080 「図書館」
アリスは夜の道を、車で急ぐ。
けれど、道が混む時間帯らしく、思ったように進むことはできない。
アリスは、焦った様子もなく、マシンのように正確な運転をする。
助手席で何もすることがない彼女は、アリスに尋ねた。
「なぜ、あなたは理沙を助けようとしているの」
アリスは彼女の方は見ず、表情も変えないまま言った。
「理図と、約束したからだ」
その意外な言葉に、彼女は息がつまるような思いを、味わう。
なんと言葉を返していいか、判らなかった。
何も言えないまま、車は学校に近づく。
彼女は、なんの意味のないこと口にする。
「この車って、中東の戦場で使われてたんじゃあなかったかしら」
アリスが、苦笑するのを感じた。
「こんな装甲がない車を、戦場で使うはめには、なりたくないものだね」
彼女はその言葉に、苦笑を返す。
やがて、車は学校についた。
アリスは、学校の少し手前の路上に車を停め、学校に向かう。
彼女は、その後ろに続きながら、このほとんど見ず知らずの他人と同じおんなを、信頼してる自分に少し呆れる。
ただ、それは彼女の深いところからおこる確信だったのだけど。
自分が、そんな根拠のない確信を持つことが、奇妙だった。
アリスには多分、ひとを信頼させるなにかがある。
彼女たちは、学校の正門を通り抜けた。
正門にはまだ、施錠がされていない。
校舎にも、明かりがついている。
多分、遅くまで仕事をしている教師が、残っているのだろう。
アリスは、明かりのついた校舎には目もくれず、どんどん敷地の奥へと歩いていった。
間違いなく、行き先を知っている歩みだ。
彼女はたずねる。
「ねえ、どこに向かってるの?」
「図書館だ」