094 「爆煙と、砂柱」
さて、わたしと赤の女王は畝傍の上で次のミサイルを待ち構えていたのだけれど、何も飛んでこなかった。
わたしは、思わず呟く。
「何よ、全然撃ってこないじゃん」
エリカが苦笑する。
「そりゃ、そうでしょう。向こうも無駄にミサイルを使いたくないでしょうからね」
次第に、島の沿岸が見えてくる。
畝傍は、減速した。
多分、こっからはボートかなんかで、上陸することになるんだろう。
島の岸を、見る。
ポーンは三体。
両肩にTOWのランチャーを4機づつ、設置している。
わたしたちの後ろで、砲台が旋回した。
38口径5インチ砲が、発射される。
物理的な圧力を持つような轟音が、わたしの身体を打つ。
多少、目眩がした。
あたりを、砲煙がたなびく。
ポーンたちの手前に、着弾したようだ。
爆煙と、砂柱が上がる。
「エリカ様、LCACの用意ができました」
日出男の声に、エリカが振り返らずに答える。
「わかった。いくわよ、リズ」
わたしは、後ろを見て驚いた。
ホバークラフトが、海面に降ろされている。
そんなの、積んでたんだ。
エリカを抱えたセイバー・オブ・ブラックが跳躍し、ホバーへと降りる。
わたしも、赤の女王に抱えられて、後に続いた。
畝傍の5インチ砲が、また空を引き裂くような轟音をたてて発射される。
ポーンたちは、散開してゆく。
いくらなんでも、戦艦の砲撃を動く標的に当てられはしないだろうけど、わたしたちが上陸するまでの間、ポーンたちに迎撃体勢をとらせないようにしてくれてるようだ。
わたしたちを乗せたホバークラフトは、加速をはじめる。
エンジンが、甲高い音を響かせた。
潮風が、わたしたちの顔をうつ。
ホバーには、わたしたちの他に、十数人の兵が乗っている。
皆、中世の兵士みたいに剣と鎧で身を固めていた。
その時、三方向から轟音が響いた。
散開したポーンたちが、ミサイルを発射したのだ。