087 「フォン・ヴェックの名に基づく我が召喚」
その文字を見て、彼女の胸は高鳴る。
興奮で、心臓が口から飛び出しそうな気さえする。
彼女は対面しているアリスへ、目を向けた。
アリスは、冷静な目で彼女を見返す。
その瞳の冷徹さが、彼女を少し落ち着かせた。
彼女はページを繰ると、文章を書き込む。
「あなたは、梟鏡なんでしょう?」
そして、ページを捲る。
そこには、予想通りの答えが書かれていた。
「そうだよ、サラ。それにしても、随分時間がかかったね。君の娘たちは、この本を一瞬で理解したよ」
彼女は、少し眉間を曇らせる。
娘たち?
それは、理沙と理図ということなのだろうか。
理沙が行方不明になったのは、この本へ入り込んだと解釈できる。
けれど、理図はどうなのだろう。
この本の中で死んで、死体となって帰ったということなのか。
いずれにせよ、長く議論するつもりは無かった。
彼女は、ページを捲って書き込む。
「それで、わたしがそこへ行くには、どうすればいいの?」
彼女は、ページを捲る。
「僕の召喚に、応じてくれればいい。君には、全てを見届けてもらう特等席を用意しよう。君が本の中へ来るつもりであれば、もう一枚ページを捲りたまえ」
そして、彼女は次のページにその言葉を見た。
「別宮沙羅、おまえは、フォン・ヴェックの名に基づく我が召喚に応じるか?」
彼女は、夢中でページを繰って答えを書き込もうとする。
意外にも、その手をアリスが押さえた。
彼女は、険しい視線をアリスへと向ける。
「待ちなさい」
「どういうつもり?」
「本の中へは、わたしも一緒に行こう。それと、行くために、少々用意が必要だ」