098 「あなたは、影となっていた」
あなたは、影となっていた。
それは、パーミット・オブ・グレイのアビリティーだ。
少し難しい言葉で説明すると、存在の位相を別の次元界へ移すということらしい。
よく、判らないって?
まあ、簡単に言えば、別の宇宙に隠れるということだと思うの。
別の宇宙。
それは、影の世界だった。
あなたは、影の世界からこの世界を眺めている。
影の世界からのほうが、わたしたちの世界がよく見えるようだ。
それは、暗闇から昼間の世界を、眺めるようなもの。
あなたは、少し現実の世界は、眩しすぎると感じる。
その眩しい世界を、あなたは走っていた。
砲弾と銃弾、それに時折ミサイルだって飛び交う現実の世界。
けれど、あなたは影になっているので、誰からも見ることはできない。
そして、銃弾もあなたを傷つけることは、できなかった。
あなたが影の世界にいるかぎり、誰も触れることができないのと、同じこと。
影の世界は、潜在性の世界でもある。
色々な、有り得たかもしれない、そして今後ありえるかもしれないものたちが、漂っている世界。
それらは、幽霊のようなもの。
それらは、怖くはなかった。
なぜって、それらはなにも出来なかったから。
あなたの知覚は、影の世界ではとても遠くまで拡大される。
その時、あなたは感じていた。
彼女、別宮沙羅がすぐ近くまで来ていることも。
エリカが、フォン・ヴェックだけが使える秘密の通路を使用して、王宮の目の前についていることも。
あなたは、感じている。
あなたは、ポーンたちと戦うわたしの元へ向かって走っていあたのだけれど。
意識のどこかは、エリカに触れていた。
そう。
わたしと、あなた、そしてエリカは。
見えないところで、繋がっていたの。
そしてエリカは、王宮の前に立つ。