035 「リアルじゃあない。ここでのことに比べれば」
マグナスは、黒の長衣をマントのように翻しながら前へ出る。
悪魔に裁きを下すミカエルのような笑みを、頬に浮かべ。
ゆっくりと。
>おいで、キモオタ。
わたしは、舌なめずりをする。
消滅の剣を、マグナスにむけた。
>現実世界と同じように、ここでも廃人にしてあげる。
>勘違いするな。
マグナスは唾棄するよに呟く。
>現実とはここだ。ここの外は、ただの幻さ。
>あ~、はあ
わたしは、笑う。
>奥さんに捨てられ、子供に相手されず、仕事場で馬鹿にされ
>勘違いするな。
マグナスは、鋭くいった。
>妻とは仲がいい。子供達もわたしを慕っている。
>へ~、そうなの?
>任されているプロジェクトも順調だ。ただ、
マグナスの瞳が昏く輝く。
>どれも、リアルじゃあない。ここでのことに比べれば。
>きもっ!
わたしの言葉は無視された。
マグナスは右手を天に翳す。
そして、さけぶ。
>古の約定にしたがい、暗黒回廊の神々に命ずる。
マグナスは腕を振り下ろした。
>時空を裂き、焔の鉄槌を降ろせ。メテオアタック!
わたしの頭上に、夜空が出現する。
ビロードの天幕に、無数の宝石を散りばめたような。
そして。
遠く高い夜空の果てより、紅い焔が降りてくる。
無数の流星。
ひとつひとつが戦術核兵器並の威力を持つ、焔に包まれた隕石。
百を超える数の隕石がわたしめがけて降り注ぐ。
さっきのドラゴンブレスとは比べものにならない破壊力。
地獄が出現した。
王座の間には、火山の噴火のような火柱が無数にあがる。
焔と黒煙のメエルシュトロオムがあたりをみたす。
ダンジョンの床は砕け散り、熱で気化する。
その、深紅の暴風が過ぎ去ったあと。
マグナスがコレクションしていたモンスターは、全て消滅していた。
モーンダンジョンの中で、最も強力な魔法が解放されたのだ。
破壊されないものが、あるはずはない。
ただ、ひとつ。
わたしの、セイバー・オブ・ブラックを除いて。
>はあ、は。どうよ? キモオタ。覚悟はいい?
>覚悟するのはおまえだ。
マグナスは、モンスターカードを取り出す。
>血の契約に基づき汝を召喚する、魔王ベリアル。