048 「そこにあるのは、巨大な戦艦であった」
わたしは、日出男に導かれるまま巨大なその建物の中へと入っていった。
そこで見たものに。
驚いてわたしは、息をのむ。
そこにあるのは、巨大な戦艦であった。
甲板に大きな砲台があり、船腹は鉄の装甲板で覆われている。
そして高いマストには帆が畳まれており、おそらく帆走もできるようになっていた。
わたしに日出男が声をかける。
「これが、畝傍だ」
こんな大きな船を本の中に入れるなんて。
いったい、どうやったんだろうと思う。
そんな間抜けなわたしの心配は置いといて。
エリカは、戦艦のそばを歩いていた。
薄い闇に包まれた建物の中、黒衣の少女は影のように歩いてゆく。
あたかも薄明に立ち上がった、死神のように。
そのエリカを。
灰色の制服を着た兵士たちが取り囲む。
手にした銃を、エリカに向けて。
三人一組の小隊が、十組ぐらいはいるだろうか。
エリカは。
厳かといってもいい仕草で、手をあげる。
「ローゼンベルク家に従うものたちよ」
エリカはよくとる、はっきりとした声で叫んだ。
「おまえたちとて、わたしの民であることは間違いない。よいか。フォン・ヴェックはローゼンベルクと違い、慈悲深い。おまえたちを殺すのは本意ではない」
エリカは神の意思を伝える司祭のように、荘厳な空気を纏って叫ぶ。
「一度だけ機会をあたえよう。我が前にひざまずき頭を垂れよ。銃を捨てて、我に従え。そうすれば全てを許し命はとらない」
エリカの言葉は、心を打つ迫力があったが。
それは当然のように無視された。
三人の兵がエリカに近づく。一人が銃をエリカに向け、残り二人がエリカの両側から挟むように迫る。
エリカは、少し淋しげに言った。
「それが答えだな」
血飛沫があがる。エリカを挟んでいた兵士は、胴を両断され地面に崩れ落ちた。そして、銃を構えた兵は縦に身体を斬られ、血の海へと沈む。
目で見ることはできないが、セイバー・オブ・ブラックの剣が振るわれていた。肉眼で捕らえられないような、高速で移動する黒の剣士はさらなる獲物を捕らえ血を流す。
地獄の光景が出現した。




