091 「わたしの血管には、炎が流れる」
エリカは、甲板に取り付けられている砲台を、指し示す。
「畝傍に搭載している38口径5インチ砲は、初期装備からは換装してるけど、ちょいと古いものだから有効射程は短いの」
わたしは、薄く笑う。
「イージス艦みたいには、いかないわけね」
エリカは、頷いた。
「ポーンの使ってるミサイルは多分、TOW。まあ、向こうも多分予算の都合なんでしょうけど、現役兵器ではないわ。それでも、射程はこっちの倍以上ある」
「まかしときなって」
わたしは、カードを取り出した。
赤の女王であれば、ミサイルごとき恐れる必要はない。
ごん、と船のどこかで音がする。
やがて、リズミカルな振動がはじまった。
船体にある煙突から、煙が上がる。
どうやら、エンジンが動き出したようだ。
エンジン音に負けない大声で、エリカが言った。
「戦闘速度をとると、すぐにTOWの射程に入るよ」
わたしは頷くと、赤の女王を召喚する。
深紅のドレスを纏った、守護生命体。
高慢で美しい顔に、残忍な光を瞳に宿す。
血に飢えたその守護生命体は、わたしのこころを戦闘モードへと切り替えてゆく。
わたしの血管には、炎が流れる。
畝傍が動きだし、回りの風景が流れ出した。
風がおこり、わたしの髪が逆巻く。
赤の女王が見る風景は、全てが違う。
クリアであり、精密であり、力に溢れていた。
わたしは、沸騰している血にのまれ、雄叫びをあげたくなる。
エリカは、そんなあたしを少し不安そうに見て、言った。
「ほら、くるよ」
遠くに見える島の沿岸で、轟音と炎が上がり、火の矢が空を走る。
TOWだ。
赤の女王を通して見るそれは、這うような速度にしか見えない。
畝傍を奪還するときと比べ、今のほうが距離があるので簡単だ。
赤の女王は、鋏を背中から抜くと、閉鎖空間を作り出す。
ミサイルは、じつにあっけなく消滅することになった。
空中に、深紅の球体が出現したが、音すら漏れず畝傍は全く無傷である。
わたしは、獰猛に笑う。
どんと、こいだ。
エリカはそんなわたしを、やれやれというふうに見つめる。