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ドラゴントーカー  作者: バラ発疹
第二話「死の宣告」
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2,

キヅキはすでに、このイライザがイーグルの翼のありかを知る女性だと確信していた。しかしその事は、目の前の男性に知られてはいけない事のように感じていた。

「すみません。ちょっとイライザさんにお話があるのですが、よろしいでしょうか」

 突然声をかけてきた見知らぬ男に警戒する男性。何者だね君は、などと言っている。

 しかし当のイライザは、事情を察したらしく「ええ、かまいません。では家にいらしてください」と誘われた。

 イライザの家は、薄汚い小屋のような家だった。

「ただいま」とイライザが扉を開けると、「おかえりママ」とかわいらしい6歳くらいの男の子が中から走ってきて飛びついた。

 男の子は「ミゲルおじさんこんばんは」と男性に挨拶し、男性も「こんばんは、ルイスくん」と返した。その次に、イライザの子ルイスは、キヅキを指さして「この人だあれ?」と聞いた。するとイライザは「この方は、ママの大切なお客さまよ」とやさしく説明した。「こんばんはルイスくん。僕はキヅキです」と挨拶すると、ルイスはキヅキの目を見て「うん」とだけ返事をした。

 とりあえずテーブルの席に座らされたキヅキだったが、ミゲルという男性も対面に居座っており、肝心の話題が切り出せないでいた。

「ミゲルさんでしたっけ。あなたは帰らないんですか?」

「帰りませんよ。別に帰る用事はないもので。俺がいたらマズいでしょうか」

 さらに警戒心を強めてしまったようだ。

 察するにこのミゲルという男性はイライザに恋心を抱いており、そこに現れた見知らぬ男の素性が気になってしかたがないのだ。

「別に僕はあやしい者ではありません。イライザさんに話があるだけで、危害を加えようとか、恋愛感情がどうとかもありませんので安心してください」

 そう告げるとミゲルは、「そうなんですか」と言って、少しほっとした表情になった。わかりやすい男である。

 話してみるとこのミゲルという男は、いかにももてそうな風貌に反して純粋な心の持ち主で、心底イライザの事が好きなようであった。

 しかしそこには色々な事情があって、うまいこといっていない様子。


 彼がこぼした身の上話を要約するとこうだ。

 この街有数の富豪の子ミゲルは、半年前にこの街にやってきた子連れのシングルマザーのイライザに一目惚れ。仕事を探していたイライザを、父親の経営する高級クラブで働かせる。しかし美人だが器量が悪く、さらに子供連れということもあり、ミゲルの親はよく思っていないらしい。


 結末がどうであれ、ミゲルの問題が決着しないと話は進んでいかないようなので、どうするか考えてみる。

 こういうことは、長い時間をかけて親の信頼を勝ち取るというのが正攻法だろう。しかしそんなことにあまり時間をかけていられない今、成功率は低いが、雁首そろえてミゲルの親に直談判しに行くのがてっとり早い。

 ミゲルをなんとか無理矢理説得し、翌日の夜、イライザとルイスを連れて、キヅキは彼の親の元へ訪問することになった。


 しかし当日の昼に急展開。

 イライザが仕事に出ているあいだに、ルイスが何者かによって誘拐されてしまったのだ。犯人が残していった置手紙には、子供を返してほしければ街の外にある吊り橋までイライザ一人で来いと書いてあった。あまりの出来事に泣き崩れるイライザ。動けなくなってしまったイライザの代わりに、ミゲルがイライザに扮して待合い場所まで行くことになった。

 キヅキも見つからないように隠れて同行して見ていると、やってきたのは一人の女性だった。彼女はどうやら親が決めたミゲルの婚約者らしく、正体を明かしたミゲルと言い争う。

 言い争いも落ち着いた頃に詳しく話を聞くと、貴族階級のお見合いには色々な圧力があり、婚約者を下賤の女に寝取られたとあっては一族全体の恥となるので、彼女も必死だったらしい。それで邪魔者を抹殺しようとしたわけだ。

 さらに話を聞くと、なんとこの抹殺計画をけしかけたのはミゲルの両親だった。

 そこからは怒濤の展開で、自宅に殴り込んでいったミゲルは関係者勢揃いの中、イライザへの思いやら、両親への不満、貴族階級の疑問など、熱くぶっちゃけた。

 さらには、イライザとルイスの泣ける親子愛があり、それを目の当たりにしたミゲル親子も涙ながらに和解するという、昼ドラの最終回顔負けのドラマが繰り広げられていった。

 こうしてミゲルの問題は解決したのであった。めでたしめでたし。


「ちょっと待ちなさいな、そこの唐変木」

 感動覚めやらぬ一同の中、キヅキの耳にイライザの声が響いた。

「なんですの? このいいかげんな話のはしょり方は。低俗な人間の分際で、わたくしと息子との感動的なやりとりを省くとは。キヅキ、貴様は地獄に落ちて永劫の苦痛にもがき苦しむがいい」

 今の発言が聞こえていなかったかのように感動している人たちを余所に、ああっもおっ、とキヅキはキレた。

「あんたねぇ、他人に聞こえないからって何を言ってもいいわけじゃないでしょ。昨日クラブの勝手口で会ってからずっと恨み言聞かされてる僕の身になってよ! もおあんた性格悪すぎ。イーグルよりひどいじゃん」

 突然独り言を叫んだキヅキに、ぽかんとする一同。そこでイライザは、今度はみんなに聞こえるように、のけぞりながら口を開いた。

「それはあなたが、わたくしの本当の声が聞こえてしまうのが悪いですわ。そもそもトーカーの分際で、わたくしの性格を咎めようなぞ笑止千万。延々と続く恨み節で、貴様の精神を回復の及ばぬほど崩壊させてやろうか」

 本当にこの調子で、イライザはキヅキにだけ聞こえる声で延々と人々をけなしていた。それをもしミゲルが聞いたりしたら、二度と立ち直れないような内容で。だからキヅキは知られるわけにはいかなかったのだ。

「キヅキ、君はトーカーだったのか。そうとは知らず、失礼した」

 ミゲルの父親の発言で、みんなのキヅキを見る目が変わったが、ミゲルはイライザを見て茫然としている。どうやら状況を飲み込めていない様子。

 さらに追い打ちで、ルイスがベランダの手すりに登る。

「ママ、こんな出来の悪い僕に付き合ってくれてありがとう。僕はもうひとりで飛んでいけるよ」

 などと叫んだかと思うと、ルイスはドラゴンへと変身し、翼をばたつかせて空へと飛んでいってしまった。

 そう、イライザとルイスという貧困にあえぐ美しい母子とは仮の姿で、その正体はドラゴンの親子だったのだ。

 茫然自失のミゲルを置いて、キヅキは、じゃあそういうことで、と言い残し、イライザを連れてその場をあとにした。

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