043 「本の中であっても夜空はあるようだ」
わたしたちは、その大きな石でできた聖堂から外にでる。
本の中であっても。
夜空はあるようだ。
星が瞬いている。星座のことはよく知らないので、星の配置が同じであるかまでは判らない。
聖堂は、森の中にある。
背後には、山が聳えており。
前には海に続く道がある。
本の中にある世界では、一体海を渡るとどこに行くことになるのだろうかと思う。
暫く待つと日出男が、二頭の馬を連れてきた。
「リズは、わたしと一緒に乗りなさい」
「あいよ」
わたしはエリカの馬の、後ろに跨がる。
「街道は封鎖されています、山を越えましょう」
日出男の言葉にエリカは頷くと、森の中へ入ってゆく。
わたしは、背中ごしにエリカに尋ねる。
「ねえ、どこにゆくのよ」
「そおねえ。王宮へもどるには、まず船を手に入れなければね」
エリカは、日出男を見る。
「キャプテン・ドラゴンは、どうしているの?」
「畝傍に立て篭もってます」
「ドクター・ディーは?」
「同じく、畝傍の中に」
「ふうん」
エリカは馬を操りながら、暗い森の奥へと入り込んでゆく。道はないようなものだ。
「じゃあ、まずキャプテン・ドラゴンに会いにいきましょう」
「いいですが」
日出男は片腕で手綱を持ち、馬を操っている。
「ローゼンベルク家の兵が封鎖してますよ。畝傍の中までは踏み込んでませんが、回りは押さえられています」
「大丈夫、だってこっちにはリズがいるもの」
日出男は。
なにか得体の知れぬものを見るように、わたしを見た。
まあ。
気持ちは凄くよく判る。
「あのお」
わたしは、恐る恐るエリカに聞いてみる。
「それはよく判りませんけれど、わたしに軍隊と戦争しろと言ってますか?」
「もちろん、いやなら帰っていいよ」
「そういうわけじゃあ、ないけれど」
「大丈夫、戦闘能力についてはあなたに渡した、赤の女王に勝る守護生命体はいない」
「そうなんだ」
でも。
「なんであなたは、赤の女王を使わないの?」
「相性の問題ね。あなたは赤の女王と相性いいと思うよ」
うーん。
少し釈然としないものを感じたけど。
まあ、いいか。とも思う。
本の中だからね。