082 「金色の月影に照らし出された階段」
アリスの持つ、小型のハンドライトによって照らし出されたその図書館の中は、まるで迷宮のようである。
彼女は、本棚が幾重にも重なりあい行く手を阻むその中で、あっという間に方向感覚を失った。
まあ、元々が多少方向音痴の気があったのだろうけれど、この図書館はそれにしても無計画な増築を行ってきたような気配がある。
冥界を死の天使に導かれる亡者のように、彼女はアリスの後に続いてさ迷ってゆく。
突然、彼女の目を惹いたものがあった。
彼女は、アリスの腕を掴む。
「ねえ、待って」
アリスは、闇の中でラピスラズリのように青く輝く瞳で、彼女を見た。
彼女は、真っ直ぐ指を指す。
その先には、金色の月影に照らし出された階段があった。
それは、天国へと続く階段のように、上の階へと延びている。
彼女はまるで、その階段に招かれているかのように、感じたのだ。
「奇妙だな」
アリスの言葉に、え? となってその顔を見る。
アリスは少し、苦笑した。
「さっき通ったときには、あんな階段はなかったはずなんだが」
アリスは、首を振った。
「多分さっき通ったときは、月が雲にかくれていたか何かで、見落としていたんだろう」
アリスは自分で自分の言っていることに、確信を持っていないようではあったが、決断を下す。
「あそこを上ってみよう」
アリスと彼女は、その階段を昇っていった。
ふたりが辿り着いたのは、小さな書斎のような部屋である。
空から降りてくる黄金色の梯子のような月影が、その部屋の奥にある机に置かれた本を、照らし出していた。
その本の表紙には、こう書かれていた。
「book of saturday」