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闇の教室
東京都のN市にある私立の高校、西皇子学園は今、闇と静けさに支配されている。
深夜の学校は闇の深さが際立つ場所だ。学生、教員であふれている昼間との著しい落差がいっそう闇を深くするのだ。
闇の中でひそかなため息を吐く者がいた。A棟校舎三階の二年B組の中、戸田恵理は形の良い唇から再びす―とため息を吐くと窓際に立った。
恵理の心臓がどくどくと高鳴っている。これから何があるのか、それを考えると足が萎えそうになる。そして三月初旬、夜は冷える。
白のパンツに赤のセ―タ―という軽装を恵理は後悔した。春の名のとおり昼間は暖かったからだ。恵理の体は恐れと寒さに震えていた。
と、そのとき教室のドアがゆっくりと開き、大柄な影が入ってきた、そして恵理に声が掛かった。
「へえ―ほんとに来たか」
同学年で同じ組の岩尾勇次が恵理に近づいてきた。グレ―の制服のブレザ―姿で今時、珍しい坊主頭で脂肪たっぷり太っている。
「金持ってきたか?」と勇次がそう聞くと、
「あなたにあげるお金は無い、そう云いに来た」