Trust And Combat 2
前作「Trust And Combat」(http://ncode.syosetu.com/n0697cy/)の続編となります。
前回、敵に捕まってしまった桜兵長の救出作戦。
今回登場する銃は「H&K MK23」がメインです。
本部北北東、作戦遂行区域
『桜、戻ってこい』
「了解です、小隊長。ですが弾がもう無いので、戦闘を回避するために大周りで移動します」
敵精鋭部隊迎撃戦の別動部隊として軽機関銃を担ぎ戦闘をこなしていたが、その軽機関銃、ミニミの残弾が残り僅かとなり戦闘地帯を横切れそうになく、迂回するために塹壕を出て西へ進もうとした所で遠くに土煙を発見した。
「なに、あれ……」
双眼鏡で土煙の元を確認すると、車両基地でよく目にするものよりもかなり大きい戦車、ティーガ―Ⅱが地面を削りながら進む姿が見えた。
進行方向から予測するに、恐らく小隊長が戦っている場所に向かうものと思われる。
小隊長達は対戦車兵器を携行しておらず、わたしと同じく残弾も少ない。
「わたしが足止めしなきゃ……」
重戦車は残弾の怪しい軽機関銃でどうにかなる相手ではない。
ましてや自分は重量過多になるため、手榴弾すら携行していない。
こんな装備ではティーガ―の銃架に架けられた旧式の汎用機関銃、MG34とすら互角に戦えるか疑わしいほどだ。
でも。
「逃げるわけには、いかないんだから……!」
ミニミを担ぎ直し、ティーガ―へと向かう。
この時、小隊長に無線連絡をしようとしたのだが、電波障害のせいで断念せざるをえなかった。
仮設司令部
「作戦ブリーフィングを始める」
すでに完全武装を終えた隊員を前に、救出作戦の概要を説明する。
「今回は陽動は行わず、隠密行動での奇襲を仕掛ける。部隊は通常の4分隊に加え、突入する選抜メンバーで班を2つ編成する。第1班は第2分隊分隊長、一緒に来い。第2班は各分隊からポイントマンを1人ずつ選出しろ」
編成を言い渡すと、第2分隊長が手を挙げた。
「あの、小隊長……」
「どうせ外しても行くって言いだしただろ。それに、お前は腕効きのポイントマンでもある。もともと連れて行くつもりだったさ」
「ありがとうございます!」
「次は部隊配置だ。桜兵長の無線をたどったが、途中で投棄されていた。周辺の高高度偵察によっておおよその場所は特定できている。以前の空爆によって破壊された油田施設の管理棟、そのどこかに拘束されているものと思われる。施設はコンクリートの防壁で囲われているが、行きはロープで侵入し、帰りは爆薬で突破する。問題は敵の歩哨と、防壁の上に展開しているスナイパーだ。これはバレットM82A1をはじめとする対物狙撃銃による超長距離射撃でスナイパーを無力化の後、無音兵器を用いて歩哨を制圧する。防壁確保後は狙撃手を配置し、内部警戒及び、撤退に備えて爆薬をセットし待機だ」
「「「了解!」」」
「各員車両に分乗! 突入班は偵察用オートバイで先行、潜入する!」
油田施設跡地 管理棟・作業員宿舎
「ボス、敵が素直に要求に従うと思いますか?」
旧東側陣営が開発したバレルにサプレッサーを組み込んだセミオート消音狙撃銃、VSSを下げた男が問いかける。
「いや、間違いなく奪還作戦を行うだろう」
ボスと呼ばれた女は態度を崩すことなく答えた。
「増援を要請しますか?」
「これは司令部から下された作戦ではない。欧州進出作戦のおまけだ。増援は要請できない」
「では……どうしますか?」
「この部屋に爆薬を仕掛けろ。窓と扉、ダクトにワイヤーを張れ」
「それでは……俺達は?」
「侵入されたらそこまでだ」
「…………」
男が爆薬の準備を始め、周囲は風の音に包まれた。
油田施設跡地 外周
突入班は2手に分かれ、内部に侵入する。
SOCOM(特殊作戦軍)の要求にこたえるために造られたH&K MK23にサウンドサプレッサーを装着したものを構え、防壁に接近する。
サウンドサプレッサー(減音機)は、銃の発射音を抑える事のできるパーツだ。
MK23の使用弾薬は旧西側陣営で普及している45ACP弾。
これはサブソニック弾(亜音速弾)で、音速以上で飛翔し、衝撃波を出す9ミリパラべラム弾よりもサプレッサーとの相性がいい。
さらに45ACP弾はストッピングパワー(打撃力)が強いため、制圧能力にも優れている。
すでに歩哨とスナイパーは無力化されており、防壁の一部は確保された。
タイムリミットは歩哨の交代時間である約15分。
ロープで防壁を超え、内部の建造物を1つづつ確認していく。
でくわした敵は発砲される前に無力化する。
残り時間が5分となったところで、桜兵長を宿舎の中に発見した。
どうやら眠っているらしい。
室内に敵の姿は見えないが、間違いなく潜んでいるだろう。
突入班は無線を送信専用にしているため、第2班はいまだ捜索を続けている。
分隊長が窓を開けようとするのを無言で制止する。
ポケットからガムを取り出し、少し咀嚼する。
「小隊長?」
分隊長が小声で疑問を唱える。
銀紙を窓枠に挿み、噛んだガムで留める。
「トラップだ。こうすると、センサーはいじられていないと勘違いする」
窓枠に手を掛け、静かに突入。
拳銃を構え、素早く周囲を見渡すが敵の姿は無い。
分隊長に兵長の救出を任せ、周囲を警戒する。
分隊長が眠ったままの兵長の拘束を解き終えたころ、不意に背後の窓ガラスが割れた。
それを皮切りに次々に背後に弾痕が増えていく。
「伏せろ!」
弾着位置から敵が壁の向こうから撃っている事が分かる。
おおよその位置を推測し、応射する。
分隊長も兵長を守りながら応射。
相手もサプレッサーを装備しているのか、マズルフラッシュと発砲音からの位置の特定ができない。
敵も位置を移動しながら撃っているようで、射線も逐次変わる。
薄い壁一枚を挟んでの銃撃戦。
撃ち続けていると、いつの間にか敵の銃撃が止んでいた。
慎重に隣の部屋へとつながる扉を開ける。
そこには、VSSを持ったまま倒れた軽歩兵がいた。
「これで……」
分隊長が言いかけた時、背後から別の銃声。
桜兵長を抱えた分隊長が被弾。
銃声がVSSのものではないため、別の敵が潜んでいたものと思われる。
「う……ん…………」
そんなとき、桜兵長が目を覚ました。
「……おにい……ちゃん?」
「…………は?」
一瞬、同じ室内に敵がまだいることを忘れ、桜兵長と分隊長の方へ振り向いてしまった。
「あ、バカ! ここで呼ぶな!」
分隊長に指摘され、桜兵長が固まった。
「あのさぁ、忘れないでくれる?」
女の声。もちろん桜のものではない。
我に帰り、瞬時に発砲する。
1発は外れ、1発は胴体に命中。
だが、撃つべきでは無かった。
「あ……ファイアインザホール?」
桜の声を聞いた数瞬後、視界は炸裂する手榴弾をとらえていた。
「……! ……!?」
どこか遠くから声が聞こえる。
「……長! 起きてください、小隊長!」
声が聞こえる。今度は間近から。
ゆっくりと目を開ける。
頭の奥で鐘が鳴っているが、かろうじて目は見えた。
どうやら炸裂したのはスタングレネード、つまり、音と光で一時的に眩暈や失明、難聴等を引き起こすことを目的とした低致死性兵器。
非殺傷ではなく、低致死性と呼ぶのは、ショック死の可能性があるためである。
「くそ……あの女は!?」
銃声を聞きつけやってきた第2班のポイントマンを問いただす。
「拘束しました。それよりも急いでください、残存していた敵分隊との交戦が既に始まっています!」
まだちゃんとは聞こえないが、確かに銃声が聞こえる。
「おい、起きろ!」
ゆするが、分隊長は失神しており、起きたのは桜だけだった。
「へ? あ、あのっ! グレネードが!?」
「退却だ。分隊長をポイントマンと運べ」
まだパニック状態の桜に指示を出し、弾切れのMK23の代わりに敵の持っていたVSSを拾い上げ、外に出る。
「こちらエイト・リーダー。突入班は合流。桜兵長は確保。分隊長は戦闘不能。予定通り防壁を爆破し、撤退準備だ」
隠密行動の必要はもう無いので無線を使い、外にいる本隊に命令を出す。
了解という返事の直後に爆発。
「よし、行くぞ!」
まだ施設内に潜んでいた敵に応戦しながら、走る。
数分後、無事、装甲車ハンヴィー(ハマーの軍用モデル)に乗り込むことができた。
車内
「う……ん……」
「ようやく起きたか。お兄様?」
「……忘れてください…………」
「まぁ……皆には黙っとく」
「助かります」
後から聞いた話によると、桜兵長は、捕まった後寝落ちしてしまったらしい。
どうりで「気絶」状態じゃないのに反応が無いわけだ。
リアルで分隊長に起こされた時に、ふと出てしまった言葉をマイクが拾ってしまった、とのことだった。
「Trust And Combat 2 end」
現時点で「3」のプロットは存在しません。
「浮場修復された魔改造大和」や「第8小隊剣と魔法のゲームへ」みたいなのがあったら面白そうだなー、みたいな。