044 「一晩中夜の森を走りつづけた」
わたしたちは、一晩中夜の森を走りつづけた。
険しい道とは言えないような道を、驚くような速度で駆け抜けていく。
それは、神話の中での出来事のように思えた。
濃厚な闇。
空には煌めく星が散りばめられている。
森の中は様々な気配を感じた。
その密度が高く、色の無い極彩色の絵画みたいな闇を。
二頭の馬が疲れを知らず、疾駆してゆく。
そして。
気がつくとわたしたちは山を下りはじめて。
目の前には再び海が見えた。
水平線の彼方には、ばら色の光が灯りつつある。
天頂は濃紺に染まり、海に向かって青さが深みを増す。
夜が終わりつつあった。
森の中からは、鳥の囀りも聞こえつつある。
わたしたちは馬を降りた。
日出男とエリカは獲物に忍び寄る獣のように、山を下ってゆく。
わたしは、その後ろを追いかけた。
わたしたちは、海岸を見下ろす崖の上に出る。
海岸には大きな岩のような、建物があった。
おそらくそこが船のドックなのだろう。
そして。
そのドックの前には、奇妙なものがいる。
巨人? というにしても大きすぎた。
3メートル以上はあるだろうか。
西欧の騎士が身につけるような鎧に覆われ。
手には、巨大な銃器を手にしていた。
「ポーンですね。ローゼンベルクが引っ張り出した連中です」
日出男はその巨人たちを指して、ポーンと呼ぶ。
ポーンは二体。
ドックを警備しているようだ。
わたしの問い掛ける眼差しに気付いてくれたのか、解説してくれる。
「ポーンも守護生命体なんですが。あなたの赤の女王や、黒の剣士と違ってアビリティーを持たない。力だけの存在です」
「見てよ、あの武器」
エリカがポーンを指して言った。
「ブローニングM2じゃない」
「ええ。ローゼンベルクはCIAに協力してますから。米軍の装備を使ってるんでしょう」
エリカは少し溜息をつくと。
わたしに向き直る。
「じゃ、ポーンは任すから」
「へええ?」
わたしは、間抜けな顔でエリカを見る。
「任すといいますと、あれと戦えですか?」
「あたりまえでしょ」
「なんか、大きな鉄砲持ってますけど」
「たかが、12.7ミリでしょ。平気平気。赤の女王のアビリティー使えばね」
「アビリティー?」
「空間に断層を創る。それは無限の硬度を持つ刃物を創るし、無限の硬度をもつ楯にもなる」