075 「わたしと、結婚して、子供を産んでほしい」
彼女の研究は、量子力学に関連したものであり、量子コンピューターの実用化に繋がる研究だった。
だから、そうした成果を当てにした企業が、スポンサーとなっていたのだが。
景気の悪化により、結果の中々でそうにない研究への投資額を、減らそうとしていた。
梟鏡は、そのあたりの事情を、的確に把握しており。
このままだと、彼女が職探しをするはめになることも、理解していた。
彼は、こう話を持ちかけてきたのだ。
わたしは、あなたの研究に興味があり、投資したいと思っている。
けれど、それには条件がある。
わたしと、結婚して、子供を産んでほしい。
彼女は、最初は相手にせず、追い返したのではあるけれど。
梟鏡は、何度も彼女のもとを、訪れた。
驚くべきことに、彼は信じがたいほど博学であり、知識の量については専門分野以外では、彼女を遥かに上回っている。
まるで、何世紀も生きてきたひとのようだと、思う。
そして、梟鏡は間違いなく天文学的額の資産を、持っていた。
彼女はなぜ、自分と結婚を望むのか、不思議に思う。
彼は、少々謎めいた答えをする。
それは、こうだった。
あなたの遺伝子が、わたしの望む子供を産むのに、もっとも適しているのです。
冗談じゃあないと、彼女は思う。
梟鏡の言い方だと、まるで彼女のDNAマップを把握しているかのようだ。
でも、実際把握していても、不思議ではないと思わせるものが、彼にはあった。