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046 「赤の女王は鋏を構える」

赤の女王は鋏を構える。

鋏のブレードから先1メートル程度に、空間の断層を作り上げることができた。

赤の女王が持つアビリティーは、誰かに教えられなくても繋がることによって自然とわたしの心に入り込む。

わたしは、片方のブレードを回転させる。

ブレードの描く円にそって、空間断層が作り上げられた。

それは肉眼では見ることができないが、赤の女王の視点で見ると七色に光を反射する水面のようだ。

その円形をした漣を浮かべる水面は、無敵の楯でもある。

わたしと赤の女王は、その空間断層でできた楯の背後に隠れて突き進む。

ポーンの目では、空間断層は見ることができないだろう。

でも深紅のドレスを纏うその守護生命体が、凶悪な存在であることは理解したようだ。

ポーンは自分に向かってくる相手に警告を与える気を、無くしたらしい。

ポーンの持つ重機関銃が、火を噴いた。

人間ではとても扱えない巨大な銃器が、弾を撒き散らす。

赤の女王が持つ楯にも、雨が湖面に突き刺さるように銃弾が命中する。

思ったほどの衝撃はない。

ただ、空間断層に突き刺さるたびにその表面は色彩の乱舞といえるような波紋が起こる。

ポーンの銃器は金色に煌めく空きカートリッジを滝のように排出していた。フルオートで弾を吐きつづけたため、弾倉が空になる。

それと同時に赤の女王は跳躍し、ポーンの肩に乗った。

「契約を解除して!」

わたしは叫んだが、ポーンは弾を撃ち尽くした重機関銃を捨て、腰からナイフを抜く。

赤の女王は鋏をふるい、ポーンの首を切断した。同時に、ポーンの身体が光に包まれ消滅する。

そのとき、もう一体のポーンが背中のコンテナを腕に抱え、赤の女王にむけた。


「go to hell!!」


ポーンが叫ぶと同時にコンテナが火をふく。

巨大なミサイルが発射された。

至近距離なため、避けようがない。赤の女王の視覚を使うと、ミサイルが紅蓮の矢となり、わたしに向かってくるのを見ることができる。赤の女王の目で見ると、ひどくゆっくりに見えるが実際には時速数百キロを越えていた。

わたしは鋏をひらくと団扇をミサイルに向かって扇ぐ要領で、動かす。

空間断層が鋏を離れ、シャボン玉のようにとんで行く。そして空間の亀裂は、ミサイルを覆う。

鮮烈な爆発がおこる。

でもそれは、空間断層の中で起きたこと。

外側に漏れたのは光のみで、爆風も熱も閉ざされた空間で押し潰された。

赤の女王は再び跳躍する。

今度は警告なしで、鋏をふるう。

ポーンの首が切断された。

ポーンは光につつまれ、消えてゆく。


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