088 「防弾チョッキを、サービスしとくよ」
彼女たちは、研究所を出ると車で郊外へ出た。
そこは、廃棄されて廃墟と化した建物である。
おそらく昔は、何かのリゾート施設だったようだが、おそらく運営していた企業が崩壊して放棄されたままになっているようだ。
既に、深夜といってもいい時間帯であるため、車通りも少なくひとの気配もない。
ただ冴えざえと輝く月が、廃墟を浮かび上がらせるばかりだ。
アリスが、そこに車を止めてまもなく、一台のトラックが訪れる。
アリスは車から降り、そのトラックを出迎えた。
白い月の明かりの元、黒い巨獸のようなトラックがアリスの前に止まる。
その夜の闇を纏いつけたような黒いトラックから、ひとりのおとこが姿を現す。
金髪に、青い目、とても整った顔立ちで、彼女はムービースターのようだとも思う。
どこか陽気な笑みを浮かべるそのおとこは、アリスに手をあげ挨拶をする。
「ご希望のものを、揃えたよ。アリス」
アリスは、冷たい笑みで、陽気な笑顔に答える。
「見せてもらおうか、アルチュセール」
アルチュセールと呼ばれたおとこは、トラックの荷台の扉を開く。
洞窟のように暗い荷台から、アルチュセールは木の箱を引き摺り出した。
無造作に地面へ降ろされた木の箱を、アリスはナイフを使って開く。
そこに納められたものを見て、彼女は目を丸くした。
思わず、呟く。
「ロケットランチャーじゃあないの、これ」
おとこは、彼女のおどろいた顔に、少し嘲るように笑った。
「RPG9だよ。それと」
小型のケースを取り出すと、蓋を開く。
こちらには、アサルトライフルらしきものが、納められている。
「SR16だ、アリス」
アリスはそのライフルを手にとると、状態を確認する。
アリスの口元に、満足げな笑みが浮かんだ。
「流石だね、アルチュセール。いい品だ」
「全く、この短時間でこれだけの品を持ってこれるのは、武器商人多しといえおれだけだと思うぜ」
「そうだな、アルチュセール。だがな」
アリスの冷たい眼差しが、アルチュセールを貫く。
「装甲トラックも頼んだはずだよ」
アルチュセールは、天を仰ぐ。
「そりゃあ、無理だぜ。いくらおれでも。あんたの乗ってるHUMMER・H2でなんとかしてくれ」
アリスは、眉間にしわをよせる。
「カラシニコフの銃弾なら、紙のようにHUMMERのボディを貫く」
アルチュセールは、肩を竦めた。
「防弾チョッキを、サービスしとくよ」