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ドラゴントーカー  作者: バラ発疹
第一話「ドラゴントーカー」
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4、

          4、



「キヅキってさ、意外といい男だよね」

 初めて会ってから一週間。毎日午後に牢獄まで足を運び、ベッドの横に用意された専用の椅子に座るキヅキに、エリナは科を作りながら言った。

「意外とってなんだよ。でも、同じ事を、同じように姉さんに言われたような気がする」

 エリナはたびたび既視感を抱くような発言をした。

「なにそれ、キヅキってお姉さんとそういう関係だったの?」エリナはいたずらっぽく笑う。

「なっ、僕はそんな……って、あれ? でも、そんなこと言われたなら、そんな関係だったのかな」

 エリナは、ぷっ、と吹き出した。

「あははは、キヅキってほんと面白い人だね。自分の事もわかんないんだ」

「うーん、どうなんだろ。エリナと話してると、わからなくなってくるんだ」

 今と同じように、毎日会って、話して、笑いあっていた気がする。それは仲の良い姉弟の関係を超えていると思う。

「そっか。ってことは、あたしは見た目がお姉さんと同じでも、恋愛対象として見れるってことかな」

「うん、そういう事になるかな」即答するキヅキ。

「キヅキって即答すること多いけど、あまり考えないで答えてるでしょ」

「そうかな。でもミスズにもそう言われたことがあるから、そうなのかも」

「ミスズってお姉さんの名前?」

 そう言われてキヅキは考え込む。

「ミスズってだれだっけ? 姉さんの名前? いや、恋人の名前だったかも……」

「キヅキ、恋人がいたんだ……。でもはっきりわかんないって事は、やっぱりキヅキは記憶が曖昧なんだね」

「やっぱりだって? 僕の言ってる事でおかしいとこあったかな」

「うん。だってこのあいだ、剣道でインターハイがどうとかって話をしてくれたじゃない」

 確かにキヅキは数日前に、自分が高校時代に剣道をやっていたという話をした事を思い出す。

「キヅキってどう見たって、剣を振り回すような体力がありそうにないもの」

 キヅキは腕を広げて自分の細長い体を見まわした。確かに一週間前の土木作業での筋肉痛具合を見る限り、とても自分がスポーツマンだとは思えない。

「いや、竹刀は軽いし。たぶんほら、大学とか行くと、あまり運動しなくなるから……」

「ふふっ、いいわけする男は格好悪いぞ」

 エリナのくすくすという笑い声が洞窟に響いた。


 それからさらに二週間ほどが経った。

「まだ姉ちゃんを探しに行かなくていいのか、キヅキ」

 畑仕事を手伝うキヅキに、ザイルが声をかけた。

「うん、行くよ。でもほら見てよ、この畑のうね完ぺきだよね」自慢げに鍬で地面を指す。

「はぁ、トーカー様はお気楽なもんだな。聞いてたトーカーって、どこか影があって、目的がはっきりしてるイメージがあったんだけどな」

「待ってよザイル。僕はちゃんと、この畑を仕上げるって明確な目的をもって行動してますよ。それに影だってほら、足元にこんなにくっきりと」

 指差した先には影が伸びている。

「そういう事じゃなくてだな。まぁお前がいてくれた方が、俺達にとっては喜ばしい事なんだがな」

 キヅキはそこで真面目な顔をして尋ねる。

「それなんだけど、トーカーって、叶えたい願いってのは自分の世界でのものなのかな」

「どういうことだ?」

「たとえばさ、僕がエリナの病気を、ドラゴンの力で治したいと思ったとする。だけどそれって、召喚された後にできた、この世界の人に対する願いであって、本当の僕が望む願いとは違うんじゃないのか」

 それを聞いて、ザイルは苦い顔をしてうつむいた。と思ったら、すぐに満面の笑顔になり。

「違わねぇよ。それだよ、それ。トーカーの願いってやつは、そいつがその時に一番叶えたいものなんだよ。だからキヅキがエリナの病気を治したいと思ってるのなら、それはトーカーの願いとして正しいものなんだよ」

 あからさまにいいこと思いついた感丸出しのその説に、疑いの目を向ける。

「本当にそう? なんか僕をドラゴンに乗せる口実のような気がするんだけど」

「うっ、そんなことねぇよ。願いってものの本質は、そう思ってる時だからこそ叶える価値があるんだろ」

 図星を突かれながら正論を言われても困る。

 それに、と言って、ザイルはキヅキから鍬を取り上げる。そしてあっという間に、キヅキの作ったものよりも綺麗なうねを作り上げた。

「お前がこの畑を置いて行くには、まだレベルが足りないな。それにおまえは、心残りがあるまま出ていけるのか」

 ぐぅの音も出なかった。

 キヅキは鍬を受け取り、それを見つめながら、なぜ自分がこの世界に呼ばれたのか疑問に思う。

 今までの状況やここでの生活は、すべて中途半端なのだ。

 まだ自分と同じトラベラーと出会ってないのでわからないが、おそらくトラベラーは、叶えるべき明確な願いのためにドラゴンに自ら乗り、そして戦うものなのだと思う。

 だけど自分は、姉を探すという、命をかけるまでもない願いしかなく、ドラゴンに乗る必要性がない。かといって戦わずにこの世界で生きていくのも理由がなさすぎる。

 そんなことを考えつつも、また数日が過ぎ去っていった。

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