050 「あんたは一体何者だね、お嬢ちゃん」
わたしたちは。
舷側につけられている階段をのぼり、戦艦の甲板に上った。
キャプテン・ドラゴンは痩せて精悍な顔をした男だ。
エリカは悪戯した小学生が、教師の前に連れて来られたみたいに大人しくなってしまった。
「紹介してくれるのかね、フォン・ヴェック」
キャプテン・ドラゴンは、わたしを見てどこか皮肉な笑みを浮かべる。
エリカは頷き、わたしを手でさして言った。
「彼女はリズ。外の世界からきて、わたしを助けてくれた。今は赤の女王の使い手」
意外なことに。
キャプテン・ドラゴンの目に、驚きの色が浮かんだ。
でもそれは一瞬にして消え去り、優雅な一礼をしてみせる。
「ようこそ。本の中へ。わたしはドレーク。ここではキャプテン・ドラゴンと呼ばれているがね」
「はじめまして。キャプテン・ドラゴン。あなたはこの船の船長なのね」
「そうだ。お嬢ちゃん」
キャプテンは、エリカを見る。
「色々聞きたいことはあるが。まず、ドクター・ディーのところへ行こう。話を聞くのは、そこでだ」
エリカは頷く。
気のせいか、その顔は蒼ざめて見える。
わたしたちは、船の中へと向かった。
その部屋は。
とても船の中だとは思えないような、一室であった。
壁は全て、本棚で埋め尽くされている。それだけではなく、床や机の上にも積み重ねられた本の山が無数にあった。
わたしは、学校の旧図書館を思い出す。
そして、その部屋の奥。
大きな机の前に。
痩せた老人が座っていた。
長く伸ばされた白い髭。肩に垂らされた白髪。大きく力のある瞳。
灰色のローブを着たその老人は、お伽話に登場する魔法使いのようであった。
エリカは深々と礼をする。日出男も頭を垂れた。
「よくぞ戻った。フォン・ヴェックの娘。ただ、そなたが戻ることによって、危機は深まったといえるがな」
「よく判っています。ドクター・ディー」
ドクター・ディーは、エリカに頷くとわたしに目を向ける。
「紹介してくれるかね。そちらのお嬢さんを」
エリカはわたしに目を向けると言った。
「彼女はリズ。外の世界からきて、わたしを助けてくれました。今は赤の女王の使い手です」
ドクター・ディーはキャプテン・ドラゴンのように驚きを隠したりはしなかった。
大きく目をみはり。
呻くようにいった。
「あんたは一体何者だね、お嬢ちゃん」