045 「わたしは、海岸に降りた」
わたしは、海岸に降りた。
次第に海は明るさを増し、水平線はサファイアのように輝き始めている。
背後に聳える山からも、闇は撤収をはじめており徐々に鳥や獣が目覚め始めていた。
ドックは、全体が蔦に覆われ地面近くは草木に包まれているので、自然の丘陵のようでありし朽ちかけた廃墟のようでもある。
わたしは、そのドックに向かって歩いて行った。
ポーンは、わたしの姿を認識しているようだ。
ポーンは、わたしに向かって叫ぶ。正確にはポーンに取り付けられたスピーカーを通じて、それを操る兵士が話し掛けてきたというべきか。
「おい、とまれ。それ以上くるな」
あと20メートルくらいのところである。
わたしは立ち止まった。
「なんてことだよ。女子高生じゃないか。夏休みは終ったていうのに、なんであんたはこんなところにいる。さっさと学校へ帰れ」
「大きなお世話よ」
わたしは、ポーンに叫び返すと歩きだす。
「おい、やめろ。進むなと言ってる」
ポーンは多少、焦りをみせた。ポーンは手にした巨大な機関銃を、わたしに向ける。
「冗談じゃあないぞ。確かに僕はアフガニスタンでは子供や女も殺した。でも、あんたはタリバンでもアルカイダでもない。ただの女子高生なんだろう。来るなよ。僕に撃たせるな」
ああ。
わたしは、うんざりするものを感じる。
なるほどここは、本の中なんだろうけど。
うーん、結局なかにいるひとたちは、どこかから本の中に入り込んだひとなんだね。
わたしと同じで。
わたしは、ポーンに向かって叫ぶ。
「警告するわよ。わたしもあなたたちを、殺したくない。その守護生命体との契約を解除して」
ポーンは叫び返してきた。
「馬鹿をいうな。こいつを見ろ。戦闘ヘリに積むような重機だ。ベトナムでもアフガンでも、テロリストを血祭りにあげてきた重機だぜ。この距離で撃てば確実にあんたを殺せる」
「わたしはもう少し凶悪な武器を持ってるよ」
わたしは再び立ち止まると、カードを空に翳す。
そして叫んだ。
「古の契約に基づき汝を召喚する。クイーン・オブ・レッド」
赤いドレスを纏った、守護生命体が出現する。
わたしは思う。
赤の女王は、血に飢えている。
まあ正確にいえば、赤の女王はわたしの中に潜む血の欲望を暴き立てた。
そして赤の女王は、背中の鋏を抜く。
戦闘開始だ。




