076 「彼女はおとなの判断をした」
彼女、別宮沙羅には、色々優れた点はあるが、ひとである以上欠点も色々もっている。
おそらく、彼女の最大の欠点は、自分の研究以外のことについて、あまり深く考えずいいかげんであるということだ。
彼女は、梟鏡と付き合っているうちに、だんだんどうでもよくなってきた。
彼の子供を生むことで、おこるかもしれない色々について、あまり思い悩むことをやめてしまう。
なにより梟鏡というおとこは、結局のところ魅力的であったということだ。
彼はその魅力を最大限に使い、彼女から、逆らう気持ちを奪い去ることに成功した。
彼女は、いつしか単に風変わりなプロポーズを、受けたつもりになっていた。
そう考えれば、悪い話ではない気がしてくる。
愛は、ないのかもしれないが、そんなものは後からついてくればいい、と思う。
平たく言えば、彼女はおとなの判断をしたわけである。
彼女が梟鏡の申し出を受け入れた後の話しは、とても速かった。
梟鏡は、彼の持っている島へ、彼女を招く。
彼の持つクルーザーに乗った彼女はいつの間にか眠りに落ち、目覚めるとその島にいた。
彼は、そこは国内だと言う。
太平洋上の、小島。
けれど、彼女はそこがとてもこの国の一部だとは思えない。
そこに住むひとびとは、東洋系の顔立ちをしている。
言葉も、全く違和感なく通じた。
けれども。
その島の空気、空の光、海の色。
それらに、彼女はなにか違和感を感じる。
あたかもそこが、巨大な映画のセットであるかのような。
そんなふうに、彼女は感じてしまうのだ。