そこにいる
黒のマジックで葛西綾香と封筒には大きく書かれており、
名前の下には小さく、宿題と林間学校の内容と
付け足して書かれていた。
それを、綾香と同じクラスであり友達のめぐみは、封筒を手に持ち、
インターホンのボタンを押しては、室内から聞こえる
反響した音に耳を傾け待つという地味な作業を数分間続けていたが、
誰かが着てくれる気配はなく、冬の寒さに耐えかねて
仕方なく玄関のポストにでも入れておけば
大丈夫だろうと、ポスト入れの細長い口に封筒を入れようとした、、とっ、
玄関のドアがガチャリと微かに開き、驚いてドアを見てみると、
誰かがあけたのか、勝手に開いたのか、ドアが数センチ外側に開いていた。
「あの~学校からプリント持ってきたんです。あやかちゃんに渡してって」
少女は小さな声で、少し開いたドアの向こうに問いかけたが返事はなく、
ゆっくりと近づくと、何度も着ているドアに手をかけ、ちいさくおじゃましますと
いいながらドアを開け、中へと入っていった。
ーーーーーー
中は、すべての電気がつけっぱなしになっており、
おじゃまします、すいません、プリントを、、と、通行許可書の
様に繰り返しながら、めぐみは中へと進み、リビングのドアの前に
大きな人影が立っているのに気がついた。
「あっ、、お邪魔してます。めぐみです。あやかちゃんにプリント
を持ってきたんです、、あの、、あやかママ??}
影は一言も発することなく、ただ、すりガラスのドアの向こうに
黒い置物の様に立ち尽くしていた。それは、異様に大きく、間違いでなければ
天井に頭が着いているように見える。
「あの、、」
そういいながら、リビングのドアに手をかけようとしたとき、2階から
かすれた声がきこえてきた。
「だれ??ママ??」
「あっ!!あやかちゃん!!!!」
めぐみは伸ばしていた手を引っ込め階段を駆け上り、ドアから
真っ赤な顔を出している綾香を見つけると笑顔で駆け寄った。
「めぐみちゃん!?どうしたの??」
「はい!プリント!!」
「わぁ!!ありがとう!!」
「宿題と林間学校の案内」
「宿題うぇ~」
「フフ」
「じゃ、私塾があるからかえるね」
「えぇ!!帰っちゃうの??」
綾香はそういい、笑いながらめぐみに抱きつき
暫くじゃれあっていたが、めぐみが腕にしがみ付く
綾香をベットに連れて行き、布団をかぶせ
「病人は寝てないとダメだよ。林間学校楽しみだね」
「うん、私ね、、聡君にこくろうと思うの」
「えぇ!!マジで!!綾香ちゃんならいけるよ」
「ありがと、めぐみちゃんは勇気くんでしょ?」
「う~ん、まだ迷い中、、あっ!本当に行かないと行けないから
明日来れないなら、また来るね」
「うん、ありがとね。バイバイ」
「バイバイ、あっそうだ、下にいるのってあやかママだよね?」
「えっ??ママ帰ってたの??私寝てたから、、そうだ、
ママにジュース飲みたいって伝えといて」
「いいよ、じゃね」
「うん、ありがとね。」
布団の中で手を振る綾香に笑顔を向けながら、めぐみはドアを閉め、
本当に遅刻しそうだと、急いで階段を駆け下りる。
「えっ、、」
とっ、1階の電気はすべて消えており、夕方の暗さもあってか
さっきとはうその様に暗く、どこか不気味になっていた。
「あやかママ、、」
大きなはずの玄関ドアよりも大きな何かが、玄関を塞ぐようにして
のっそりと立っていた。
すりガラスもないのにソレは暗く、玄関ドアの隙間から室内に入る
夕焼けの光でさえも照らす事ができていない。
「あの、、あやかちゃんが、、ジュースのみたいって、、」
震える少女の目の前で、ソレは大きく左右に揺れ動き、そのたびに
頭が天井をこする音がきこえてくる。
「あぁ、、あやか、、ちゃ、、ん、、、いやぁぁぁあ!!!!」
パッと電気がつき、泣きながらめぐみが前を見つめると、
買い物袋を提げた綾香のママが、驚いた顔で恐怖で青ざめている
少女を見つけ、急いで近寄ってきた。
ーーーーーーーーー
「おーい、石森。」
「はい、」
「今日も葛西に持って言ってやってくれないか」
「えっ、、、」
「どうかしたのか?」
めぐみは何も言わずに封筒を受け取ると、ランドセルを背負って
教室を出て行く子供達の波に合流した。
(夢でもみたのよ)
あやかママの言葉を何度も信じようと言い聞かせたが、あの大きな
影が夢だとは思えなかったし、なによりも、あやかママが
(鍵開いてたの?)
の驚いていった言葉がなおさらめぐみを恐怖させた。
開けたのだ、、あの影が、、
固い表情のまま、出てこなければポストに入れればいい
「でてこないで、、」
声に出してそういいながら、祈るようにめぐみはインターホンを押し
室内に響く、異様にながい音が終わるのをまち、そして、、
「めぐみちゃん!!こっち!!」
ーーーーーー
綾香は既に熱も引いて元気になっていたので、めぐみが来るのを
マンガを読みながら待っていた。
そして、インターホンの呼び鈴が聞こえるとすぐに立ち上がり
玄関前で封筒を持って立っているめぐみを見つけると、
2階の窓を開けて声をかけたのだ。
彼女の親友はゆっくりと、少し驚いた顔でことらをみつめ
そして、驚いていた顔は恐怖で歪み、持っていた封筒を震える手から
地面に落とすと、綾香のほうを見つめたまま何かしら言おうと、
口をパクパクさせたが、すぐに、声にない恐怖の悲鳴を上げると
その場から振りかえることなく走り出し見えなくなった。