059 「土曜日の本の謎」
そう。
わたしは、ウルリッヒによってイギリスから離れ今にいたる旅に誘われることになる。
ウルリッヒと、始めて会った時。
彼はまだ少年といってもいい年だった。皇帝ルドルフ2世の支配するプラハ。
そこでわたしは、世界の始めから隠されていた秘技を追い求めていたのだよ。
そこには。
ヨーロッパ中から集められた、魔法使いたちがいて。
それぞれの研究に没頭していた。
そんなわたしの元に、ウルリッヒがやってきたのだ。
美しく謎めいた笑みを浮かべるその少年は、信じがたい本のことを語り始めた。
そう、お嬢ちゃんも手にしたことがある、あの本のことを。
それは、「土曜日の本」と名付けられた、とても奇妙な本。
そこには、世界の全てが、そして万物の根源が書かれているという。
ウルリッヒはその本を解読するための秘密を記した、ヴォイニッチ写本を持っていた。
そしてウルリッヒはそのヴォイニッチ写本をわたしに託すと、姿を消した。
土曜日の本についての彼の話は、信じがたいものがあったが。
わたしの元へ持ち込まれたその本は、あまりに深い謎に包まれており、その謎の果てしなさにわたしは魅了されてしまった。
わたしはそれを人生をかけて、解き明かそうとしたのだが。
その一端を理解できたときには、わたしは地位も名誉も失った、ただの老人となっていた。
そんなわたしの元へ、彼はもう一度現れる。
成人し、騎士となったウルリッヒが、どこか不敵な笑みを浮かべ。
土曜日の本そのものを、その手に携えて。
わたしに会いに来たのだ。
わたしは、ついにわたしの運命にたどりついた。
彼は、土曜日の本を持つがゆえに、バチカンに追われる身であったから。
わたしたちは、彼の用意した船でイギリスを脱出することにした。
その船を操っていたのが、エル・ドレイク。
つまり、キャプテン・ドラゴンなのだよ。
わたしたちは、それからバチカンの追求から逃れるため、長い長い旅にでることとなる。
東に向かって。
エジプトを、トルコを越え、さらにインド洋も越え。
気がつけばわたしたちは、ジパングとよばれる島国の近くにまで、来ていたのだ。
そしてそのころには。
わたしたちは、土曜日の本の謎をかなり解き明かしていた。