073 「少し驚くべき体験」
あなたはそして、少し驚くべき体験をするの。
けれどあなたにとって、生きていくことは常に驚くべき体験だったから、それは特筆すべきことではなかったのでしょうけれど。
あなたは、気がつく。
あなたは、二つの視点から世界を見ていることに。
あなたは目の前に出現した、パーミット・オブ・グレイを見ていると同時に、その灰色をしたおとこの視点から、あなた自身を見ていたの。
ああ、わたしたちはとても近づいている。
あなたは、灰色のおとこからそれを感じていたわ。
だって。
そのおとこは、出現すると同時に、そのアビリティーを発動させていたのだから。
パーミット・オブ・グレイは、目に見えない糸を世界に放っている。
その糸は、触覚をあなたにもたらしていたの。
まるで、あなたは島を手で触れるように、形をとらえることができた。
そこにいる、ひとびとや動物、植物の動きや息吹を、感じることができる。
けれども、そこにあなたの望むものは含まれていなかった。
あなたは、どんどん遠くへ、遠くへと糸をとばしてゆく。
糸は風に乗り、海を渡り、やがてその海を航海している畝傍へとたどりついた。
そして、畝傍の中で見つけ出すの。
わたしを。
ああ、いとおしい、いとおしいあなた。
わたしは、あなたへの愛に背を向けて、本の中へと逃げ出したというのに。
あなたは、わたしを見つけたの。
この奇妙な物語りに取り込まれ、その一部となりつつあった。
わたしが。
あなたに、見いだされたの。