067 「遠くから、あなたを呼ぶ声がする」
あなたは。
そこまで読んで、ページをくると、あっと驚きの声をあげる。
その次のページは、白紙であったのだが。
あなたは、なぜか自分にも説明できなのだけれども、そのページがただの白紙ではないことが判っていた。
既に日は落ち、それでも残照がその部屋を微かに照らしている。
あなたは、薄闇の中でぼんやりと浮かび上がる白いページを、眺めていた。
あなたは、そこに様々な声が谺しているような気がする。
そう、あたかも、洞窟の奥底から、呼び掛けられているかのような。
遠い、遠くから、あなたを呼ぶ声がするようだ。
そして。
そのあなたのこころの中で谺する声が、形をとるように。
白いページに、ひとつの文章が浮かび上がる。
白い闇から滲み出るように、黒い文字が現れれた。
「そこにいるのだろう、別宮理沙」
あなたの心臓は、鼓動をはやめる。
水の底に沈んでしまったかのように、あなたは息苦しくなった。
けれど、あなたは、ページを捲ってしまう。
ああ、そうするべきではないと。
判っていたはずなのに、でもあなたはある予感に貫かれ、ページを捲る。
「理図の幻影を使っておまえをさし招いたのは、このわたしだ」
あなたの予感は、ほぼ的中した。
では、この後のことも、あなたの予想通りのはずだ。
あなたは、ついに運命のページを開いてしまう。
「おまえが、もう一度理図に会うことを望むのであれば、我が呼び掛けに応えよ」
あなたは、自分が次に成すべきことを、理解した。
次のページには、こう書かれている。
「おまえは、フォン・ヴェックの名に基づく我が召喚に応じるか?」
あなたはポケットからペンを取り出すと、本へ書き込む。
とても簡潔な、ひとことだけを。
「はい」
あなたは突然落ちてきた、闇に飲み込まれる。