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ドラゴントーカー  作者: バラ発疹
第二話「死の宣告」
8/38

1、

 どしーん、どしーん、と、歩くたびに起こる地響き。

 遥か前方では、扇状に鳥たちが森から逃げ出して行くのが見える。

 あの戦いとエリナの死から4日後、キヅキは再びイーグルに乗っていた。

 先の戦いに勝利したため、キヅキが倒したドラゴンを保有していた国と、和平交渉をしに行くのに同行してくれと国王に頼まれたのだ。

 強力な武力を盾に言う事を聞かせるなど不本意だったが、それによって一時でも殺し合いが止むのであればしかたがない。キヅキはそんなこんなで、国王と2人の側近、そしてイーグルのメンテナンス要員のザイルを駕籠かごで運搬しながら、隣の国へと向かっているのである。

 しかし隣国といえどこの世界は広く、イーグルの足をしても4日はかかるらしい。さらに他にその行程を遅延させる理由があった。

「キーヅーキー、少しー、休憩ー、しようぜー」

 つい一時間ほど前に休憩したばかりだが、そんな要求をザイルはしてくる。だがその申し出はキヅキにとってもありがたかった。イーグルの操縦は意外と疲れるもので、いつ休憩を切り出そうか思案していた。

「いやホント、あの揺れは殺人レベルだって」

 ザイルは伸びをしながらそう愚痴をこぼす。国王以下も異論はないらしく、目をそむけて苦笑いしている。

「ごめん、これでも気にして歩いてるつもりだよ。それにしても、歩いてるだけですごい疲れるんだよね。こう何か体力を吸い取られてる感じで」

 それを聞いて、ザイルもキヅキから目をそらして苦笑いした。

「なに? ザイル何か知ってるの?」

「おおキヅキよ、言っておらんかったか。貴様の体力は、ワシが少しずつ奪っておる」そうイーグルは言った。

「それって、イーグルを動かすのに必要以上に体力使うってこと?」

「いいや、動かすだけなら、自分のそれと変わらん。それとは別に、ワシが自分で体を動かす分のエネルギーを吸い取らせてもらっておる」

 なんかすごい事をおっしゃる。

「イーグル、そういう事は早く言ってよ。てか、お前の体どんだけ大きいと思ってるんだよ。どおりで歩いてるだけでマラソンしてるくらい疲れると思ったよ。って、自分で動けるのかよ」

 その発言を聞いて、ザイルが説明する。

「すまんキヅキ、とっくに知ってるもんだって思ってたからさ。トーカーは、乗ったりする時にドラゴンが補助するために動かすためのエネルギーを、毎日少しずつ与えて溜めておくものなんだ。充分溜まれば、キヅキの元まで歩いてきてくれるようになる」

「うむ、今この阿呆が言ったとおりだ。今回は時間もないので、通常よりもかなり多く奪っておるがな」

 おるがな、じゃあない。献血を知らないあいだに、余分に取られているようで気持ちが悪い。

「でもそんなことしてたら、いつまでたっても目的地に着かないよ」

「そこでなのだが。近くの街に『翼』がある。そこへ寄ってはみんか」

 このあいだ戦ったドラゴンは、光る翼で空を飛んだ。それを手に入れれば移動もかなり早くなるだろう。

 キヅキはそれを説明すると、みんなは二つ返事で了承してくれた。側近の一人が、これからの戦いにも役立つからな、と言っていたが、もう戦う気はないよ、とキヅキは誰にも聞こえぬようつぶやいた。


 そしてたどり着いたのが、トレシーと呼ばれる街である。

 ここはこの国の王都に次いで大きな街で、王都が占拠されてからはこの街が首都として機能しているようだ。

 確かにきれいな石畳の大通りに入ると、建ち並ぶ店や人ごみで活気にあふれていて、以前見た恐竜が引っ張る、荷物をいっぱいに積んだ荷車がたくさん往来していた。

 キヅキが少し気になったのは、すべての建物が石を積み上げて建てられていることで、それはこの国が地震の少ない土地だという事をものがたっていた。巨大地震が襲ったといわれる王都も同じ造りなら、被害は甚大だったことだろう。

 そんな事を思いつつ、キヅキはひとり、目的の人物を探すことにする。イーグルによると、翼のありかはこの街に住む『イライザ』という女性が知っているとのことだった。

 しかし、大きな街で人ひとり探すというのは難しく、5人目のイライザさんに別れを告げた頃には日も傾きかけていた。

「知らない土地で、ひとりで人探しとか無理すぎ」

 そもそもなぜみんなが一緒じゃないかというと。イーグルは自分が行くとややこしくなるとかの理由で、声も届かない場所で待機。ザイルはイーグルを守るためにそこに残り、国王はこの街に住む国王代理の息子に会いに、取り巻きはそれに同行していった。

 日も完全に落ち、キヅキは裏通りの繁華街へと迷い込んだ。繁華街といってもそこは裏通りらしく、怒声の飛び交う酒場や、露出度の高いドレスを着た女性たちが客引きをしているいかがわしい店が建ち並んでいた。

「お兄さん、遊んでかない?」

 ふとももまでスリットの入った赤いドレスを着たお姉さんのそんな誘いに、キヅキはどぎまぎしてしまう。

「ごめんなさい。僕、イライザさんって女性を探してまして。お姉さんとは遊べないです」

 そうキヅキが断ると、お姉さんは一緒に客引きをしていた女性と共に、あからさまに嫌そうな顔になって舌打ちした。

「あの女、商売女でもないのにあたしらの邪魔すんのかい。ま、しょうがないさね。ありゃ、そんじょそこらにいるタマじゃないからね」

 どうやら6人目のイライザさんがこの付近にいるようだ。居場所を尋ねてみると。

「あんた、あの女はやめときな。美人も度を越すと、厄介ごとしか寄ってこないよ」

 もうすでに厄介ごとだらけのキヅキには、そんなもの怖くはない。お姉さんにイライザさんの居場所を教えてもらい、さっそく行ってみることにする。


 そこはこの近辺で一番豪華な建物の、高級クラブのような場所だった。

 きらびやかな装飾の施された入り口では、正装をした屈強な男が腰に剣をぶらさげて立っている。とてもじゃないが、キヅキが入れるような雰囲気ではない。しかたがなく裏口にまわってみると、表とはうってかわって暗くじめっとしていて違う世界のようだった。道の際にはどんな理由なのか人が倒れていたりして、キヅキは怖くなって足早にそこを抜けようとする。

 すると突然、高級クラブの木製の勝手口がすごい勢いで開き、それと同時に人が転がり出てきた。それに驚き、ぬめりのある石畳に足を滑らせて転びそうになるのをこらえていたキヅキは、転がっている人が女性だということに気づく。そして勝手口の中からもう一人肉付きのいい女性が出てきた。両手にになにやら持っているようだ。

「イライザ! あんた、この皿がいくらか知ってんのかい。いったい何枚割れば気が済むんだい」そう言って手に持っている割れた皿を、転がっている女性の元へ投げた。

 バリンという音と共に飛び散る皿の破片を避けた女性の顔は、この世のものとは思えないほど美しかった。いや、顔だけじゃない。そのスタイルも、綺麗な金色に流れる長い髪も、すべてがパーフェクトと言えるほどのものだった。

 キヅキがイライザと呼ばれた女性に見とれていると、そこに駆け寄る男性が現れた。すらっとしたイケメンだ。

「大丈夫ですか、イライザさん」そう言いながら男性は、イライザと呼ばれた女性を抱き起こし、皿を投げた女性に謝罪した。

「坊っちゃん。イライザを気に入っているのはわかりますがね。この女は接客はおろか、皿洗いもできない能無しです。使う身にもなってもらいたいですよ」

「すみません。彼女の出した損害は、私が肩代わりしますので」

 男性は懐から袋を出し、そこから金貨を出して女性に渡した。すると女性はあきれながら「今日はもうあがりな。明日はヘマするんじゃないよ」とイライザに告げ、勝手口の扉を閉めた。

 男性はイライザに肩を貸して去っていく。

 その光景をぽかんと眺めていたキヅキは、ちょっと待った、と二人を止めた。

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