036 「固有結界」
キラキラと輝く光があたりを包み。
巨大な魔王が、姿を現す。天使の美貌を持ち、漆黒の翼と山羊の下半身を持つ魔王ベリアル。
その身の丈は、4メートルほどもあるだろうか。
黒い夜の翼を持つ魔王は、静かにわたしを見下ろす。
魔王と呼ばれる種族は、いわゆるノン プレイヤー・キャラクターであり、コンピュータにプログラミングされた意思を持つ。
つまり、単純に支配下に置き使役することはできない。魔王を支配下に置くためには、無数のリドル(謎)に満たされたクエストをこなす必要がある。
単に時間をかければいいというものではなく、高度な知性、直感力と運も持ち合わせていなければ魔王を支配下には置けない。マグナスはその全てを兼ね備えたうえで、湯水のように時間を注ぎ込んだのであろう。
魔王は美貌に笑みを浮かべ、呪文を口にした。
>我が権利において、呪を発動する。ゲーム・オブ・ゴッド
突然。あたりの風景が一変する。
そこはもはや破壊された王座の間ではない。
木漏れ日が差し込む、緑なす森の一角。
深く暗い神秘の森。
極彩色の鳥が飛び交い、哲学者の瞳を持つ狐が走り去る。
>固有結界というやつね。
>そうだ。ゲーム内ゲームといえる領域。
ベリアルは、楽しげに語る。
>ここはモーンダンジョンの中であって、モーンダンジョンではない。この空間はわたしの造ったルールが適応される。
ベリアルは、勝ち誇って言った。
>プレイヤーキラー、君の能力は初期化された。アビリティーも消滅している。
>あんたもそうでしょ、ベリアル。
>魔王は初期化されても、初期値が桁はずれなのだよ。
ベリアルはわたしに向かって、手をのばす。
わたしは、その手を剣で払った。消滅の剣が作動し、手が消え去る。
>馬鹿な。
呻くベリアルに詰め寄り、剣をつきつける。
>そんなことは、ありえない。
>残念、わたしはルールに縛られていないの。
>そんな仕様はないぞ、モーンダンジョンに。
>お生憎様。
わたしは、ベリアルの首筋に剣をつきつける。
>ねえ、聞いていい?
>なんだ。
>もし本当に現実のあなたの生活が充実したものなら、なぜこんなところへ来るの?
>君には、共に生活するものには見せたくないような狂おしい情念はないのか?
>なにそれ、あるわけないじゃん。
>それは、君が子供だからだ。
>なんでわたしが子供って知ってるの。
>きもい、とかいう言葉を使う大人がいれば、それこそ気持ち悪い。
>なるほど。
わたしは苦笑する。
>で、命ごいしないの?
>無駄だろ。ログもなくなるのだね。
>存在した時間を遡って消滅させるよ。
わたしは、剣を振るった。
ベリアルの首が、無造作に落ちる。
そして、固有結界が消滅した。
わたしは、王座の間へ戻る。
奥の壁に、消滅の剣を突き刺す。
壁が消えて。
隠し部屋が姿を現す。
無数のレアアイテムに満ちた部屋。