095 「ここからが、わたしのターン」
ミサイルは、わたしたちではなく畝傍を狙っている。
赤の女王が作る閉鎖空間で封じるには少し、遠い。
エリカが、叫ぶ。
「リズ!」
わたしが、どこから手をつけるか迷っていると、エリカがさらに叫んだ。
「空間断層をブレードにして飛ばすの!」
その意味を理解するのに、コンマ数秒かかったけど、わたしは頷く。
赤の女王は、三方向に向かって鋏を振る。
それは、不可視の刃となって、海の上を飛翔した。
そして、ミサイルをコントロールしている、ワイヤーを切断した。
TOWは、追尾コントロールを失って、三発とも海面に落ちて爆発する。
大きな水柱が上がって、畝傍が水煙に姿を隠す。
その水煙を貫くように、5インチ砲が火を吹いた。
爆煙が、次々に岸辺へ立ち上ってゆく。
ポーンたちは、畝傍への攻撃はあきらめたらしく、わたしたちに向かって重機関銃を撃ち出す。
でも、ホバーの速度は結構はやい。
甲高いエンジン音と、金属をドラムがわりにぶん殴るような銃声、砲撃の轟音が響きわたり、あたりは混沌とした音の地獄となる。
それは、独自のリズムを持っており、まるで狂気の楽曲を奏でているようだ。
なるほど、これが戦場音楽ってやつね、と思い無意識に顔が微笑む。
いいえ、恐怖にひきつったといったほうが、いいのかも。
エリカが何かいいたそうに、わたしを見た瞬間、ホバーが岸へ乗り上げた。
わたしたちが飛び降りると同時に、そこに銃撃が集中しホバー火だるまになる。
爆煙を顔に受けながら、エリカがわたしに叫んだ。
「ポーンは、任したわよ」
そう言い終えると、エリカと日出男は兵たちをひきつれて内陸へ向かう。
え、兵士をひとりも残さないの、って思ったけどあれこれ考える間もなく、ポーンたちが砲撃を躱しつつわたしに向かってくる。
まあいい。
さあ、ここからが、わたしのターンだ。