072 「パーミット・オブ・グレイ」
道化は、やれやれと肩を竦める。
「まあ、そうは言っても、きみも僕も本の中の登場人物になってしまったわけだからね。物語を先に進めない訳にはゆくまいて」
道化は、白黒と幾何学的に塗り分けられた顔を、あなたに近づける。
その顔は、現代芸術の抽象画のようでもあった。
道化は、にっ、と笑う。
そして、一枚のカードを取り出す。
あなたは、そのカードが何か、直勘的に理解する。
あなたが土曜日の本を読んでいたときに、ティル・オイレンが手にしていたカードだ。
「これを、あげよう。そう、大アルカナだよ。パーミット・オブ・グレイだ」
あなたは、道化が差し出したカードを、反射的に受け取ってしまう。
それは、厚く雲に閉ざされた真冬の夕暮れ空がごとき、灰色のカードであった。
その、灰に包まれているかのようなカードには、ひとりの人物が描かれている。
世界の終わりにひとり佇んでいるかのような、隠遁者。
フード付きマントに身を覆ったひとは、表情を窺うこともできない。
「そのカードを手にして念をこめれば、そこに封印されている守護生命体を呼び出すことができる」
道化は、奇妙に優しげな声で、語った。
「パーミット・オブ・グレイのアビリティーは検索だよ。探してみなさい理図を」
そう言い終えたとたん、道化の気配が消えた。
あなたは、カードから顔をあげ、あたりを見回す。
いつの間にか、白黒市松模様の道化は、姿を消していた。
あなたは再びカードに、眼差しを落とす。
そこに描かれた画像は、どんどんリアルさを増してゆくようだ。
3Dの映像を見ているような、気分になる。
突然、あなたは頭の中で、火花が飛び散るような感覚を味わった。
幾つもの、宝石のように極彩色の花火が、頭の中で炸裂しているかのようだ。
そして気がつくと、灰色のマントを纏ったおとこが立っていた。
そのおとこと、あなたは意識を共有している。
それが守護生命体、パーミット・オブ・グレイであることは、誰にも教わらずに知ることができた。