渡された紙、多分契約書なんだろうが、それを読んでいる間もずっと笑っているように見える。

 名刺には「代表取締役」と書いてあるが、簡単に言えば社長なんだろう。あまり詳しくはないのでもしかしたら違うかもしれない。

 そして、なぜ私、望月 京がこの場にいるのかというと……。

「私が星野探偵事務所代表、星野 湊です。こっちは助手の望月 京です」

 そういいながら探偵が自己紹介をしたからである。強く否定をすることもできず「どうも」と頭を下げることしかできなかった。

「急にお邪魔して申し訳ないです。たまたま看板をお見かけしてこちらに伺ったものでして」

 たまたま……とはいうものの、探偵事務所の前の道はただでさえ人通りがない。

「事務所の前の道はよく通られるのですか?」

「えぇ。静かですし、考え事をするときはよく。会社はちょっとここから遠いですけど」

 確かに、考え事をするにはちょうどいい場所のようにも感じる。

「なんか、二人とも若そうに見えますね? 探偵さんはお二人だけですか?」

「若いのはよく言われますが、探偵は僕だけで、こいつは秘書みたいなことをしている見習いです。前までもう一人探偵いたんですけどね、今は私だけです」

 探偵は愛想よく答え、「今回のご用件は?」と単刀直入に本題を切り出した。

「探偵というのは人探しもやっているのですよね?」

「まぁ、人だけでなく犬とか猫とかもやってますけどね」

 申し訳ないが、第一印象だけで言うとこの探偵には犬や猫すら探せるとは思えない。もちろん人も。

「今回は、私の会社の部下である『小野 武司』という人を探してもらいたいんです」

 初めてこういう場面を見たが、探偵への依頼は大体こういうものなのだろうか。

「小野 武司さんですね。部下とは言いましたが、なぜ探さなければいけないのですか?」

 美喜さんは、探偵に渡された紙に何か書きながら答える。

「彼は、このところ会社のお金を使いこんでいるという噂がございました。最初は、彼の性格を知っている私からしたら到底嘘のようにしか思えませんでしたし、彼に対して真正面からそのような質問をするのも無粋だと思いまして、詳しくは聞いてないのですが」

 会社のお金の使い込み……最近だと大企業の幹部がなんちゃらかんちゃらと連日のニュースでやっていた。

「しかし、五日前に彼は具合が悪いと会社へ連絡してから、一切彼とは連絡が付きません。もしやとは思いましたが、彼への信頼を考えて、決めつける事も出来ないのです……」

「病気が長引いてる可能性は?」

「そう思いまして、まずは彼の電話に留守電やメールを残しておきましたが、一向に返ってくる気配はしませんし、先ほど彼の部屋に行ったのですが留守みたいで……」

「病院に入院とか……?」

 私の呟きのような意見は「ないだろうな」と美喜さんが言うまでもなく探偵に却下された。なんか、腹が立つ。

 探偵はふかふかのソファーに更に深く腰を掛け「写真か何かありますか?」と言った。

 美喜さんは持ってきた小さい鞄の中をガサゴソと探り、一枚の写真を出した。少しクシャクシャではあるが、一人の男の顔が写っている写真ということはわかった。これが、小野 武司さんか。真面目そうな顔をしている。やつれている顔だが、元気そうな瞳をしている。

「小野さんを探す理由はお金を使いこんでいるかどうかの真偽を確認するためでよろしいのですか?」

「それもありますが、彼はとても几帳面で、真面目な人なので、もしこの件が本当であれば彼はやってしまったことを苦に自殺をしてしまわないかと心配で仕方ないのです」

 少し声が乱れ、声にも感情が強く見える。

 ただ、もし几帳面で真面目な人ならば、まず会社のお金を使いこむのかねぇ……? 記者魂、というよりもまず一人の人間としてそんな疑問を抑えられなかった。

「彼の家へ、もう一度行ってもいいですか? できれば探偵さんたちと一緒に」

「え、でも一度行ったんでは?」

 思わず声を出していた。

「彼の部屋のインターフォンを押しただけなので……。鍵はかかってたのは確認しましたが」

 そこで声が途切れる。つまりは、中で何かあった場合を考えて、私たちと一緒に確認したいということか。

 現在の状況を振り返る……と、まず私がこの状況に慣れていることが不思議で仕方ない。まぁ、これは一旦おいておこう。

 私は話を聞きながら走り書きをしたメモを見る。依頼人は聖五 美紀、年齢は言わなかったが、社長にしては若く見える。目的は人探し。探したい人は小野 武司。会社の金を横領している疑惑が掛かっているが、依頼人からしたらそんなことはありえないと思われるぐらいには几帳面で真面目。

 たまたま立ち寄った探偵事務所で、たまたま依頼が舞い込んだ。記者としては少しラッキーである。

「ここからどれくらいですか? 小野さんの住んでる場所は。さっそく行きたいんですが」

「チルドというアパートに住んでいて、ここから車で1、20分程度です。すみませんお時間かかってしまいますが」

「いえ、時間の事は気にせずに」

 探偵と美喜さんは立ち上がる。多分、小野さんの家へ行くのだろう。

「あぁー、えっと、私はどうしたら?」

 探偵に聞こえる程度の声で尋ねる。

「記者として美味しいネタを探るチャンスじゃないか?」

 ごもっともであった。私はリュックを背負い探偵たちの後ろをついていく。リュックは、取材中すぐに物を取れない欠点はあるものの、両手も開き、取材の邪魔になることも少ないので私はよく使っている。頻繁に物を出し入れするような状況が前もって予想できる場合は腰にポーチなどを装備する。

 妙に楽しそうな探偵は事務所を出ると、ドアに「CLOSE」の看板をかけた。鼻歌を歌いだしそうな表情の探偵を見て、不安が込み上げたのは言うまでもない。

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