068 「おれに跪いて命乞いをしてみろ」
次にあなたが目を開いたその場所は、薄闇につつまれていた。
あなたは、そこが残照にが射し込んでいる図書館ではないことを、理解する。
それは、もっと広い伽藍堂のような場所だった。
あなたは。
ゆっくりとその場所がなんであるか、理解してゆく。
そう、それは。
遠い遠い記憶を、ゆっくりと思い出していくのにも似ていた。
そこは、本の中なのだ。
間違いなく、さっきまであなたが読んでいた本。
あなたは、あたりを見回す。
天井はとても高く、その高い位置にある窓から、光が射し込んでいる。
壁は剥き出しの石でできており、洞窟のようでもあり古代の遺跡のようにも思えた。
次第に目が、その薄闇になれてくる。
そこには神像や十字架はなかったけれど、あなたはそこが礼拝堂であることが判った。
それは、直感的なものだ。
けれど、それには確かな確信が、伴っている。
あなたが土曜日の本を読んでいたときに、その物語の中で道化が語っていた場所。
その、礼拝堂にいるのだと、理解する。
だから。
その礼拝堂へと、金髪碧眼のおとこが入ってきたときにも、それがだれか見当がついた。
神話の神々を描いた絵の中から抜け出してきたとでもいうかのように、美しいそのおとこの名は。
ラインハルト・ハイドリッヒのはずである。
ラインハルトは、腰に帯びた剣の柄に手をあてながら、飢えた獣のように凶悪な笑みを浮かべてみせた。
その様は、美しくかつ、野蛮である。
ラインハルトは、あなたに向かってこう言い放った。
「おれに跪いて命乞いをしてみろ、フォン・ヴェック」
ラインハルトは、朗らかに言い放った。
「まあ、殺すかどうかは、気分次第で決めるからな」