008 「その夜のこと」
さて、その夜のこと。
夜までにもろもろの用事を済ませ、エリカの死体から剥ぎ取った服を制服に着替えると学校へ行った。
森の奥深くに隠棲している老賢者のような図書館へ、わたしは戻る。すべてを容赦無く暴き立てるような金色の月影に晒されたその図書館は、廃墟のようだ。
わたしは昏いダンジョンのような、本棚の迷宮へと入り込む。
わたしはもしかすると、あの部屋への扉は姿を消しているのではという奇妙な予感に捕われる。
だって、あれは幻のような出来事だったから。
けれどもわたしの予感を嘲笑うかのように、その扉は月の光にくっきりと照らし出されていた。むしろ薄暮の中にあった昼間よりリアルに浮かび上がっている。
わたしは、階段へと入り込む。
その先は、金色の光に包まれていた。
わたしは縦長の部屋へとたどり着く。
そこは、昼間よりも明るく光に包まれていたけれど、むしろそのせいで妙に嘘っぽい雰囲気になっていた。
まるで映画のセットのなかに迷い込んでしまったような。
そんな気分。
でも。
机の上にあるその本は、間違いなくじっとわたしの帰りを待っていた。
表紙に書かれたその文字は、月の光を受け輝いている。
「book of saturday」
わたしは、ページを開く。
そこは、昼間と違って文字に埋め尽くされていた。
そこに描かれているのは、エリカの物語。
さて、暫くエリカに語ってもらいましょう。
死から帰還した彼女が対面したものはなにか。
そこから始まります。