065 「フォン・ヴェックに勝つ方法」
そこに居合わせたものたちは、できの悪い冗談を聞いたかのように、白けた表情になる。
ただ、道化だけが、にこにこと楽しげであった。
王は、真冬の風のように冷たい声で、語りかける。
「フォン・ヴェックに勝つ方法を、おまえがおれたちに教えるというのか。ティル・オイレン」
「ああそうだね。簡単だよ」
その場にいるものたちは、道化の楽しそうな笑いを、うんざりした顔で見ている。
著しくマナーを欠いているが、丁重に扱う必要があるひとと、同席するはめになった紳士のように。
道化は言った。
「要するに、むこうに大アルカナが二枚。こっちにも二枚、おんなじ数。そこが問題なんだろう。ほら、ここに大アルカナがもう一枚あるよ。これがあれば勝てるんじゃあないかな」
道化は、灰色をしたカードを掲げて見せた。
一同は失笑したが、シロウだけがたまりかねたふうに、道化を睨み付ける。
「誰が使うというんだ? あんたか? ティル・オイレン」
シロウの問いに、道化が答えた。
「まさか」
道化は、大袈裟に肩を竦める。
シロウは咬み殺しかねない勢いで道化を睨んだが、道化は上機嫌に笑ったままだ。
「僕は道化なんだから、そんなことをするわけないだろう」
道化は、王の隣に座る美貌のおとこを、指差した。
「あんただ、ラインハルト・ハイドリッヒ」
一同のうんざりした顔はさらに沈んだが、ラインハルトと呼ばれた美貌のおとこだけは、哄笑する。
「おれがかよ。フォン・ヴェックでもないおれが、どうしてそれを使える」
「フォン・ヴェックじゃあないというなら、フェリシアンだってそうだろ」
ラインハルトは、蛇のように目を光らせる。
「おれに、フェリシアンと同じことをしろというのか」
道化は、喉の奥でクククと笑う。