063 「王は円卓に、ついていた」
王は円卓に、ついていた。
ただ、その軍服をきたおとこが王であることを示すようなものは、何もなかったのではあるけれど。
学者のような整った顔をもつ初老のおとこの背後の壁には、なにか悪い冗談のように黒い十字の旗が掲げられていた。
そして、さらにたちの悪い冗談を重ねるがごとく。
王に対面する円卓の向こう側には、黒い狼がいた。
王は不機嫌そうに、呟く。
「あきれたものだな」
狼は、王の呟きを気にしたようすもなく、凶星のような瞳を光らせている。
王の隣に座っている、金髪と美貌をもつ若いおとこは、その情景を薄く笑いを浮かべて眺めるばかりであった。
「ようは、エリカ・フォン・ヴェックを仕留め損ない、畝傍も奪還されたというのだな」
王は、皮肉に口を歪めてみせる。
「無様すぎるぞ、シロウ」
狼は、何も答えず凶悪な白い牙を、剥き出しにした。
笑っているようにも見えるその顔で、獰猛な唸りを静かに響かせる。
王は、肩を竦めた。
「いいかげんに、その戦闘形態を解いたらどうだ。おまえとて、魔道士のはしくれなのだろう、アイチシロウ」
狼は、突然身体を痙攣させる。
その体表から、毛が抜け落ちて行く。
剥き出しになった白い肉体は、ぐねぐねと歪んでゆき、やがてひとの形態をとった。
それは、月の光から削り出された彫像であるかのように美しい、少年の姿だ。
後ろから、歩み寄ったおとこ、フェリシアン・シャルルがその肩にマントをかけた。
少年の姿をとったシロウは、王の前にあらためて腰をおろす。
「それほど状況は変わっていないさ、黒十字の王よ」
シロウは、美しい顔に、涼やかな笑みを浮かべる。
「やつらが上陸するときに、殲滅する。それだけのことだ」
王は、憮然とした表情で、その言葉を聞く。