096 「カワイコちゃんのいるほう」
四輪駆動車は、森をこじ開けるように走ってゆく。
彼女は、車の中でさらに激しくなる爆音や、リズミカルな銃声を聞いていた。
それは、彼女の全身を総毛立たすような、ぞっとする音である。
「あれが、戦場音楽ってやつなのね」
彼女は、そう呟く。
悪路を巧みに四輪駆動車を操って進むアリスは、少し笑みを浮かべた。
やがて、森が終わり、道は小高い丘の頂にさしかかる。
アリスは、車を止めた。
多分、身を隠すものがなくなると、判断したようだ。
ロケットランチャーを背中に担ぎ、アサルトライフルを構えたアリスが車から降りる。
彼女も、その後に続く。
彼女たちが身を隠した茂みの向こう、丘の斜面を下ったずっと向こうに海岸が見える。
多分、その海岸までの距離は、1キロもないだろうと思う。
ほとんど目と鼻の先、といってもいい距離だ。
海の上には、随分と古めかしい戦艦がとまっており、海岸へ向かって砲撃を繰り返している。
そして、海岸には。
とても、奇妙なものがいた。
巨人、としかいいようのない。
西洋の甲冑を纏った、大きなひと型のもの。
それは、戦闘ヘリが装備するようなミサイルランチャーを肩に担ぎ、手に大きな機関銃を持って攻撃している。
その攻撃している相手は。
さらに、奇妙な存在であった。
赤いドレスを着た、どうみてもおんなの子にしかみえない人影と。
もうひとり、女子高の制服らしいものを着た、やはりおんなの子にしかみえない人影。
そのおんなの子たちは、いったいどうやっているのか見当もつかないが、ミサイルと機関銃を装備した巨人たちと、互角に渡り合っているようだ。
「で、どっちにつく?」
アリスはロケットランチャーを肩に担いで、彼女に問いを投げる。
ちょっと、なんでわたしに選ばせるのよ、と彼女は思ったのだが。
でも、彼女のこころの中には奇妙な確信めいたものが、芽生えていた。
あの、女子高生は、理図にそっくりだ。
判別のできるような距離ではないはずなのだが、彼女にはどうしてもそのおんなの子が理図に見えてしまう。
彼女は、アリスに答える。
「もちろん、カワイコちゃんのいるほうよ」
アリスは頷く。
「なるほど、あんたにもそう見えるんだな」
彼女は、はっとなってアリスを見る。
アリスは、ロケットランチャーを構えて、笑みを浮かべる。
「じゃあ、決まりだ」